第11話 ザベルニオ・ダーリン男爵

「…それで、兵士長の君が何の用だ? 私は今大変忙しいのは分かるだろう?」


ダーリン男爵が居を構えてるトーテルの町の中央部に存在するコンクリートブロックでできた大きな館。


その一室で執務を行なっていた30代半ばの男は少しイラついた表情でデスク上の紙にペンを走らせながら、目の前で立っている兵士長に答える。

この男齢35にして、辺境であるが余った土地を広く抱えている男爵領のトップになったザベルニオ・ダーリン。


半年ほど前に父である元男爵が体調を崩された事により爵位を継いだ今、ザベルニオはトーテムの管理だけでなく、他の村や土地の管理でかなり忙しい日々を送っている。

それに、他にも大きな要件を抱えているのだが、その中でまた問題ごとを持ち込んだのかと若干のイラつきを顔に出す。


「だから、言ってるじゃねぇすか。 レベル150の冒険者を連れた、偉そうな若い男が街に入ったって」

「だから、まさかそれが本当に信じられると思うか? 訓練で疲れたか? ん? 休暇をとってもいいぞ」

「…本当なんだって、ほら、これ、証拠に持ってきたぜ」

明らかに与太話と思っているザベルニオだが、それでも疲れた様子で主張し続ける兵士長に一旦筆を置いて聞いてみると、どうやらステータス計測器を持ってきてるらしい。


ーーーったく、計測器は持ち歩くのは原則禁止なんだけどなぁ。


「どれ、見せてみろ」

懐から取り出したプレートをザベルニオが座る前のデスクにスッと置いたので手にとって目を向けた。


「…、あれ、疲れてるのか?」

「…現実を受け入れてくれよ」


ーーーはぁ?! なんだよこのステータスはよ!


どれだけ目を擦ってもザベルニオの眼に映るのは人間族Lv.150という数字のみ。


「…おかしい、確かに今世代は壁越え冒険者が一番多いって言われているが、それでも105とか、よくて110だぞ。150なんて数字、あり得るのか? 人間族で」

例え人間族でなくても、150が有り得ない偉業であるのは間違いないが、精霊族という長寿ですらない人間族が、生きている間に到達できる数字ではないはずだ。


「…俺は報告しましたからね、じゃぁ仕事に戻るわ」

「ちょ、ちょっと待て ! それで、今そいつらはどこにいる?!」

「歓迎用の宿だ。まぁ、こんなヤベェ冒険者連れてるんだ。流石に大丈夫だとは思うが、あれ以上上がねぇから我慢してもらうしかねぇ」

外から訪れる富豪や、他の貴族の方を泊める事を目的とした宿で有り、トーテル最高の宿だ。


ーーーしかし、もしこの冒険者が何処かの国の隠し戦力だとして、その護衛対象は自ずと王族になってくる。いや、隠し戦力なら普通ステータスを計らせるか?


いくら考えても、150レベルの冒険者が存在する理由もわからず、この街にきた目的、どこの王族を護衛しているのかも把握できない。


思わず声を荒げたザベルニオは咄嗟に頭を働かせて考える。


一方の兵士長はこれ以上は自分が居ても意味ない、それに疲れたから一度休憩したいという気持ちで部屋をこっそり抜ける。


ーーーうちのドーラン王国の隠し戦力って訳じゃないよな。そもそもそんな戦力抱えられるほどうちの国は戦力に力を入れていない。なら、隣の帝国か?


ダーリン男爵が治める男爵領は、ドーラン王国の南部にある大国のカルバット帝国との国境に程近い位置にある。


そもそもがこの星では巨大大陸が一つあり、他はいくつかの島が点々と存在している。


その巨大大陸を支配しているのが、四つの大国。

一つは北部一帯を治めるドーラン王国。

二つ目がその南部にあるカルバット帝国。

帝国の北部の一部が伸びるように左右にある小国群に突き刺さるようにして北部のドーラン王国に接触するような形になっている。

そして、左右にある小国や大きな森林を挟むように、西部の海沿いに細く伸びたマリマトル聖王国。

他の国とは隔離されたように一番離れた東に位置するフロントリン共和国。


そもそもが100レベルに到達する人類などほとんどいなく、その上に希少な壁越えがいるのはこの四つの大国のどれかだと絞る。

流石に小国が抱えていたら、その国は直ぐにでも4大国を支配できるほどの力を有していることになる。


レベル100が1人居るだけで、兵士が百居ようと千居ようと相手取れる。

150もあれば周りの小国など手中に治めるなど容易すぎる。


ーーーしかし、この位置からして帝国か? 戦闘狂が多い帝国なら150レベルの行くような狂ったやつくらいいそうだが、報告で聞いた限り若い女だ。


その上種族欄が人間族であるから精霊族の様に外見以上に生きているというわけではない。


ーーーならマリマトル聖王国か? あそこは全国民が何らかの神の信者といって間違いないし、狂信者も多いからなんらかの方法で生み出したのか?


