第14話 派手さ美しさに能力全振りの特別スキル

面倒ごとの予感がするフローラだが、すぐに対応すべく『無音領域』のスキルを解いておく。


「はじめまして、麗しいお嬢さん達。私はドーラン王国のツファルガン伯爵の息子、ザドル・ツファルガン。お嬢さん達の名前も聞いていいかな?」

周りの客が一瞬チラッと眺めるが、気にすることなくフローラ達の元まで来た金髪の美青年、ザドル・ツファルガンは優雅に礼をする。

流石に伯爵の子供なだけあり、その若さで完成された礼をしていた。


「私はフローラよ。銀髪の子がレンで、金髪の子がラン。それでどう言った要件かしら?」

「…、いえ、あまりにも美しいお嬢さん達が御来店されてね、少し話しをして見たくなったのさ。良ければあちらで一緒にお食事でも?」

座ったまま体を向けたフローラはあえて自分の名前に加えてレンとランの名前を言った。

正直レンとランに口を開かせると、目の前の青年を怒らせる様な事を言うのが無いとは言い切れないのだ。


ーーーあの美しさだし、何処かの貴族かとは思っていたが、これは相当に仕込まれてるな。


貼り付けられた様な笑みで答えるフローラに、ザドルは自分の母親が外様に作る笑みに似た何かを感じて、一瞬言葉に詰まる。


初めは慣れない土地に来たことにストレスを感じていたザドルが、目を見張る美女を見つけたことからつい声をかけてしまった。

このまま自分の顔と貴族という看板でいい思いをしようとしていたが、思わぬ地雷を踏んだかと、内心で思う。


ーーーまぁ、このままこの娘達と仲良くできていい思い出来れば嬉しいが、親との繋がりにキープしておければなお良い。


流石に声をかけといてさっさと身を引くのもプライドが許さない。

フローラ達の中の一人とは全く考えず、全員との行為を想像している思惑は、綺麗な外面では全く想像ができないが、レンとランには筒抜けであった。


ーーーフフフ、お馬鹿な男…。

ーーーえぇ、下半身直結脳のお猿さん…。


覗いた男の思考に嫌悪感を抱き、より一層作られた笑みが影を作りながら深くなる。


「…そうね、じゃぁご一緒しようかしら。レン、ラン、ご一緒しましょうか」

フローラは一瞬間考えるそぶりを見せるが、ザドルが貴族と知った途端に答えは決まった。


ーーーいい情報源じゃない。カイト様に良い手土産ができるわ。


レンとランに注意深く心を読む様に視線で語りかけると、双子の方は初めから予想していたらしく綺麗な笑顔を浮かべながら椅子をゆっくりと後ろに下げていた。







◇◆◇◆◇◆◇◆

時を同じくして快斗達の様子はと言うと、屋台前でのパフォーマンスを終え、観客の拍手や興奮を抑えて食事を取っている頃だ。

あの後、無事に子供も泣き止んだために安心して後ろの列に戻ろうとすると、前方にいた人がお礼といっても早めに買わせてくれたのだ。

店主も上機嫌に注文以上にサービスしてくれたので、快斗たちは笑顔で屋台を後にする。


「…上手いな。この値段でこれか」

「…美味しい」

1本30コルの串焼きを一口食べた快斗が感想をもらす。

モンスターの肉と言うからゲテモノ系と想像していたが、実際には綺麗な茶色の焼き色で、少し辛めのタレが絶妙に口にあう。

思わず頰が緩む快斗をアミエルが凝視していて、脇ではコルティエラが無表情でパクパクと食べている。


「カイト様ー、それよりさっきのスキルは何だったんですかー?」

「…そっか、キャンティ達は知らないのか」

一本を食べ終えたキャンティは舌で唇についたタレを舐めとると、目の前で食べていた快斗に投げかけた。

元NPCで有ればイベント時にもらえるスキルを知らなくても仕方がない。


「あれは特別スキルって言ってな、普通じゃ手に入らないスキルだ。ある時期に特別な行動をすることで神様から貰えるんだよ」

「おー! 凄いですね! それって私達でも手に入るんですか?」

「…そんなスキルが。研究したい」

何とかゲーム的表現をしない様に注意しながら説明すると、キャンティに加え、コルティエラの研究魂に火がついたのか、目を見開いて近寄って来る。

手に持った食べかけの串焼きが服に着きそうなのを手で押し返す快斗。


「んー、多分無理じゃないかな。一生に一回の時期だし」

「うぅー、あの綺麗なスキル使いたかったなぁ〜」

「…残念」

目に見えて残念そうに落ち込む二人に快斗は少し可哀想に思えてきた。

特別スキルは派手な演出や、美しさに能力を全振りした様なものが多いから、プレイヤーである快斗からしたらべつにコレクション以外だとそこまで必要性は感じていない。


だがキャンティ達のこう言った煌びやかなスキルが欲しいと言う気持ちのは、可愛らしい女心によるものだろう。


「別にそこまで凝る必要もないだろう。我々護衛はカイト様を守れるスキルがあるだけでいい」

「そうは言っても隊長もさっき魅入ってたじゃないですかー!」

「む、あれはただカイト様が使ったスキルに魅入ってただけだ」

護衛第一のアミエルが落ち込むキャンティを慰めようと言葉をかけるが、少し逆効果だったみたいだ。


ーーーまぁ、既存スキルでもこう言った遊びも出来るから後で教えてあげるか。キャンティならまだレベルもあげられるし、持ってなかったら取ればいいしね。


既に快斗の使ったスキルの美しさを語り出すキャンティと、それを頷きつつも実用性重視のスキルが一番だと主張するアミエル。

研究ができないのであれば仕方ないと割り切ったコルティエラは我関せずと串焼きを頬張る。


ーーーそう言えば、さっき特別スキルを使ってレベルが上がったんだよな。それに確かまだレベル1のスキル習得してなかったしやっちゃうか。


二つのスキルを使ったことでレベルが上がった快斗は、それを確認することにする。

それに、レベルがリセットされたことのショックで忘れていたが、レベル1は一つのスキルを取る事ができたことを思い出す。


①名前:カイト・コンノ

性別:男

種族:人間族Lv.2 (残りパラメータ12)

