第9話 同室は必至。
堂々とした歩みでカウンターに行くと、これまた日本のホテルにいそうな男性ホテルマンがゆっくりと頭を下げる。
「いらっしゃいませ。本日はどう言ったご用件でしょうか?」
「宿を取りたくてね、11人泊まりたいんですが、大丈夫でしょうか?」
「11人ですか、少々お待ちください。ーーはい、部屋数の限りがございまして、3、4、4の3部屋でしたらご用意出来ますが、どういたしましょう?」
穏やかな笑顔で尋ねるホテルマンに少し待ってもらう様告げると、快斗は頭で考える。
ーーー3、4、4って事は俺が女性と同室か? んー、俺は別にいいんだけど、いや逆に土下座してでもお願いしたいんだが、どうだろうか。
ちらっと何となくアミエルを確認するが、こっちはこっちで頭の中がトイレで埋め尽くされており、話をほとんど聞いていない。
ーーーだ、大丈夫だよな? 文句言われないよね…。よし言っちゃえ!
「じゃぁそれでお願いします。取り敢えず1泊で」
「了解致しました」
もう一度ちらっとアミエルを確認した快斗は何も言われなかったことに安堵する。
ーーーま、まぁ何かあるわけじゃないんだし、ただ泊まるところが同じ部屋なだけ。焦るな、俺。
1泊で10万コルを大金貨1枚で支払う。
「あぁ、それと馬車を止めるところってありますか?」
「それでしたら裏手に回っていただいたところに御座います。これが部屋のキーになって入りますので、無くさない様ご注意下さいませ」
ホテルマンが裏手を手で指し示すと、次にホテルの鍵を快斗に手渡す。
やはりここは現代ほどではないが、キー先が複雑な作りで、技術の高さがうかがえる。
「じゃぁ、ありがとう御座います」
鍵を受け取った快斗は一旦外へ出ると、すぐにキャンティ達に指示を出して裏手に周り、言われた通りに馬車を止めて再び宿へと戻る。
鍵番号は、3階の2、3、4号室と連番で分かりやすくなっている。
階段を登って3階まで行くと、絨毯が引かれた廊下があり、ここも貴族を意識した豪華なつくりとなっている。
「よし、じゃぁ組み分けだが俺は2号室に泊まるから、あとはそっちで決めといてくれ」
流石に自分で同室のメンバーを指名するのは恥ずかしさが優って出来なかったため、それは本人達に任せることにする。
流石に自分と嫌な人はそれとなくコレで外れてくれる、と思ったからだ。
そう告げた快斗は残りの鍵を渡して、自分が泊まる部屋に鍵を差して中に入る。
一方の女性兵士たちはすぐさま会議が始まる。
誰が快斗と一緒の部屋に泊まるか、だ。
「じゃぁ私は先に部屋に行ってる。あとは自由に決めていいぞ」
アミエルは自分は当然快斗と同じ部屋と思っており、即座に鍵をキャンティに託すと快斗の入った部屋に入る。
「…カイト様が入った部屋は4人部屋。あと2枠ね。じゃぁ辞退者は手を上げて」
「…フローラは手を上げないんだー」
「当たり前じゃない。そんな今更」
スッと目を細めるフローラに、同じようにスッと目を細める同僚たち。
キャンティは堂々としたフローラに若干気圧された気分になる。
ーーーフローラって正直に生きれて羨ましいなぁー。
他の女性兵士達はべつに積極的に同じ部屋になって夜を共にしたいと思っているわけではないが、なれるならなりたい。
そんな気持ちだ。
「仕方ないわね。全く欲張りな女達」
肩を上げて子供を相手するような態度に他の女性兵士の気持ちが一致する。
ーーーお前が一番なりたがってるだろうに!
