第12話 褐色肌の銀髪金髪双子姉妹。
「さっきからうっせんだよガキが!!黙ってならんどけや!」
その声に伴いようにして上がる子供の泣き声。
ーーーなんだ? トラブルか?
サッとあたりを見渡すと、快斗達が並ぶ列の少し前でザワつきがあった。
「トラブルでしょうか? どうしますか? 黙らせてきますか?」
快斗が大人の怒声に顔を歪めたのを見たアミエルは、前方の争いを黙らせようと動き出す。それに伴ってキャンティとコルティエラがスッと快斗の脇に控える。
「いや、そこまでする必要はない、が。随分と長く怒鳴ってるな」
手でアミエルを制した快斗は、流石にわざわざ止めに行く必要性を感じてないが、ずっと続く怒声と子供の泣き声の不快感に顔を歪ませる。
ーーー子供にそこまで怒鳴る必要はないと思うんだが。
それに母親であるのか、女性の制止の声が聞こえる。
同じく並ぶ客達が声の発生源に注目し出し、自分の店の前での争いごとに屋台の店主が手を止めて困った表情をしている。
「…列が止まったか。…仕方ない、ちょっと様子を見に行くか。キャンティ達は悪いが列に並んど居てくれ。俺は様子を見に行く」
スッとアミエルを制していた手を下げると、後ろにいた客に一旦お辞儀をして列を抜けると前方に歩き出す。
百九十を超える屈強な男が、地面に座り込んで泣いている子供に怖い顔を向けていた。
隣には母親と思われる女性が子供をの前で男に頭を下げている。
「ったくよぉ! オメェがクソガキの親かぁ? 教育がなってねぇじゃねか!」
「す、すみません!どうか許してもらえないでしょうか?」
まだ若そうな、20代後半の女性が申し訳なさそうに頭を下げる。
周りが不快そうに視線を向ける中、止めに入ったりしない様子を見た快斗はそのまま男と子供の間に入った。
「どうしたんですか? 周りの迷惑になってますので落ち着いてください」
「はぁ? オメェには関係ねぇだろ」
「いえ、私もこの列に並んでるので、ここで止まると困るんですよ」
でかい図体で凄んで来た男に快斗は一切怯まず、笑顔で事情を話す。
ーーーこっわ。なんだこの顔。極悪人みたいだ。
快斗は隣に控えるアミエルがいる為、今のレベルでも堂々と話せた。
何かあれば必ずアミエルが止めてくれると信じているからだ。
「貴様、それ以上カイト様に近づくな」
「あん? って随分と綺麗なねーちゃんじゃねーか」
快斗に少しづつ近づいていた男が快斗の前に出たアミエルを見ると、一瞬目を見開いて歪んだ笑顔を見せた。
「じゃぁここは静かにしてやっからよぉ、ねーちゃんちょっと一杯どうーーー」
ゲスな笑みでアミエルの細い腰に手を回そうとした男だが、すぐに気がついた。
自分の喉元に剣先がある事に。
「…死にたければ近づくといい」
「…じょ、冗談だって! わ、わかったからちょっと引いてくれ!」
射殺すような瞳でアミエルが震える男を見つめている。
「アミエル、やめろ。騒ぎが大きくなる」
「っは!」
快斗が突然の出来事にアミエルの腕を掴んで止めると、アミエルはすぐに剣を下ろして鞘に仕舞う。
「それで、静かにしてもらえますか?」
「あ、あぁ、勿論だ!」
アミエルの腕を握ったまま男に目を向けると、壊れた人形のように頷いている。
べつに列から抜ける必要はなかったが、このままここにいるのは居心地が悪いと感じた男はゆっくりと列を外れて去って行く。
ーーーったく、いい大人がさわぎをおこすなよなぁ。それにアミエルがここまで短絡的とは。
「アミエル、ちょっと短絡すぎだ」
「も、申し訳ありません!」
少しため息ながらも注意した快斗を、アミエルは掴まれた腕と交互に見ながら薄っすらと赤らんだ顔で頷く。
アミエルの意識は今全力で快斗に掴まれた腕に集中していた。
ーーーか、カイト様が私に触れている…!