HP:150/150

MP:150/150

STR:20

VIT:20

DEX:20

AGI:20

INT:20

MAD:20

スキル:

特別スキル:春風、ドラゴンチェンジ、チョコレートクラッシュ、スノーハレーション、小銭投げ、告白粉砕、トリックorトリート、打ち上げ花火、デストロイロケット、隠れん坊、木偶の坊、操りドール、スカート捲り風、告白花火、ココロリセット…


レベルが1上がっており、その横ではレベルが上がるごとに自分で割り振るパラメータが12ポイントと表示されている。


「…しょぼいなぁ。いや、これがレベル2だったっけ」

上がったはいいが、それでもあの最高レベル200との差に愕然としてしまう。


パラメータに関してはまだ成長方向決まっていない為に今はまだ振らないでおく。

ゲーム内であれば課金アイテムのパラメータリセットが使えたが、快斗が今持ってるパラメータリセットアイテムの数は、6つ。

6つ有れば十分だと思うだろうが、万が一アミエル達の成長方向に迷った場合のために残しておきたいと考える快斗。


「…え? 変わってる?」

点滅するスキル欄を指で押すと、快斗は思わず目を疑った。

いくつものスキルツリーが横に並んでいる様子はゲームの時と変わらないが、それ以外が少しずつ変わっていた。


ーーーツリー名がしっかりしている。ゲームの時とは違うからか?


はじめに目に入ったのは、ゲームの時は戦闘系、魔法系と大雑把な分け方であったものが、しっかりと区別されて別れている。

左から順に「戦闘系スキル」、「魔法系スキル」、「生産系スキル」、「回復系スキル」、「特殊系スキル」と。

「その他」であったものが「特殊系スキル」へと変わっているのも大きいが、それ以上にその区別された枠内に、いくつもの小ツリーがあり、事細かく別れている。

「戦闘系スキル」で有れば、「行動系スキル」、「遠距離系スキル」、「近距離系スキル」などと言った様に。


ーーーあるスキルは変わっていないが…、いやいくつか知らないスキルが増えてる。


これを見たことでゲームの時とスキルが変わっているかと心配になったが、幸いなことに重要なスキルは消えていないことに安堵する。


ーーーまぁ、見やすくなったのはいいけど、スキルの効果が変わってるのが多いな。


適当にいくつかのスキルをタップしては詳細を確認していく快斗。

ゲーム内で有れば〜%カットや、クールタイム〜秒軽減といった、ゲーム特有の表記が現実に即したものへと変わっている。


それに、ゲームでは使えなかったスキルが、現実となったことで使えそうなものへと変わっているのがいくつもあった。

例えば、戦闘系スキルの行動系スキルにある『両手武器』。

これはゲーム内だと武器の持ち手を瞬時に変えることができると言った、実用性皆無のスキルだったが、現実となったことで表記が変わっていた。


『両手武器』…利き手を両手にすることができ、このスキル発動時、武器を逆手に瞬間移動させることができる。


と言ったものだ。

正直、かなり強い。

例えば振り切った腕の状態で相手の視線が武器に行っている隙に、逆手に移動させた武器で背後を突くことができる。


ーーーこれは、現実となったことでスキルの効果が変わったのか、それとも、NPCである彼女達は初めからこの認識だったのか?


未だにガヤガヤと騒がしいアミエル達に視線を飛ばした快斗。


「なぁ、コルティエラ、ちょっといいか?」

「…何ですか?」

「『両手武器』ってスキル、どう思う?」

あえて認識の違いが露呈しない様に曖昧な表現で聞く快斗に、コルティエラが白い髪を揺らして首をかしげる。


ーーー…スキルの効果について聞いてるのかな?


「…いいスキル。接近戦では必須のスキル。みんな持ってます」

「…そうか、ありがとう」

それでも聞かれたことに答えたコルティエラ。


そのまま再び思考するように考え出す快斗にまた首をかしげる。


ーーー…これで良かったのかな。



「…これが現実とゲームの違いか」

「…どうしました?」

「いや、なんでもないよ。ただどんなスキルを取ろうかなって思って」

「…くすぐったいです」

「そっか、ごめんよ」

その無表情が無性に可愛らしく思えた快斗は、つい子供の様にコルティエラの髪を撫でてしまう。

くすぐったそうに頭を揺らすコルティエラだが、一向に嫌がる気配がなく逆に快斗の手に頭を押し付ける。

快斗もそれが嬉しく感じて、余計に撫でていた。


ーーースキルの効果も変わったし、まだ取るのは早いか。今日の夜に全部スキル把握してからの方が後々失敗しなさそうだし。


「ほら、アミエルもキャンティもそれくらいにしていくよ。まだ時間もあるんだし、街を見て回る」

「はっ! 了解しました!」

「ぶぅー、了解しましたー」

コルティエラを撫でていた手を離して、アミエル達の元まで行った快斗。

アミエルが即座に背を伸ばして敬礼し、キャンティが若干の不満を頬を膨らませてアピールしながらも敬礼をした。

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