第7話 最下級、下級ポーション、意外と高いお値段で。





「すまない、少しいいか?」

「ん、あぁどうしたんだ?」

「出来れば我々が泊まれる宿を教えてくれ、後幾らで泊まれる?」

アミエルが後方を歩く兵士長のところまでくると、脇に並んで歩くようにして尋ねた。


ーーーなんと都合がいい。下手に安いところに泊まって問題でも起こされたら困るしな。高くて俺らが把握しやすいところにすっか。


「じゃぁ俺が案内しよう。多分あの人でも機嫌は損ねないはずだ」

「…本当だろうな?」

「あ、あぁ勿論だ!」

若干何か下心が見えた兵士長にアミエルは声を低くして再確認をする。

右手に剣の柄を抑えながら。


顔に出たか? とビクビクしながらも、別に悪いようにはしないんだ、大丈夫ないはずだと言い訳をしつつ、慌てて頷く。


そのままアミエルに連れられて快斗の元まで来た兵士長。


「じゃぁ、宿の案内は頼んでも? 後値段ってどれくらいですか?」

「も、勿論です! 多分値段は11人ですよね? なら1泊10万コルくらいだと」

10万コル。

快斗は単位を把握し、人数と止まる日数で大体のこの国の物価を把握する。


ーーー11人で1泊10万コル。多分俺たちのこと偉い人だと思ってそうだし、比較的高めの宿に案内するはず。なら大体一人9000コル。まぁ日本と同じくらいか?


値段を把握したところで全く無一文な快斗は取り敢えず金を稼ぐために、今持っているアイテムを売って資金稼ぎする事にした。


「…10万コル。あの、一応資金を調達したいんで、アイテムの買取をやってるとこに行きたいんですけど」

「アイテム? どんなものかにもよりますな。装備であれば武器防具屋だし、薬品なら薬屋なので」

「まとめて売れるとこって有りますか?」

「じゃぁ冒険者組合ですかね。あそこは色々買取やってるんで」

「じゃぁそこに連れてってください」

ある程度売るのを頭の中で考えながら、快斗は兵士長に道を変えてもらった。

快斗の持ち物欄には武器や大事なものだけでなく、素材はないが生産職で作っていたものも多く有り、これを売ればなんとかなるはず、と考えている。


兵士長は乱暴な冒険者がいる組合に連れて行きたくなかったが、反対できるわけもなく、出来ればみんな出払っていてくれという願いで組合へと道を変えた。


兵士長の脇にアミエルを挟んで快斗が歩き、その後ろに数名の女性兵士、馬車、後方に女性兵士と、大層目立って仕方がないポジションで大通りを歩いていく。




着いた先は噴水のある広場に面した冒険者組合だ。

周りが一階建てが多い建物の中、このコンクリートでできた長方形を思わせる建物は、目算にして4、5階は確認できる。


「じゃぁ俺とアミエルと兵士長で行ってくるから、キャンティ達は馬車を脇に止めて待機していてくれ」

『っは!了解しました!』

後ろを振り返った快斗がテキパキと指示を出すと、控えていた女性兵士達は足を揃えて敬礼で返す。

はっきりとした声で、返したことから一瞬通行人がびっくりと視線を寄越すが気にもしない。


ーーーだから目立つなよなぁ! そしていい声だなおい! 俺んとこの部下もこれだけしっかりしてくれたら…。


目立つことを気にしない様子に少しイラつき、彼女たちの完成された統率に嫉妬にも似た感情を覚える。

兵士長の部下であれば、よくて「はい!」

や、「うっす」、「了解っす」など適当な返事も多い。毎回注意してるが、こんな辺境の街に期待しても仕方がなく、男爵も自分の地位を若干下に見ている節があるため、そこまで気にも止めていないのだ。

そのせいか責任者である兵士長が胃を痛めているわけだが。



カラン。

とベルがなったような音が扉を開けるとなる。



中の様子は比較的シンプルな作りだった。

正面にはカウンターがあって受付嬢の女性が数名待機しており、それに並ぶ数名の冒険者。

そして脇に置かれた木製のテーブルに座る暇そうな冒険者。

依頼が書かれた掲示板で喉を唸らす冒険者。


快斗が入っても特にこれといった反応はなく、兵士長は安心する。

まぁ直ぐにアミエルを見つけると鼻を伸ばしてだらしない顔になったが、兵士長が視線を向けるとすぐに慌てて視線をそらす。


ーーー流石に馬車や美女揃いの護衛を外に置いてきたから大丈夫か。


「じゃぁ行きましょうか」

「…ほら、カイト様がいくんだ。早くいくぞ」

「お、おう」

堂々と歩く快斗について行こうとしたアミエルが少しぼうっとしていた兵士長に視線を飛ばして促した。


ーーーそれにしても、随分と装備のレベルが低い冒険者が多いなぁ?もしかしてここには駆け出ししか居ないのか?


