第6話 レベル150ってさ、ちょー強いんだよ。
兵士長は門番をしている自分の部下からおかしな報告を受けた。
流石に自分も仕事中なため本来ならわざわざ頼るなと怒鳴り散らすのが普通だったが、今日は少し様子が違ったらしい。
聞くところによると、高級な馬車とそれを囲むようにいる10名ほどの女性の護衛達が身分証を持っていなかった。
ベテラン兵士に兵士長は「断ればいいだろう?」と言うが、帰って来たのは苦虫を潰したような顔で「絶対あの馬車にいる人は貴族です」と言う返答だった。
ーーーあいつに言われて来てみりゃぁ。まぁ大層なべっぴんをここまで、しかも戦える女を揃えるたぁ、随分と金を持ってそうで。
兵士長の眼に映るのは、まだ随分若そうな男が、質の良さそうな装備に身を包んでいる光景だ。
高級な馬車、美女揃いの護衛、そして若い男が質の良い装備を身につけている。
ーーー決まりだな、ったく。一体どこのボンボンだよ。
これによって兵士長は快斗のことをどこかの貴族、少なくとも伯爵、もしかして侯爵の息子と判断した。
「私はカイトと言います。実は訳あって身分証がない状態でして、どうにか中に入れてもらえないでしょうか?」
「…あぁ、そりゃぁ大丈夫です。でも一応規則なんでステータスの確認と馬車の中見せてもらってもいいっすか?」
「えぇ、もちろん」
明らかに教養が身についた礼で対応した快斗を見て、先ほどの推測が確信へと変わる。
流石にこれで入街を断ったら面倒ごとが転がり込んでくるのが眼に見えているため、許可しないわけがなかった。
慣れない敬語で話す兵士長はちらっと、後ろに一列に並ぶ女性兵達を眺める。
ーーーまぁ随分と統率が取れたことだ。ピクリとも動きやしねぇ。それにこいつの隣にいる赤髪の女、底が見えねぇ。
貫ぬくような真っ赤な瞳が兵士長を先程から捉えているため、下手な動きはできないと冷や汗が流れ出す。
ーーーダーリン男爵は今クッソ忙しいってのによぉ。まぁ仕方ねぇ、丁重にステータスを確認して後は宿だけ確認すればいいだろ。
たまにいるのだ、こうして身分を隠して街を回ったり、お忍びだと言ってた自分の親が治めている街を得意げに歩き回るボンボンが。
それらに共通していることがあり、偶然にも快斗達と一致した。
一つ、明らかに貴族が持つような豪華な馬車。
二つ、側近、護衛はほぼ女冒険者。これは貴族の子が女でも身の回りを男にやってもらうのは危険であり、親が乱暴な男の冒険者を雇うわけがないから当てはまる。
三つ、それを隠そうともしない態度と、明らかに駆け出し冒険者と思われる年齢での質のいい防具。
ーーー身分証が提示できねぇなら、ちったぁ隠せよなぁ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「うんじゃぁ、まずはステータスの確認をするんでいいっすか?」
「えぇ、いいですよ」
目の前の兵士長が明らかにへこへことした態度をとるため、快斗もより一層申し訳なくなる。
それに先程から門を通過する冒険者や商人がチラチラと快斗達に視線をよこすため、目立って仕方がない。
「カイト様、一応私から行きましょう。計測器に何かあったらいけませんので」
「そうか、わかった。じゃぁ俺はアミエルの後にやるから」
流石に護衛が先にやるのは一般的らしく、兵士長も今の会話を耳にしても嫌な顔ひとつしない。
「じゃぁ手をここに置いてください」
後ろに控えていたベテラン兵士が、大きめの、手形が付いたプレートを兵士長に差し出すと、兵士長はそれを両手で持ってアミエル達を促す。
ーーーあれが計測器か? いや、違うか。
随分と見窄らしい計測器が出て来たため疑問に思ってチラリとアミエルを確認したが、アミエルの表情は疑いのものに変わっていた。
ーーーアミエルが知らないって事はここはやっぱり『世界の果てには』とは別世界なのか? ゲームから来たアミエルが計測器を知らないわけがないし。いや、もしかしてアミエルが知らない国に来たから、計測器も形が違う?
「…ここに置けばいいんだな?」
「ん? あぁ、そうだ」
今一度確認するアミエルを不思議に思ったが兵士長は頷き返す。
アミエルの手がゆっくりと手形に重なるようにしておかれると、プレート全体に光の線が一瞬で走った。
「っっ! 貴様! 何をした?!」
やられた、罠だ。
そう感じたアミエルは咄嗟に手をプレートから話すと、目にも留まらぬ速さで剣を引き抜き兵士長の首筋に添えていた。
「っ、ひ、な、何って普通にステータスチェックだろ?! ほ、ほら見てみろ! 文字が浮かんで来ただろ?!」
とつぜんバッと後ろに下がったアミエルに動揺が生まれ、本能的に命の危機を感じた為、慌ててプレートを目の前の高さまで持っていく。
ーーーな、なんだこれ?! け、剣をいつ抜きやがった? それに、首筋にぴったりつけられてる!
