第15話 刻印武器の配布。
「じゃぁ、そろそろ私達は帰るとしますね」
「あ、あぁ、今日は楽しい時間をありがとう。お代はこちらで払っておくよ」
「あら、それは嬉しいわ。じゃぁ、またどこかで」
あの後ザドルの席へ着いたフローラ達。
ザドルに話題を振られて相手をしているうちに食事がきた。
初めは何処の人、この街は初めてか、街を見たどうだった、この後の予定は、女性だけの旅かなどと少しずつプライベートの話題に入って行くことにフローラはイライラを募らせたが、その質問に答える様にしてザドルから情報を集めていた。
ーーーはぁ、ほんと疲れたわ。顔がいいからって女がいい気になるなんて思わない事ね。
そうして食事も終えたフローラが、ある程度情報を集めたことに満足したために店を出ることにした。
流石に男と話すことのストレスに我慢ができなくなったと言うのもあるが。
内心疲れた様子で席を立つフローラに対し、同じように疲れた様子で彼女たちを見送るザドル。
本来であればこれほどの美女達との会話を楽しまないなんてことはないが、途中から感じる会話の誘導じみたフローラの口調に疲れてしまったのだ。
ーーー…せっかく休養のつもりできたのに、これじゃあ、王都にいる貴族を相手にしてる様なものだったじゃないか! まだ若いから簡単に堕とせると思ったが、くそッ!
彼女達の体を想像しつつ会話をしていたザドルだが、最後の方では余裕が失われていた。
この子は一体何を聞きたいんだ。
今、会話を誘導されたのか?
ファミリーネームすら聞けなかった。
繋がりも一切作れずじまいか、と。
フローラの見惚れる様な綺麗な薄青の髪、レンとランの水面に映る宝石を思わせる様な金と銀の瞳に最後まで見惚れるザドルだったが、彼の思考は何故話しかけてしまったか、で一杯だった。
「…『神の浄化』、『精神安定』、『処女の守り』。…ふぅ、貴方達にも掛けておいてあげたわよ」
「別に良かったのに…」
「私の体は穢れを知らない…」
「あんな視線気にしない…」
「「でもちょっと呪っておいた。ウフフ」」
店を出た瞬間に回復系スキルの中盤で手に入る浄化スキルを重ねがけするフローラ。
その顔は嫌悪感が溢れており、真っ白な綺麗な肌は若干鳥肌が浮かんでいる。
流石にあの男の思考を丸々聞いていた双子にも掛けてあげたフローラだが、当の本人達が怖い顔で怖い事を言っていたので、余計なことだったかと苦笑してしまう。
「まったく、あの視線がわからないわけないじゃない。130レベルをなめないでほしいわ」
「あの男、貴族のくせに弱っちぃ…」
「レベルは21…」
「「デコピンで一発…プププププ」」
聞いたところ、あの男、ザドル・ツファルガンは、父のツファルガン伯爵が治める領地から父と共にここの男爵に用があって訪れていたらしい。
普段であれば、ツファルガン伯爵は自らが治める領地で執務を行い、ザドルは王都にある貴族や大商人の子供が通う王立学院に通っているのだが、今は春の休暇で実家へ戻ってきていたのだ。
その時についでだからと父に連れられて男爵領まで来たとの事。
「まぁ周りのレベルが低いのはいい事よ。それだけカイト様が安全に旅ができるんだし」
「楽な旅…」
「世界征服?…」
「出来ちゃう?…」
「しちゃう?…」
「「カイト統一国家…カッコいい」」
歩きながら後ろにいる姉妹に話しかけると、思わず変な方向に話が行ったためについ振り返る。
すると、そこには煌々とした表情を浮かべるレンとランがいた。
わずかに金と銀の瞳が光っている。
ーーーまぁ、カイト様が一言仰ればカイト様の護衛に2人ほど残して、あとは国潰しに行くけど。
流石に賛成とは行かないまでもその力があり、快斗が一言言えば行くつもりでいるフローラ。
しかしそれは前の世界のレベルを基準にしていない。前の世界でそれを行えば、大陸中盤の街の門番にすらやられてしまう可能性がある。
この街のレベルを客観的に見ればできるとは思っているが、それはこの街基準な為まだ断言はできないでいた。
「…まぁいいわ。じゃぁそろそろ宿に戻りましょうか。カイト様を待たせるわけには行かないし」
「体を清めるの?…」
「まだ早くない?…」
「フローラには無理じゃない…?」
「「胸囲が、足りなくない…? ウププ」」
「っっ! 貴方達が大きいだけでしょ?! 私だって普通より大きいわよ!」
あからさまに胸を腕で盛り上げて強調するレンとランに、フローラは顔を真っ赤にして抗議する。
それと同時に、自分の胸を張って平均以上と主張するが、目の前の揺れる母性の塊に一瞬敗北感を得てしまう。
そうは言ってもフローラとて大きいほうだが、どうにも召喚石で召喚された女性は大きい子が多いために、フローラが埋れてしまっていたのだ。
NPCとして作られたためにスタイルがいいのは当たり前ではあるが、それでも悔しいものは悔しいらしく、フローラは勢いよく顔を前方に振って歩き出す。
ーーーカイト様は「普通」が一番のはずよ。いえ、私も大きいもの。大丈夫よ!