「じゃぁ、じゃんけんで行くわよ?ーーじゃんけん、ーーー」
フローラが同僚の目を確認すると、合図を出して手を前に出した。
「うぉほっほ! すげぇ、これがこの時代で出来るって、なんか、すげぇ」
扉の先には大きな通路があり、その先には15畳ほどの大きな部屋が広がっていた。
絨毯が敷かれた床に、左右に二つずつ置かれたベッド、その上に敷かれた綺麗な白い布。
それに壁に汚れなど見られなく、天井には大きなライトがあり、壁にはそのスイッチらしきものもある。
入ってすぐの通路には二つの扉がある。
「って、風呂にトイレ! まさかこの中世で再現してやがる! って、流石に自動水洗ではないか」
いちばん手前には便座があり、脇には大きな水タンクがある。
それに和紙が重なるように置かれていることから、これで拭いたあとは水を汲んで自分で流すんだろう。
そして風呂。
シャワーの隣に風呂があり、まさに日本の再現とも言える。
綺麗な床と壁は白いタイルで、蛇口があることからひねると水が出ると思われる。
「さっすが兵士長が案内するだけはある。これはいい宿を見つけたな」
ウンウンと腕を組んでうなづく快斗の中では、兵士長の株がかなり爆上げされている。
そのまま扉を閉めてベットまで行くと、大きめの窓があり、そこからはこの街がよく見渡せた。
比較的に一階建てが多いから、ここから城壁まで見通せる。
「まぁ流石に開かないか」
開けるところがなかったため、空気を入れられなかったが、それでも部屋の空気は新鮮なものであり、この宿がどれだけ管理に力を入れてるのかよくわかった。
ーーーこれ一人一泊9000コルじゃ元取れないんじゃな?
日本円で考えても、明らかに周りと比べてグレードが一段も2段も高いこの宿がこれで経営できるのか疑問を抱く快斗。
勿論この宿はこれだけの収入では赤字だ。
それはそうだ。
ライトに、水タンク、お風呂から出る温水、それにベッドや白い布。
これらを提供して9000コルで経営できたらそれはすでに日本と同レベルの経済といえる。
この宿は私営ではなく、男爵が出資して経営している宿だ。主な相手は他の街からくる貴族や、商人など対外的な接待である為、利益以上に快適さを追求しているため、採算など気にしない。
「…ふぅ、少し柔らかい。あぁー、つーかーれーたーぁー!」
いちばん手前のベッドに身を投げ出して全身を伸ばすように腕と脚を広げて体の力を抜く。快斗の目に映るのは白い天井であり、少し日本を思い出してしまうが、そこまで感傷に浸った訳じゃない。
ーーーそう言えば、まだ部屋が決まらないのか? っは!? まさか誰もが俺と一緒の部屋は嫌だから押し付け合ってるのか?! う、うぉおおお! つ、つらい! 辛すぎる!
いくら待っても誰も来ないことに良くない不安が加速して、自己嫌悪に陥る快斗。
その不安もただジャンケンで遅くなっているだけだがそれを知る由もない快斗は、不安が強くなる。
「ま、まぁ嫌われてはいないはずだ、うん。多分男と一緒の部屋が無理なだけ。きっとそうだ」
呟くように言い訳を口にした快斗は、少し前からあった尿意を思い出してトイレに向かうことにする。
ベッドから降りて玄関脇までくると、トイレの取っ手を掴んで引っ張った。
「…カイト様じゃないですか。どうしました? もしかしてもうその気になったんですか?」
「…は?」
何故。
快斗の思考はそれに染められた。
扉をあけて快斗の目に移ったのは、丁度トイレの便座から立ち上がったアミエルだった。
軍服はトイレをするときには不便であるから、アミエルは下のズボンを脱ぎ去っており、トイレをするために赤いレースのTバックは足に引っかかるようにして地面に落ちている。
そして露わとなった白い肌に均等に筋肉が付いていながらもすらっと伸びた綺麗な足。
軍服の上着はヘソのあたりまでしかないため、それより下、何一つ身につけていない下半身がカイトに脳内に強烈に叩き込まれる。
ーーーな、な、なんで?! まさか部屋に入る音を聞きそびれたのか?! いや、そもそも外国人は髪の色がブロンドなら他も全てブロンドって聞いてたけど、アミエルは赤い髪…。って違う!
「す、すまない! 入ってるのに気がつかなかった!」
「いえ、私は全然大丈夫です。むしろーー」
止まった思考が急に活性化し、急いで扉を閉めて顔を赤らめながら謝る快斗。
流石にこんな鉢合わせは童貞であるカイトにはキツかったため、すぐにベットに飛び込むようにして顔を埋めた。
先程は土下座してでも一緒の部屋で寝たいと言っておいて、実物だとまだ耐性がなかったようだ。
「ふむ、開けられた時は今から純潔を捧げるのかと思ったら違うのか。カイト様の視線はしっかりと私の下半身を見てたが、どうやらまだ早かったらしいな」
恥じることなくゆっくりとTバックを足から上げて着用するアミエル。
アミエルとしてはべつに場所に凝らないためどこでもいいという思考だが、流石に快斗がその気でないなら無理に迫ったりはしない。
位置を合わせるようにTバックの紐の部分を調整すると、軍服のズボンを着用し、脇にある水でトイレを流した。
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