第2話 ベテラン分隊召喚石を使ったら美女。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「お、俺が転生してレベルマにするまで、どれだけかかったか分かってないのか?!」
涙で地面が点々と染み出す。
このゲーム、『世界の果てには』はレベル制の他にレベル上限開放クエスト、存在昇華クエストでの上位種族への転生など、レベル上限に達するまでに長い道のりがある。
基本的なレベルは最初に選ぶ種族に関係せず、100まで上げることができ、そこからようやくレベル上限開放クエストを数十個もこなして150まで上限をあげられる。
ここまでしてようやく、初心者として一皮向けたと言われるようになる。
まぁ、このゲームは職業で優遇さが出ないようにモンスターからもらえる経験値はかなり少なく、常時千を超えるクエストを受けることによって経験値を得られるため、ストーリーも楽しめてそこまで苦痛ではない。
それに、1000あるクエストのうち、古い100個から順に毎月新しいクエストが更新されるため、飽きも無い。
先程快斗が朝までやっていた定期クエストとは、定期的に入れ替わる新規クエストの事を指している。
そうであるため、初心者かどうかは、150レベルまで来たかどうかで見られる傾向にある。
で、中級者はここからだ。
この150レベルの時に与えられる存在昇華クエスト。
通称転生クエストをこなして普通の種族、プレイヤーは人間族、獣人族、小人族、妖精族が初めに選べてその種族の上位存在へと転生することができる。
しかし、転生後はレベルリセットされるため、1からのスタートとなる。
そこから再びレベルを上げて100前後まで来るとやっと中級者を卒業できる。
そして上級者、通称廃人は転生によって上位存在へと昇華されたことで再びレベル上限が開放され、200まであげられることができるのだ。
それによって転生済みのレベル100〜200までが『世界の果てには』での上位グループとなる。
「そ、それなのに…レベルリセットをするのかよ…。それに転生前かよぉおおおおおおおお!!!!!」
余りの残酷な仕打ちに目から血の雨が流れる錯覚を覚える快斗。
種族欄には、今までにあった上位人間族Lv.200と言うのが消え、あるのはただの人間族Lv.1。
高校生の時から始めて、4年間。
ほぼ毎日の様にゲームをして漸く半年前にレベルマックスまで行ったはずなのに。
全てが崩れ去る音が聞こえた。
「異世界に行けたことには感謝だけどさ、これってどんな仕打ちよ?! はっ! まさか、こっちの体だから転生、レベルリセットか?! ならアバターでも全然よかったよ!!!!!」
そう考えれば、受け入れたくは無いが納得はできる。
動かす体が違うのだ。なら存在のレベルである数字がリセットされるのは仕方がないと言える。
「それにスキルもリセット…。特別スキルは残ってるなら普通のスキルもせめて残してくれたら…」
このゲームは基本的にパッシブスキルとアクティブスキルに分類されるスキル群がある。
そのスキル群は大きく分けて5つあり、戦闘系、魔法系、回復系、生産系、その他に分かれており、その上で群ごとにスキルツリーとなっている。
だから、普通は自分のなりたい系統でメインとなるスキルツリーを選んで、他から好きなやつをチョイスすると言うのが一般だ。
そのせいかスキルの数は千を超え、プレイスタイルは多岐に渡るため、それが楽しいのだが。
スキル獲得はいたってシンプル。
ただレベルを上げればいい。
レベル1で一つ目の自由なスキルが選べて、3、5、7と奇数の順で一つずつ選べるため、転生前で75個、転生後に100個選べて総数は175個スキルが持てる様になる。
まぁ多いとは思うが、それが全て有用とは限らない。
1000もスキルがあるんだ。変なスキルだってあるさ。
そして特別スキル。
これは基本的にイベントの時に獲得できるスキルだ。
何かイベントがある時に報酬として獲得できるためか強いスキルなんて殆どなく、ネタ系か、派手な演出スキルと大体がそう言う系統なる。
「…まぁ、普通じゃ手に入らない特別スキルが消えてなかったのは幸いか。…でもレベル、せっかく上げたのに…」
レベルは上げ直せばいいし、転生の仕方も覚えてる。
しかし、特別スキルはゲームの中でしか手に入らないため、こっちでは手に入る確率なんて無いだろう。
そう思っても落ち込んだ気分は上がらない。
「って、レベルもリセットされてこんな草原に放置かよ! モンスターに襲われたらひとたまりもないんじゃぁ…」
快斗はこの草原に一人の危険性に気がつく。
幸いにも今は無事だが、いつモンスターが襲いかかってくるかわからない。
ーーー急いで対策しなくては。
スッと指を動かしてステータス欄を閉じ、持ち物欄をタップする。
「…持ち物は消えてないか。消えてたらマジでキレそうだったわ」
そこにはズラッと今まで溜め込んだアイテムや装備が並んでおり、課金によって上限持ち物数を上げていたため、いくら下にスクロールしても底が見えて来ない。その中に最後に装備していた最上級の装備が見えるが、今はそんなの意味がない。
「レベルがリセットされたってことは、レベル上限がある装備は無理ってことかよ」
やばい、と言う感情が快斗に襲いかかってくる。
快斗は転生済みのレベルマだった。
そんなプレイヤーが初心者装備、レベル1でもつけられる装備を持っていると思うか?