見えない。見えなかった。
兵士長の内心では明らかに自分以上の力の持ち主に早く剣を納めてくれという気持ちで一杯だった。
「…なに? そうか、それは済まなかったな。我々がいた所のステータス確認の道具とは少し違っていたんでな」
「い、いいってことよ」
アミエルは嘘ついたら首を跳ねるという視線を兵士長に向け、兵士長の慌てぶりから本当だと判断して剣を収める。
ーーーったく、外国のもんかよ!それに後ろの女兵士達も、今一瞬で武器を抜いてあの男の周りを囲ってやがる。
これだけ訓練された兵士は、侯爵でもかなり珍しい部類になる。
ーーーもしかして公爵か?いや、まさか王子とかって訳じゃないよな。
剣を引いたアミエルを見て安心した兵士長は、一旦深呼吸して呼吸を安定させるとステータスが浮かび上がったプレートを見て目を見開く。
名前:アミエル・ローヴェン
性別:女
種族:人間族Lv.150
ーーーおいおい、まさかなんで、壁越え冒険者がいるんだよ!!!!!レベル150だと?!上限超えてるじゃねぇか!!!
壁越え冒険者。
この兵士長が生きる世界ではレベル上限が100とされており、150というレベルはあり得ない数字だ。
しかし、それが出来る可能性があるのが冒険者という職業だ。
彼らの中に僅かだが存在するのだ。
レベルの概念を突破する奴が。
方法は定かではない。
だが、数百年に一度の割合でそう言ったものが出て来ており、100レベルを超えたものはレベルの壁を超えたものとして壁越え冒険者と呼ばれる。
ーーーったしか今の世代には帝国に何人かいたはずだ! まさか、帝国の王子か?! だからって壁越えを寄越すのかよ!
帝国とはダーリン男爵が所属している国、ドーラン王国の隣接国であるカルバット帝国だ。
男爵領は比較的帝国側に位置していることから、兵士長が快斗を帝国の王子であるという推測に至るのも簡単だった。
ーーーっく、これ以上はどうしようもねぇ。あとは頼みますぜ、男爵殿。
兵士長はこれ以上は自分が考えてもどうしようもないため、あとは貴族である男爵に任せることにした。
アミエルのステータスを確認した兵士長は、一旦自分が見たものを受け入れるために深呼吸をすると、次は快斗のステータスを確認した。
快斗も後に続くようにプレートに手を置くと、快斗のステータスが浮かび上がってくる。
名前:カイト・コンノ
性別:男
種族:人間族Lv.1
「…っ、なんだこれ」
ーーーって、レベル1だと? まさかあり得るのか? 普通だと年齢が上がるとともに一定数は上がるはずなんだが…。まぁ、なんか事情があるのか?
「どうしました? 何かおかしなところでも?」
「い、いえ! なんでもないであります!」
もしかしてレベルが1なのは異常にうつったかと不安になって兵士長に声をかける快斗だが、兵士長も150レベルを見たため今更言及するわけにもいかず、敬礼で返した。
「で、ではこれにて検査は終了します! ご迷惑をおかけしました!」
「え、これ以上いいんですか?まだ後ろの子達やってないと思うんですけど」
「だ、大丈夫です! 代表だけ確認する決まりなので!」
なんて雑な検問だと若干呆れる快斗だが、勿論そんな訳ない。
ーーー後9人も見なくても身分は大丈夫だろ。護衛なんだし。それより長々と確認してキレられちゃたまんねぇよ。
この温厚そうな男にキレられたらどんな風になるのかと、屈強な肉体に鳥肌を浮かび上がらせた兵士長は確認を怠った。
まだ壁越え冒険者が9人いると言うのに。
「分かりました。では我々はこれで中に入ってもよろしいでしょうか?」
「え、えぇ、大丈夫です。ですが、一応は泊まっているところを把握したいので、宿を取るところまでご一緒しても?」
「ん〜、まぁいいか。 いいですよ」
流石にこんな異常な集団の居場所を把握しないわけにはいかないため、受け入れられたのには一安心する。
この後に男爵に報告しなければならないからだ。
快斗としても、べつに嫌ではなく、ぎゃくに道案内が出来てラッキーなというくらいにしか思っていない。
そもそも、150レベルが異常とは認識していないのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
快斗はそのまま馬車の外を歩きながらトーテルの街を歩く事にする。
中から見るだけじゃつまらないし、どうせなら間近で異世界の生活を見て見たいからだ。
女性兵士2名がスレイプニルにまたがりゆっくりと門をくぐり、その脇を歩くと快斗はを囲むようにして女性兵士がついていく。
ーーーなんだこれ。どこの王様だよ。身分隠すんじゃないのか?
身分を隠して街を訪れたと思っている兵士長は、明らかに目立った行動に少し呆れる。
だが彼も仕事中だ。
人の邪魔にならないように、少し脇を進んでもらうようにスレイプニルにまたがる女性兵士に伝えて少しずれてもらった。
それでも街を歩く人々の視線が減ることはない。
ーーーへぇ、なんだ。意外としっかりした作りだなぁ。
一軒家が多い大通り脇の家を眺めて感心する快斗。
実のところ、ばかにしているわけじゃないが、今までに見た冒険者や商人の格好からもう少し質が低いかなと言う思いを持っていたからだ。
木製の家もあれば、コンクリートを使った綺麗な外観の家もある。
「…なぁ、アミエル。そう言えば宿って幾らだ? 俺はここで使える金を持っていない、と思うんだが」
「…そうですね、少しあの男に確認して来ましょう」
メニューバーにはゲーム時代にためた紙幣がウン千万とあるのは確認しているが、それがここで使えるとは思ってなかった為、アミエルに確認する事にした。
ーーー通貨が違っても、これじゃぁ潰して売るわけにもいかないし。こんな紙切れ同然んじゃぁね。
ピッという電子音と共に現れたのは、日本円のような紙幣だった。
1000、5000、10000と別々に別れた紙幣であり、これは日本人プレイヤーを意識したゲームの作りからこう言った紙幣の方が使いやすいだろうという運営の計らいだった。
正直なんでPRGで金貨ではなく紙幣かは、どうでもよかった快斗は記憶になかった。
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