第13話 心読スキルで全て筒抜け。

快斗達が宿を出た十数分後、フローラ達は彼らが向かった方向とは違った方向へと歩き出した。

フローラが疲れたように肩を下ろしつつ前を歩き、後ろには銀髪のレンと金髪のランが、肩を揺らしながらついていく。


「ウフフ、見てる見てる…」

「こっちを見てる…」

「なんでだろー…」

「なんでかな…?」

「「ウフフフ」」

彼女たち3人の美女が一緒に行動している事と、瓜二つの端正な顔が注目を浴びている。

隣を通り過ぎていく男女は、一旦は正反対な髪色をした彼女たちに視線を奪われていた。


歩きながら手を合わせているレンとランは自分たちが注目を浴びていることをわかりながら言葉を漏らす。


何故わかるのか。

聞こえるのだ。

周りにいるすべての人の心の声が。


彼女達の持っているスキル、魔法系統精神系ツリーの中盤で手に入る、心読スキルがそれを可能にしていた。

『世界の果てには』でこのスキルと言えば、敵モンスターのAI的思考回路をポップとして見せることで、プレイヤーに相手の動きを先読みさせるためのものであったが、これも現実となったことで少し変わっていた。

対象がモンスターだけでなく、全ての生命体へと。


魔法系統の中盤であるから、戦闘系統をメインにしている人はとることがなく、魔法系統であってもキワモノが多かった精神系ツリーをとる人は希少であった。

そうはいっても、精神系のスキルツリーは後半になればなるほど強力になるために、初心者救済の兵士召喚石では精神系を極めた彼女たちが存在していたのだ。


「…いいから落ち着いてよ。とりあえず、もう私が決めちゃうわね?」

「責任重大だね…」

「ハズレだったら取っちゃおうか…」

「ウフフ…、そうね、取っちゃいましょう」

「「可愛い可愛い、ピンクパンツ…ウフフ」」

スキルを発動して人の思考を読んで楽しんでいる双子に呆れつつ、早く昼を食べたかったフローラは足を進めるが、再び姉妹のセリフにイラっとくる。

でも、ここで真剣に対応しても無駄なだけだ。

そう自分に言い聞かせたフローラは、ぐっと我慢する。


ーーーこ、これを我慢した私は偉いわ、えぇえらい。きっと神よりも偉い気がするわ。


額に怒りのマークを浮かべるフローラを筆頭に入ったお店は、大通りを進んだ先の町の中央部にある大きな食堂だ。その店は。中央に行くにつれ外観が華美になっていく中で、最も高級感の溢れる外観をしている。

フローラの中では懐にしまっている金貨で足りるかと言う心配はない。

ここに来るまでにある程度物価の把握をしていたフローラは、この店の外観から一人金貨1枚で足りると予想をつけていた。



外観から分かる通り、彼女たちが冒険者組合で見たような男達などはいなく、居るのはキッチリとした服に身を包む男女であり、静かに食事をしている。


「…へぇ、いいところじゃない。それに席も空いている様だし直ぐに食事ができそうね」

落ち着いた様子の店内をちらっと確認したフローラは、満足げに頷いてレンとランを店内に入れる。


「いらっしゃいませ。3名様でよろしいでしょうか?」

「えぇ、それでお願いできるかしら?」

「ではただいま席にご案内いたします、こちらへどうぞ」

フローラ達の入店を確認した人間族の男性店員は、きれいにお辞儀して手でフローラたちを案内する。

顔で選ばれているのか、随分と整った顔立ちをしている。


よく教育された店員だと感心するフローラだが、後ろからそれをぶち壊すセリフを耳にする。


「聞いちゃったね…」

「うん、ばっちり聞こえたね…」

「「あの人私たちがタイプらしいね…。フローラ…、ぷぷぷ」」


ーーーこいつらあああああ!!! 別にあんな男にどう思われたって関係ないわよ!!


そう心では言い訳しつつも、自分が苦手とする同僚に外見で負けたことがひどく彼女のプライドを傷つけた。


ーーー我慢よ、私にはカイト様がいるもの。最終的に選ばれるのは、レンでもランでもなく私、そう私よ。


あふれる怒りを妄想で沈めながら店員に案内されたテーブルへと向かい、席に着く。


そのあと席に着いたレンとランを確認した店員が注文を聞いてきたが、フローラはどうせ初めてである為、おすすめメニューを食べることにした。

レンとランは、どうやら初めから決めていたらしくメニュー表を見ることなく、直ぐにそれぞれが別の料理を注文する。

彼女たちは店に入った時からすでに客の思考を分析して最も人気のメニューを把握していたのだ。






「スキル『無音領域』、『意識遮断』」

一旦呼吸を置いたフローラが唐突にスキルを発動させた。


『無音領域』とは魔法系統の中盤で手に入るスキルであり、この一つ前のスキルである『無音』が自分の音だけの遮断であるのに対し、これは自分を中心とした一定領域の無音化ができるものだ。