目線を下げて視界に入って来た自分の胸の盛り上がりを眺めつつ、内心で慰めるフローラであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
あの後に幾つか屋台を回り空腹を満たしたところで、快斗達は宿に戻る事にした。
元々は昼食の目的であったし、一旦戻ってからその後自由行動に移ればいいだろうと考える快斗。
「よし、みんな揃ったな」
快斗が部屋奥のベッドに腰をかけ、目の間にはアミエルを中心にして左右には女性兵士達が並んでいる。
皆が同じ黒をベースに金の線が走った軍服を着ているが、それぞれが少しずつ形が変わっている。
ーーーよく見たらちょっと違うなぁ。
アミエルはへそまでの軍服をきっちりと着用し、レンとランは胸元が大きく開いて白シャツで覆っている形をしている。
ーーーいや、今はそんな事どうでもいいか。
「えー、じゃぁ今から君たちに武器を上げよう。元々は俺が昔使ってたものだが今じゃ使えないからな。君達の武器よりも効果が高いはずだ」
「…おぉー」
「やったー!」
威厳を含めた声で言葉にする快斗に、目の前で整列している女性兵士達は嬉しそうに声を出す。
快斗はその表情を見ながら持ち物欄をタップして、予めピンで留めていた武器達を全て実体化させる。
「おぉー! めっちゃ綺麗!」
「…すごい」
「「光ってる…ピカピカ」」
快斗の目の前で9つのキューブが現れ、そこから光が漏れると中から様々な形をした武器が出て来た。
「じゃぁこれが君たちにあげる武器ね」
快斗は脇のベッドに並ぶ武器達を予め決めていた通りに渡して行く。
杖や、剣。
後は特殊な鎌であったり銃の形をしたものであったりと。
一人一人渡す過程で、感謝の言葉を丁寧に述べられて少し恥ずかしかったが、しっかり渡すことができた。
「えー、じゃぁ武器も渡した事だし夜まで解散な。自由行動で何しててもいいよ。資金は金貨1枚までな」
「カイト様、いいんですか? 金貨1枚も。先ほどの食事でも頂きましたが」
「あぁいいよ、どうせ余ってるし」
アミエルが疑問を投げかけるも、快斗は懐から金貨を数枚手に取り答える。
凡そ15枚。
それが残りの資金だ。
正直使うの早いとは思うが、資金の元になったポーションの残りだって100桁はくだらない。
必要になったらいつでも売ればいい。
「あ、でも悪いが護衛として2人は残ってくれないか? アミエル、決めてもらっていいか?」
「かしこまりました! ではーーーー」
刻印が刻まれた武器をおもちゃを与えられた子供の様に、キラキラした瞳で眺めていた女性兵士達の中で一人を指差した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
快斗を中心にアミエルとコルティエラが左右を固める。
統一された服に、明らかに高級感を放っている武器。
それに、それぞれが個性の強い性格のアミエルとコルティエラだが、殆ど歩調がずれずに快斗と一定の距離を保って歩いている。
ーーー…怪しいのはいない。でも、フローラが言ってた監視がいる。
コルティエラが『魔法系スキル』にある『探索系スキル』に分類される『空間把握』で怪しい人がいないかを確認する。
一人だけカイトの後からつける、男爵が派遣した監視を発見するが、すでに事情も把握してレベルも知っているため、『マーカー』スキルで場所を把握しておくだけにした。
ーーーむぅ、不快だな。カイト様が仰れば、葬ってやるんだが。
一方のアミエルは魔術刻印が刻まれた蒼い剣の柄に手を当てて歩く。
部屋に戻った時にフローラが全員を集めて情報を共有したが、快斗は面倒ごとを避けるために放っておくことにしたのだ。
色々な勘違いも、説明する義理もないため放置中だ。
「そういえば、随分とポーションを売ってきましが、大丈夫ですか?」
「ん? あぁ、大丈夫だよ。部下に生産系の隊員は居ないが、俺がスキルを取ればいつでも作れるしな」
「…みんな『中級ヒール』持ってるから中級ポーション以下は要らないと思う」
先程この街の薬屋で体力と魔力ポーションをまとめて売り払ってきたばかりだ。
随分と時間がかかってしまったが、かなりの儲けが出た。
大量に持って行ったから偽物と疑われが、本物とわかった瞬間の掌返しには少し苦笑してしまった快斗。
そんな事もあり150万コルは手に入った。
大金貨15枚分。
随分と金持ちになった気分だ。
ーーーいやぁ、ほんとポーションはかなり売れるなぁ! まぁそれ以外で売れるのが少ないから助かるけどさ。
「この後は武器屋で宜しいかったでしょうか?」
「あぁ、そうだよ。場所はわかる? 」
「少々お待ちください。『サーチ』」
探索系スキル『サーチ』を発動させたアミエルは、赤い瞳をわずかに翠色の光を放っている。
やはりこう行った演出はかっこいい、と快斗は上機嫌に頷く中、アミエルの脳内に地図が広がっていく。
戦艦にあるようなレーダー方式の探索であり、秒速10mで地図が広がっていく。
ゲームの時にあったメニューバーにある地図を快斗が使えればよかったんだが、異世界に飛ばされた事で全てリセットされてしまっていた。
何となく開く地図欄では、正方形の中に今まで通った場所だけは映し出されており、後は全て黒く塗りつぶされている。
ーーーいつか全て埋まるといいなぁ。
ゲーマー魂が揺さぶられ、地図を完璧に仕上げたい気持ちが湧き上がってくるが、それを沈めるようにメニューバーを閉じる。
「カイト様、見つかりました。このまままっすぐ行って、角を曲がったところにあります」
「わかった。じゃぁ案内してくれるか?」
「はっ!」
道中で敬礼するアミエルと同じように敬礼するコルティエラに、通行人の視線が一瞬集まる。
ーーーこれどうにかしたいけど、アミエル達聞いてくれなそうだし、どうしよう。
これからもこう行った調子であれば、男爵が勘違いしているように、高貴な身分と勘違いされて面倒が増えると懸念する快斗だが、それで敬礼をやめさせて士気が下がったら意味がない。
なる様になるか、といった楽観的な思考で、快斗は歩き出したアミエルの後を追った。
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