快斗の記憶によれば、最低レベル100の装備しか無かったはずだ。
「…そうだ。確かアレがあったはず」
快斗はすがる思いで持ち物欄の検索欄に文字を打ち込む。
ピッと言う電子音を後に、沢山あったアイテム群が消えて、3つのアイテムだけが残った。
・救済リング:戦闘時の初回攻撃を完全無効化。HPが最後は1残る。(装備可能レベル帯1〜100。装飾装備)
・ベテラン分隊召喚石:10人の兵士を召喚可能。隊長の軍曹はレベル150、残りの一等兵はレベル130。(再召喚・再封印不可。不要時はギルドに預けることが可能。使用可能レベル1〜150)
・駆け出し装備セット(腕装備:鉄の剣、上下体装備:楔帷子、布のズボン、靴装備:ロングブーツ。装備可能レベル帯1〜100。特殊効果:全て装備時被ダメージ30%カット)
確かこれは、3周年記念の時に、初心者が『世界の果てには』に参入しやす様に運営が与えたサポートアイテムだ。
初心者じゃなくてもその時期にログインしていた人全員に配っていたため、快斗も受け取っていた。
それにこれは町の倉庫に預けることは出来ても、売り払ったり捨てたり出来ないため、結構厄介だったりする。
「…倉庫に預けてなくてよかった」
これを見たせいで一瞬倉庫に預けていたモンスターの素材達が思い浮かんで、また憂鬱な気持ちになるが、先程よりは大丈夫だ。
素材であればそこまで惜しくはないし、装備や大事なものは全て持ち物に持っていたから、唯一無二のものは失わなかった。
3つのアイテムを全て選択して取り出す。
ポチっと押した瞬間に、快斗の目の前に3つの光るポリゴン体が現れて、すぐに崩れる様にしてアイテムが現れた。
ボトッと地面に落下したため、一つ一つ拾って確かめる。
「取り敢えずは、これで装備は大丈夫か」
今まで来ていた服を脱いで、床に落ちていた駆け出しセットを着用する。
着慣れてないから少し手間取ったが、随分と軽く、そして身体の動くを阻害しない作りになっていた。
ロングブーツに皮のズボン、そして鉄の剣。
鉄の剣はまだ必要ないため、快斗は持ち物欄にしまっておく。
仕舞い方がわからずどうしようかと悩んだが、手に持った状態で意識すると光となって消えた。
そのまま地面に落ちていたリングも手に取ると、右手の人差し指につける。
「…まさか、レベル1でも使える召喚石があったとは…。超絶ラッキー」
正方形の黒い石を手に取ると、快斗は思わず笑ってしまう。
召喚石は、その他系にある調教と封印、後は状態維持のスキルを獲得することで、野生のモンスターをいつでも召喚して戦わせることができる石だ。
快斗も召喚石を作ることが出来るし、強力な召喚石も持っているが、召喚石は作った時点で中にいるモンスターのレベルに応じて使用制限がかかってしまう。
とてもでは無いが、転生前のキャラが使える召喚石なんて持っていなかった。
「分隊って事は10人の兵士か。それにレベル150か…。まぁ初心者用だし仕方がないか」
正方形の黒い石に走る紫の光る線を指でなぞると少しため息をつく。
快斗にしては、せめて隊長は軍曹ではなく大佐レベルの召喚石が良かったが、文句など言っていられない。
「使うか。『召喚石起動』」
使用コードであるセリフを唱えると、持っていた召喚石を弾く様に前方に飛ばす。
すると石に走っていた紫の線が強く光り、機械の様に分解されて中から人型の光が現れる。
一人二人、どんどん増えていき、最終的に10人の人型が出来ると、次第に光が消えて姿が現れた。
「分隊隊長、軍曹のアミエル・ローヴェン以下9名只今召喚に馳せ参じました」
9名の女性兵士がズラッと後ろに並び、先頭に立っていたロングの赤い髪と深紅を思わせるパッチリとした瞳の美女が、快斗を目視して敬礼する。
身長は170はある長身で、すらっと長い足、そしてキュッとくびれた腰から上は、軍服を盛り上げる大きな胸。
現実の軍人ではあり得ない様な、きめ細やかな白い肌に細っそりとした腕と足。
ゲーム特有のステータスが物を言う仕様であるせいか、筋肉マッチョの女性ではなかった。
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