第10話 喜ぶアミエル。



「カイト様、先程は恥ずかしい姿をお見せして申し訳ありません」

「い、いや、こっちこそすまない」

トイレから出てきたアミエルと確認すると、再び頬が熱くなり、不甲斐ない事に別の場所も熱くなる。

快斗としてはこれから気まずくなりたくないため、どうにかして気を鎮めたいが先程から脳裏にアミエルの白い肌がフラッシュバックしてどうにも落ち着かないでいた。


「そ、そうだ。そう言えば武器の整理をしようと思ってたんだ。それで、アミエル達にちゃんとした武器をあげよう」

「武器ですか? 既に持ってるので大丈夫ですが…」

何か意識をそらせるものはないかと考えると、直ぐに馬車の中で考えていた装備の変更を思い出す。

もともと宿に着いたらやるつもりであったため、今してしまおうとメニューバーを開いて持ち物欄をタップする。


アミエルは安めの姿勢で立っており、既に武器があるのに必要なのかと疑問に思うが、快斗から与えられるのであればすぐさま今の武器を手放すつもりでいる。


「持ってるのは、魔術刻印無しの無印だろう? それじゃあ少し心許ないからね」

「刻印付きを頂けるのですか?! そんな高級なものを…!」

刻印はNPCは持っていない事と、刻印はプレイヤーが刻んでいたことが一般的であったことから、ゲームから来たアミエル達は兵士が刻印装備を持っていなく、そして高級で大変めずらしいという認識に至ったのは当然の事だ。


それをくれると言うのだ。

アミエルは思わず安めに姿勢を解いて快斗にグッと近づく。


「あ、あぁ、もちろんだ。だからちょっと待っててくれ」

「了解です!」

前のめりで近づいて為に、快斗の目の前で一瞬軍服の上から胸が揺れるのをちらっと眺めてしまい、再びいけない気持ちになりそうなのを抑える。


持ち物欄にレベル上限設定がある為、そこを130〜150に設定し、転生済みが必須のアイテムも除外する。

数あるアイテムの中から、ピッと言う電子音と共に、十数個の武器だけが一覧で残った。


・竜狩のロングソード+2(刻印 対竜ダメージ2倍)

・創成の手袋+1(刻印 生産補正効果30%up)

・水龍迅雷剣+3(刻印 水、雷のスキル威力1.5倍)

・二裂きの双剣+1(刻印 連続斬り5回以上からダメージ2倍)

・必殺首狩短刀+2(刻印 初回ダメージ1.5倍)


十数個の武器が下にずらっと並んでいる。


ーーーやっぱこんなもんか。転生前のレベル130〜150じゃぁそこまでの+値もないし、それに刻印の効果も低めで数も少ない。

装備品は系統別に+されるパラメータに違いが出るのは一般的である。

例えば戦闘系の大剣であればSTR+15といった形だ。

その装備に着く+値、アイテムに着くのも同じであり、基本的に+1につき効果、付与パラメータが1.1倍になる。


これがせめて転生後であれば、+値は5以上は確定であり、刻印の数も3、4個となり効果ももっと強力なんだが、今更どうしようもない。

今からスキルを取れば出来なくもないが、快斗も元々生産系はあまり取ってない為、上手な+の付け方もうまく把握していない。


「アミエルの獲物はロングソードでいいのか?」

「はい、基本前衛ですのでロングソードがメインの獲物ですね」


ーーーじゃぁこれがいいか。


・空斬りバグノリオン(特殊効果:フィールの内の前方にMP10を使い斬撃を放つ。 刻印 斬撃時与ダメージ1.5倍)


直径1.2メートルほどの直剣で、全体的に薄青をベースとした色合いをしている。

両刃のところには白い雷が走ったかのような線が付け根から剣先まで掘られていて、そこには僅かだが光が灯っている。


使用制限は150以上であり、転生前でも使える。快斗が今与えられる装備では最高に近い。


「…これが刻印付きの武器。カイト様、ほんとに使ってもよろしいのでしょうか?! 見ただけでも、凄いエネルギーを感じます…!」

「もちろん、あげるよ。一応特殊効果で斬撃を飛ばせる武器だから、練習しといてくれ」

「斬撃っ…、わかりました! 」

目をキラキラとさせるアミエルは湧き上がる喜びを抑えきれず、口角が上がるのを我慢できない。


快斗から手渡された剣を手に取ると、そのズッシリとした重さと、持った瞬間感じる斬撃の飛ばし方が脳内に浮かび、早く使って見たいと言う感情が浮き上がってきた。


ーーーなんて素晴らしい…! あぁ、早くこれで敵と戦って見たい! やはりカイト様には感謝しても仕切れない。


これだけ国宝級とも言える逸品をもらっておきながら、ただ言葉だけの感謝で済ませるのはあまりにも礼儀知らずだと言う気持ちでいるアミエル。アミエルとしては、快斗に何か自分からも与えてあげたいが、良いものが思い浮かばない。