快斗はカウンターに着くまでにこの空間にいる冒険者の装備を確認して首をかしげる。

彼らはしっかりとした防具をつけているつもりではあるが、快斗の目からしたらどれもが駆け出しがつけるようなものだった。

鎧だってただの鎧だし、全く魔術的加工がされて居ない。

『世界の果てには』では、どんなに低レベルであっても、基本的に防具や武器には魔術刻印が刻まれている。

それは切れ味を増すものや、防御壁を貼るもの、素早さをあげるものなど様々であり、大抵の冒険者はつけていた。

NPC出ない限り。


だから、ここにいる冒険者は本当に駆け出しなんだなと、快斗は推測したのだ。



「すいません、アイテムを売りたいんですけど良いですか?」

「え、えぇ構いませんよ。どんな物を売りますか?」

美女を連れた若い青年と、その後ろに控える兵士長の顔を見た受付嬢は、この状況はなんだと困惑して兵士長に視線を向けた。

だが直ぐに、兵士長が申し訳なさそうに眉を下げていたため、すぐに察する。

こうして誰かを連れてきて、かつ若い男に美女。

これはまた貴族か何かかと。


「んー、じゃぁポーションは売れますか?これなんですけど」

「ポーションですか? 買取は出来ますよ。では、査定をしてくるので少々お待ちください」

受付嬢は、快斗が渡した数本のポーションをトレイに乗せると、後ろにある扉をあけて入っていく。

ゲーム内では生産系なら必須の鑑定スキルで直ぐにでも回復量がわかったんだが、この受付嬢は鑑定スキルは持っていないのかと若干不思議に思う。



快斗が受付嬢に渡したのはゲーム内で使われるポーションだ。

HP回復とMP回復の最下級と下級ポーションのそれぞれ一つづつの計四つ。


最下級は10センチほどの瓶に入った液体であり、HPは薄緑、MPは薄青だ。

これが下級のなるともう少し濃くなる。

効果は最下級が500、下級が2000と比較的流通しやすいポーションだ。

本当は10万コルが必要な為、中級上級でも良かったが、もしこれを出して何かあったら困る。

NPCの販売店では下級までしか売ってなかったし、中級以降は全てプレイヤーのハンドメイド。

念の為だ。



「カイト様、随分と査定が長いですね。何やってるんでしょうか」

「いや、そこまででもないだろう。それよりどうした? 太ももさすって」

「…い、いえ、少し痒くて」

「そ、そうか」

まだ数分と立っていないが、アミエルにはこれが数十分に感じられる。

思わず快斗に話しかけていまい、アミエルが太ももを閉じてトイレを我慢してるのがバレるところだった。


ーーーっく! 一体いつまで私はトイレを我慢すれば良いんだ! も、漏れそうではないか!!


高い身長に凛とした顔立ちだったアミエルは、今や少し頬を赤くして身を縮める弱々しい雰囲気が出てきている。


「…査定終わりました。こちらのHPポーションとMPポーションは5,000コルで、こちらのHPポーションとMPポーションは20,000コルになります」

それから数分した後に受付嬢が出ていった扉がキィっと開くと、大事そうにポーションの瓶を抱えて受付嬢が出てきた。


快斗は思ったよりも高く売れることに内心はかなり驚く。

正直どっちも捨て値同然。

多分1000コルくらいかなと予想していたからだ。


ーーー下級以下のポーションは捨てるほどあるし、それに簡単に作れる。こりゃぁいい金策が見つかったな。


「じゃぁ、これだけお願いします」

快斗は下級ポーションを懐から取り出すようにして10本づつをトレイに置く。


「り、了解しました。で、ではこれも査定してきますね」


ーーーこ、こんなに質のいいポーションを持ってるなんて、随分いいところの坊ちゃんなのかしら。


少しその量に憂鬱になりながらも、急いで査定する為に後ろの部屋の扉を開けた。


ーーーほんと面倒ね。早く査定してお昼が食べたいわ。


時間的に太陽が真上を通過する時刻。


お昼時だった。




◇◆◇◆◇◆◇◆

「がっぽがっぽやぁ! うっひひ」

総額40万コル余りの大金を手に入れた快斗は思わずにやけた顔で声に出してしまう。

ゲームと違い、通貨は金貨、銀貨、銅貨で構成されており、銅貨が1コル、大銅貨が10コル、銀貨が100コル、大銀貨が1,000コル、金貨が10,000コル、大金貨が100,000コル。


快斗の持つ袋の中には大金貨が4枚に、残りの小銭は全ての通貨を、使いやすい様に崩してもらっていた。


ーーーカイト様! あんなに嬉しそうな顔をするなんて。やっぱお金って大事なんだな。それより、トレイそろそろいけるか?


後ろに続くのは若干内股で歩き、内心ではカイトの喜び様に嬉しさがこみ上げてきているアミエルと、少し疲れた様子の兵士長。


ーーーあんなポーション持ってるって事は、もしかして冒険でもするつもりで旅してんのか?いや、それなら普通は売らないか。護衛も止めるだろうし。


ポーションを持っている理由も、それを大量に売り払った理由も分からずに、若干困惑しながら後に続く。



ーーーまだ+値も付いてないノーマルポーションがあれって事は、+付きを売ったらどうなるんだ? ううん、気になるな。


生産職には自分が作ったアイテムの質を上げるためのスキルや装備品があり、それを使って作る事で普通よりも質がいいアイテムの場合は、+がつくことがある。

そういうのは初級冒険者まではほとんど作ることができないが、中級冒険者の生産者は作ることができる。

快斗は生産はしていたが比較的戦闘寄りであったため、+値は買いあさったものか友人から譲られたものしかない為、滅多なことじゃ売る気にはなれない。


快斗が上機嫌に組合を出て脇に止めてある馬車まで行くと、人が集まって騒動になっていた。





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