一旦落ち着くようにイスに座りなおすと顎に手を当てて考える。

流石にフロントリン共和国は距離があるすぎるため候補から直ぐに外す。


「…ダメだ、わからねぇ。取り敢えず監視は付けなきゃまずいし、国王陛下に報告する必要があるか」

これ以上考えが及ばなくなったザベルニオは、先ほど書いていた紙を乱雑に避けると、最高級紙と専用の封筒を机から取り出した。

そのままスラスラと書き上げる。


「…丁度明後日には視察が王都から来るし、その時に渡すか」

書き上げた紙を丁寧に封筒にしまうと、その開け口に特殊な魔術刻印が刻まれた印鑑を押す。

この印鑑は予め決めているもの、王都にある城のもの以外は開けられなく、無理やり開けた途端に炭となって消える効果が付与される。


それを大事そうに一旦机にしまうと、直ぐにメイドの呼び鈴を鳴らした。


監視を付けるために。





◇◆◇◆◇◆◇◆

あの後他の隊員にこの後の予定を伝えに行ったキャンティが戻って来ると、快斗達は昼を食べに出かけることにした。

流石に朝の時のように10名以上の団体で移動するには少し目立つし、それ以上に邪魔になるため、部屋別のグループで別れることにした。

その時に昼食代として一人金貨1枚を渡したが、正直足りるか心配だ。


「カイト様、どこ行きますか?」

「そうだなぁ、アミエル達が食べたいのはあるか?」

快斗の横を歩いているアミエルが快斗に尋ねるが、逆に快斗が横のアミエルと、後ろを歩くキャンティとコルティエラに尋ねる。

快斗としては別世界の料理に興味もあり、行き当たりばったりで構わないと思っている。


「私はカイト様にお任せします」

「私もなんでもいいですよー」

「…美味しいもの」

「…じゃ、じゃぁ適当なのでいいか」

案の定快斗に委ねた為、若干苦笑しながらも快斗が決めることにする。


即答したアミエル達は周りを眺めながら足を進ませ、快斗は美味しいもの探しに足を進ませる。

互いが警戒と好奇心と言った違った目的で。


お昼時であるせいか、宿から伸びていた大通りは屋台がいくつも出ている。

冒険者の格好をした男達が買っていたり、主婦にような女性が子供を連れて値切っていたりと、結構な賑わいがある。


その中で特に賑わいを見せていた屋台があったので並ぶ事にした。


「焼き鳥みたいだなぁ。それにしてもアレはなんの肉だ?」

「トルケリアスって言うモンスターの肉みたいですよー。毒もないみたいです」

僅かに後ろにいたキャンティが茶色の瞳を微かに光らせて屋台で焼かれているお肉を眺めていた。


彼女は今鑑定のスキルでその肉の詳細を見たのだ。

鑑定はその他系にあり、かつ最初の方のツリーにある為、ほとんどのプレイヤーが持っていたものだ。

運営のお遊びか、こう言った目を使ったスキルは瞳の色が光るようになっており、それもスキル別で色が変わる為、快斗は少し気に入っている。


かっこいいからと言う理由で。


「トリケリアスか、聞いたことないモンスターだなぁ。アミエル達はあるか?」

「…私達が居た大陸には存在して居なかった」

アミエル達が首を振る中、コルティエラがボソッと呟く。

コルティエラのスキル構成は、補助寄りであり、特に強いのは研究系スキルだ。

そのスキルで魔物図鑑というものもある為、コルティエラはゲーム内のすべてのモンスターを把握しているはずなんだが。


「…そうか」


ーーーコルティエラが知らないし、俺も知らないって事はゲームの世界じゃ無い? じゃぁなんでレベルの仕様がこの世界も同じなんだ? いや、もしかして時代が違う?


モンスターも聞いたことがなければ、見たこともない街。

流石にゲームと同じ世界であれば知っているものが少しでもあるはずだが、一切快斗の記憶に引っかからない。


見たこともない世界観だが、知っているステータス。


ーーー時代が違うなら未来か、過去か。それとも同じステータスの仕様の別世界?


少しずつ進んでいく列に続きながら考える快斗だが、一向に考えがまとまらなかった。


ーーーふむ、カイト様が考えていらっしゃる。もしかして別世界に飛ばされた事に嘆いていらっしゃるのか?


アミエルはちらっと横で顎に手を当てているカイトを見る。

アミエルとしては、ゲームの記憶が僅かにしか残って居ない為、別に前の世界に戻れなくてもいいと思っており、他の隊員も同じ気持ちだ。

そうであるから気にしないように快斗を慰めてやりたいが、上手く言葉が見つからない。


「カイト様ー! お昼食べたらどうしましょうかー? 観光します?」

「…わたしも街見て回りたい」

二人の気持ちを敏感に感じ取ったキャンティが場を盛り上げるように陽気に快斗に話しかけ、コルティエラもそれに続く。


それを聞いた快斗が後ろにいるキャンティ達に応えようとした時、大きな怒声が聞こえた。

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