ーーー後はキャンティ達にも用意しておくか。ステータスを見れば使う武器なんて想像できるし。


目の前で武器に見入っているアミエルを見て少し嬉しく思うと、後は部下達の武器を見繕う為にステータスと武器を見比べながら決めていく。


幸いなことに全ての女性兵士達に適した武器があった為、迷う事なく決めていく。

そもそも数が少ないので、ほぼ一択か二者択一の選択しか残っていないが。


アミエルが剣を眺め、快斗がステータスと持ち物欄を見比べていると、部屋の扉がガチャッと開く。


「すみませんー、遅れましたー」

申し訳なさそうに入って来たのは幼い顔立ちのキャンティと、それに続いて来た一人の女性兵士。

ジャンケンを終えた彼女達は負け組は各自の部屋へ行き、勝ち組は勝利の扉を開けたのだ。

ここにフローラがいないのはお察しである。

いや、扉が開いた瞬間にフローラの悔しそうな顔が見えた事から一目瞭然だ。


二人は快斗の前に来て、一瞬隣のアミエルが持っている武器に視線を奪われるも、休めの姿勢で待機する。


「あ、いや、別に遅れてはない。今丁度君らにあげる武器を見てたところでな。アミエルが持っているのも俺からあげたやつだ」

「おぉー! 私達ももらえるんですかぁ! やったぁー!」

キャンティ達の視線が一瞬武器に行くのを見た快斗は、何となく居心地が悪くなったから言い訳気味に説明する。


ーーーそれにしても、誰が来るかなとは思ったけど、この子が来るのかぁ。


快斗から贈り物、武器がもらえると知り、純粋に喜ぶキャンティの隣の女性兵士は無表情で数回頷く。


彼女の名前はコルティエラ・キィ・ドーラン。

160前半の身長だが少し猫背気味のせいか数値より低く見える。

色素が抜けたような長い白髪にアミエルよりは明るめの赤い瞳、そして真っ白な肌が日本のアルビノを思わせ、快斗としては肌が焼けないかと度々心配になってしまう。

それは肌を傷めてしまいそうといった心配の他に、その純白を思わせる真っ白な肌に日焼けがつくのが、どうしても嫌な気持ちにさせるのだ。



彼女の特徴はその無表情だ。

無表情という言葉が正しいのかわからないが比較的少ない口数と、あまり動かない表情筋のせいでそう見えている。


「ちゃんとキャンティ達の分は準備してるよ。あとでまとめてみんなに渡すからその時まで待っててくれ」

「わかりましたー!」

元気よくキャンティは返事をすると、一旦解いた格好を戻して安めの姿勢に戻る。


ーーー別にこんな時までそんな構えなくて良いんだけどなぁ。


「じゃぁ各自自分のベットを決めて後は自由時間にして良いよ。あ、他の部屋のみんなにもそれ伝えてきてくれる?」

「わかりましたー!」

快斗の指示を聞いたキャンティは、快斗の向かい側のベッドに腰にさしている剣を置くと、そのまま部屋を出て行った。

早速隣の部屋の同僚にそのことを伝えに行った。


いつの間にか快斗の隣のベッドに座っていたアミエルは、そのまま武器をベッドの上に置いて何やか観察を始める。


ーーー素晴らしい…! それにこの魔力線、随分とくっきりと浮かび上がってる。


あの剣に走る雷のような線は、武器を作った際に、特殊効果が付与された副作用として生まれるものであり、その魔力線がついた武器を持つのは、一般兵としては憧れ以上の思いがある。

こんな武器など、大佐くらいにならないと、国から貸し出されないからだ。


ーーーやっぱ武器の種類も少ないし、それにまともな防具がほとんどないのが痛い。アミエル達は元から付いてる軍服はある程度の防御力があるけど、特殊効果が無いしなぁ。


持ち物欄の武器をある程度把握すると、快斗は防具の少なさに若干の不満を覚える。

武器はある程度敵に合わせて変えていたため数が揃っていたが、防具はそんなことがなかったためほとんど残っていない。

最低レベルは転生後の100レベル以上しかない為、今持っている防具は一ミリも役に立たないのだ。


ーーー…そうか、軍服は素材はいいんだから、俺がスキルで刻印すればいいんじゃないか? 幸いレベル1だしすぐにスキルは揃うだろうし。


そうと決まってはレベル上げをしたい所だが、流石にこの世界での経験値がクエストからとは思えない。


ーーーなら、現実となったこの世界は経験値は完全に敵からか行動のよって獲得すると考えていいか?


ほぼほぼ確定的にそう考えた快斗は、早速レベル上げに行きたい所だが、街に着いたばかりの今、そこまで積極的に動きたくはなかった。


「ん? どうしたんだ、コルティエラ」

「…、カイト様、お腹が空きました」

快斗が考え事をやめて顔を上げると、いつの間にか近くにいたコルティエラがじっとこちらを見つめていたので話しかけたら、彼女のお腹が可愛らしくなった。

時間的に十二時を過ぎており、こちらに飛ばされてから何も食べてない。


ーーー…お、お腹。なっちゃった…。


無表情ながらも内心はお腹の音がなった事に、快斗に聞かれてないかとドキドキする。

普通以上に白い肌が、ほんの少しだけだが頰が朱に染まっていた。


「…じゃ、じゃぁお昼に行こうか」

若干染まる頬で恥ずかしがっていると察した快斗は、聞かなかった事にしてお昼に行く事にした。

スッと開いてたメニューバーを消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る