フローラが小声で発動させたことで、フローラを中心とするレンとランの3人の声を周りには聞こえなくなっていた。


それと同時に発動させる、他人の意識を逸らさせるスキルを併用する事で、音がない事をおかしな事として認識させないようにする。


スッと眼鏡の奥の瞳が細くなり、目の前の双子を見つめるフローラ。

一方の二人は先程の表情に変化は見られないが、纏っている雰囲気が変わった。


ひどく、歪んだモノへと。


「…それで、何か収穫はあったの?」

「…ンフフ。もちろんもちろん」

「…ぜーんぶ見ちゃったもん」

「「心の声が、聞こえちゃった」」

フローラの問いに、面白そうに返すレンとラン。

彼女たちはただ遊んでいたのではない。

道行く人から町の情報やその人の思想などを覗き見て、情報収集を行っていた。


「じゃぁ、重要のものから教えてちょうだい」

「…じゃぁあれだよね? あれ」

「…そうねそうね、あれね」

「「…尾行してる人だね」」

「そうね、宿を出たあたりから視線を感じたわね。それで、目的は?」

フローラは驚く事なくレンとランに続きを促す。

フローラや、他の女性兵士が尾行に気がつかないわけがないのだ。

そもそも100レベルを超えた時点で人の六感が驚異的な程に跳ね上がり、やろうと思えば目をつぶって周りの人数と位置を把握できるのが壁越え冒険者だ。

その上、探知系のスキルや、空間把握のスキルを大量に抱える彼女達が気がつかないわけがない。


「目的は私達の監視?」

「男爵の手先?」

「カイト様にもついてる…」

「勘違いの加速…」

「「フフフ、お馬鹿な男爵」」

「ちゃんと詳しく話しなさいよ!」

口角を上げて笑うレンとラン。彼女達は自分たちだけの情報共有で、満足そうに頷いている。


この独特なテンポに、再びフローラのストレスが加速した。


ーーーこの子達、一々交互に話さないと気が済まないのかしら!? 全然話が進まないわよ!


鋭かった雰囲気が少し崩れてしまったが、続きを促していくと話の全容が理解出来てきた。


レンとランが心読スキルで尾行していた者から得た情報を纏めるとこうだ。

尾行していた者はこの街トータルを治めるダーリン男爵の名で尾行の任に就いた冒険者であるらしい。

彼ら冒険者は、昔からこの街で活動を行なっており、活動記録も評判も良いことから男爵からの評価はかなり良いのだ。

そう言った理由で度々男爵からの直接依頼を受けることが多く、今回の話も急な案件であったが受けた、との事。


冒険者が男爵から聞いた情報は今回の監視する者は帝国の皇子である可能性があり、護衛の者がかなりの強者である事。

今回与えられた任務は監視の役割だが、どちかと言えばこの街の者がちょっかいをかけないように見張るといった面が強い。


ーーーザベルニオ・ダーリン男爵ねぇ。それにカルバット帝国にドーラン王国。まぁカイト様が王子に勘違いされてるのは別にいいけど、監視は不快よね。


知らなかったダーリン男爵領の事や、男爵が属するドーラン王国の王国最南端の一部に、カルバット帝国の最北端が伸びるようにして隣接しており、そこが男爵領であることが知れたのはかなり満足のいく結果だ。


この街を出ていくときに帝国に行くにしても、王国を回るにしても地形把握は最優先事項である。




「それにしても、そこまで周りのレベルは低いの? 150でそんな驚かれるなんて、私達の方が驚くわよ」

「…ほんとほんと」

「…この街の平均レベルは23」

「最高レベルはカイト様の尾行についた男で32…」

「「ビンタで一撃…ウフフ」」

「なんでそこでビンタなのよ」

レベルの話になった時に、変な言い様をするレンとランにツッコミを入れつつ、フローラは考える。

前の世界ではそんな低レベルの平均なんて、本当に序盤。

例えるなら始まりの街くらいである。


しかし、聞いたことのない国に、知らない地形。


ーーーもしかして全く別の世界に来たのかしら?いえ、でもスキルもちゃんと使えるのはどうして? スキルは神の恩恵なのに、世界が変わったら神も変わるはず。


フローラ達元NPCの認識ではスキルや超常的ステータスなどは全て世界の始まりに神様が与えた力といったことになっている。

そういった理由で、普通であれば神の理を超えた世界ではステータスなどは意味をなさないか、この世界に合った形へと変わると思っていた。


「じゃぁ私達はこれからはレベルを見せるのを控えた方がいいわね。隊長はもうしょうがないとして、これから隊長だけのステータスを見せるだけでどうにかなればいいのだけれど」

「普通にやってたら…」

「無理だね…」

「他の街はここ以上に…」

「「ちゃんとしたステータスチェックがある…」」

兵士長の考えていた事を知っているレンとランはステータスチェックの実情を話す。


そうは言ってもフローラに心配はない。

レベル差が圧倒的に開いているなら、通じないスキルなど無いのだから。

ならいくらだってやりようはある。


「まぁカイト様には隊長がついてるし、治療特化のキャンティもいるんだし大丈夫でしょう。それで、他には?」

「特に無い、平凡な街…」

「でも大きいから一杯施設はある…」

「あ、貴族が多い…」

「帝国に近いもんね…」

「「私達の近くにも、ほら来た…」」

尾行についてある程度完結させたフローラが次を促す。

レンとランによると、それと言った変わったものもなく、人もそこまで危ない人がいないとの事だったが、急に息を合わせて視線を変えた。

彼女達が向く先は、奥のテーブルからこちらへと向かってくる華美な格好をした青年。

フローラが視線を向けると、綺麗な金髪が特徴的な美青年が、ジッと彼女たちを見つめて足を進めて来た。

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