見られるのはそこまで気にはしないが、実際に触られると予想以上の幸福感に内心で若干興奮するアミエル。
アミエルの心情を知らずに、そのまま未だ嗚咽を漏らす子供に体を向ける。
「本当にありがとうございます!」
「いえ、べつに構いませんよ。それより、君は大丈夫かい?」
頭を下げる母親に、男に怒鳴られて未だに泣いている子供。
快斗に返事をしなかった事にまた申し負けなさそうに誤る母親に、快斗はこの場をどうしようか悩む。
ーーー問題を解決したはいいけど、なんかみんな注目しいてるし。
安心したように息を吐く店主に、この後どうするのかと見守る客達。
快斗としてはこのまま泣いている子供を放っておくと、なんか悪いような気がして去りにくい。
「…そうだ、じゃぁ今から俺が面白いものを見せてあげるよ」
「…え、面白いもの?」
快斗がしゃがんで子供の頭を撫でると、子供は涙目目を濡らしながら、少し興味がありそうにじっと眺める。
ーーーお、少し泣き止んだか。まぁ、特別スキルは残ってたんだし、アレはまだ使えるだろ。
「じゃぁ見ててね」
周りの客も少し興味が出て来たのか、列から広がるようにして快斗を見つめている。
アミエルはスッと快斗の後ろに休めの姿勢で控えた。
「スキル『踊る光人』」
快斗がスキルを発動させた瞬間に、快斗の上空に光の線が出現し、そのままいくつかの人型を作る。
かなり精巧に光が走り、誰もがその光景に一瞬息を飲んだ。
こんな事で終わりではない。
そのままいくつかの人形が踊り始める。
まるでお伽話のような王子の光の絵が、隣に現れた光の絵の姫の手をとる。
上空をくるくると動き、周りには同じように人型の光ができて同じように動いている。
その光景は屋台の近くにいなかった人も足を止めて、何事だと近寄って来た。
ーーーよし、上手くいったか。こっちの世界でも出来るのは幸先がいいな。っと、ラストに迫ったか。
このスキルを何度も見ていた快斗は終わりを知っている。
音がないから終わりは突然のように訪れるが、それでは少し味気ないためもう一工夫するのが定番だった。
「スキル『花火ポップ』」
終盤と同時に発動させたスキルは、踊る光達の後ろに小さな打ち上げ花火のポップが出現し、そこは小さな世界を作り出していた。
「す、凄い、お兄ちゃん!」
「あぁ、すげーなぁ!」
「なんだなんだ、魔法使いか?!」
泣いていた子供はかなりキラキラした瞳で快斗を見上げ、周りはかなりの盛り上がりを見せて拍手が巻き起こって行く。
ーーーちょっとやりすぎた感はあるけど、まぁいいか。丸く収まったし。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「…それで、私達はどうしますか?」
宿の一室。
フローラは快斗から受け取った金貨3枚を手でいじりながら同室の同僚に語りかける。
若干の不満と疲れを浮かべた顔をしている。
ーーー全く、ジャンケンで負けてカイト様と同室になれないのは悔しいけど、まさか同室が彼女達なんて。
「どうするって…」
「もちろん…」
「食事に決まってる…」
「じゃない?…」
「「おバカ…うふふふふ」」
人形を彷彿させる西洋風の端正な顔を持った二人の女性兵士が、馬鹿にしたように嘲笑の笑みでフローラを見つめている。
ベッドの上で互いに言葉を発し、最後は笑いながらクルクル回っている。
「っっ! そんなことは分かってるわよ! 場所のことよ!」
フローラは湧き上がるイラつきを抑えようとしたが、我慢できず声を上げた。
ーーーだから嫌なのよ! この子達との同室は!! ストレスで死んじゃうわよ!
今まさに、両手で身を抱き寄せてウフフと貼り付けられた笑みを浮かべるのは、レン・テュラン。
ワザと体を抱き上げている腕は、あからさまに豊満な胸を強調している。
艶のあるストレートの銀髪が綺麗に切り揃えられており、彼女の健康的な褐色の肌と色合いがとても美しく出来上がっている。
その端正な顔に乗った綺麗な金色の瞳が作っているのは、綺麗な三日月の形。
一方、両手を後ろで組んだポーズで同じように笑みを浮かべているのは、ラン・テュラン。
体を前方に傾けた事で強調されて胸は、後ろの腕を揺らす度に大きく揺れる。
純金を思わせるストレートの金髪がレンと寸分たがわず同じラインで切り揃えられ、褐色の肌の上からでもわかる肌のきめ細やかさが綺麗な金髪とマッチして彼女の美しさを強調している。
髪と対照的な銀色の瞳が、面白いものを見たように見つめているのは、目の前のフローラ。
「カイト様に振られちゃった…」
「可哀想なフローラ…」
「エセお嬢様はボロが出る…」
「だってパンツは可愛らしい…」
「ピンクだもの…」
「「ウフフフフフ…」」
予め決めてあったように、息のあった動きで互いにポーズを変えて行く双子のレンとラン。
「…あ、あなた達、やっぱさっき見てたんじゃない! ちょっとそこに座りなさい! トイレを覗くなんて酷いじゃない!」
「だってカイト様にどんなパンツを…」
「見せようとするのか…」
「「気になっちゃったんだもん…すんすん」」
「って、まだ見せないわよ! それにこれは見せる用じゃな…って、笑いながら嘘泣きしないでちょうだい!」
先程快斗達が行ったイベント同様に、トイレ中に扉を開ける開けられたフローラは、額に筋を浮かべながら立ち上がる。
乙女のフローラは少し顔を赤らめ、金髪のレンと銀髪のランに近づく。
ーーー本当にこの子達は!! 私は鍵をかけてたのよ?! それをスキルで開けるなんて、思春期の男子でもしないわよ!
癖の強く、イタズラが好物の彼女達と同室になってフローラの苦労は重なって行く。
快斗に出されてからというもの、護衛の休憩中に度々イタズラを仕掛けられているフローラ。
それにわざわざ声を上げて注意していたことから、他の同僚達から仲が良いと勘違いされ同室を押し付けられてしまっていた。
「…ふぅ、まぁいいわ。早く外に行くわよ。カイト様と隣ももう行っちゃったし、私もお腹が減ったわ」
「しょうがないフローラ…」
「どんどん肥えるフローラ…」
「「子豚のフローラ…コブローラ。ウフフフフフ」」
「っっっ! 早く出ろーーー!!!」
ーーーあぁ、本当に先が思いやられるわ。
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