12
湖畔は、そこまで混み合ってなかった。家族連れや恋人、友人同士っぽい集まりなど、夏休みという季節が季節なだけに色んなコミュニティが見えるが、別に泳げないほどの物でもない。
「おー。結構いい感じっすね」
「一応それっぽさは出てんな。いいんじゃねーの?」
「人数も多くないし多分大丈夫だと思います」
そして僕達男子陣は、女子陣より先に着替えが終わったのでシートの上に小さめのパラソルと椅子を設置しただけの簡素な荷物置き場を作っていた。ただその仕事もひと段落付いたので、ちょっと一息ついているところ。
「にしてもまだっすかね、女性陣」
「うーん、多分そろそろじゃないかな?」
「そう焦んなって......って、噂をすればなんとやら。おーい、こっちだこっち」
どうやら、女性陣の着替えが終わったらしい。永沢先生が手を振りながら、三人をこちらの方へ誘導している。そして、それに従って......見慣れた三人が、見慣れない格好を身に纏いながらこちらに近寄ってくる。
「......準備はいいっすか。瀬上先輩」
「......何の?」
「......案外南とかも良い線言ってると思うんすよ、俺」
「......そっか」
「すみません。お待たせしました」
「用意、ありがとうございました」
「瀬上先輩や葉村君も。ありがとうございます」
「はいはい。んじゃ、俺はここでのんびりしてっから。なんかあったら呼んでくれ」
なんてまぁ、頭の悪そうなやり取りをしてると、いつの間にかすぐそこまで女性陣が近づいていた。葉村君と一緒に、思わず声のした方へ振り向く。振り向いて、
「......おぉ」
「......ヒュウ」
思わず、声を失う。それくらい目の前の光景のインパクトは大きかった。色んな意味で。
「おいこら。なんだその視線は」
天音先輩が、真っ先に毒づく。いや、確かに思わず真っ先にガン見したのは申し訳ないと思ってますよ?はい。水着だってまぁその、天音先輩の体型に合ってるし似合ってはいますよ?一部の層には需要ありそうですし。はい。でも、なぁ。
「だからって普通、バカ正直に学校指定の水着持ってきます......?天音先輩、一応区分上は女子高生ですよね......?」
「いやだって、家にあるのこれだけだったし!ていうか区分上ってなんだよ!区分上って!私は真っ当なJKだ!」
「しかも手に持ってるレンタルの浮き輪......どう見ても市民プールで遊んでる小学生っすね、本当にありがとうございました」
「君達には先輩を敬う心が無いのか?なぁ?」
「まぁ水着は似合ってると思いますよ。はい」
「チョイスとしては悪くないんじゃないっすか?」
「今更言ったって遅いよ!つーか半分棒読みじゃん!」
「ま、まぁまぁ。落ち着いてください天音先輩。その......か、活発さが前面に出てていいと思います!」
「......ありがとね、うん......」
そして、そんな天音先輩を宥めるのは同じく水着姿の南さん。あれは......パレオタイプ、って言うんだっけ。上半身なんかは結構露出もあるが、空ほどでは無いにしても思ったより南さんのスタイルが良く、バッチリ着こなしていて似合っている。結構着痩せするタイプなんだろうか。水着の色が控えめなネイビーブルーなのも清楚な雰囲気を醸し出しており、南さんのイメージに合ってる。
「だから言ったじゃないっすか俺。南はダークホースだって」
「......中々の慧眼だね、君」
「あ、あはは......。ど、どうもありがとうございます」
照れ笑いしながら、南さんが小さく呟く。その動作が余計に破壊力を上げてるの、多分本人は無自覚なんだろうなぁ。
「ゆきのん、かわいい」
そう呟いて笑顔で南さんの方を見つめるているのは、最強候補と名高い僕の幼馴染。着ているのは上下揃って飾り気のない無地の白ビキニなんだけど、それがかえって完成度を高めているのは流石素材の力と言った所だろうか。同年代の中では明らかにサイズの大きい豊満な胸とか、モデルと見紛うかのよな腰の細さとか、これでもかと言わんばかりのきめ細かい肌とか......いや、本当凄い以外の感想が出てこない。凄い。
「やべーっすねこれ。いやこれ......やべーっすね」
「なんていうか、うん。気持ちは分かる」
「志津宮先輩が反則級の存在なのは知ってましたけど、実物見せられると改めてレベル差に絶望しますね......」
「ゆきのん、こればかりは相手が悪い。見なかった事にして私と早く泳ごう。な?......あと、ついでに空君は可及的速やかに私へ身長とおっぱいを譲渡しろ」
ただ、そんな僕達の賞賛(と嫉妬)を前にしてもこの無自覚天然少女は顔色一つ変えずシレッとしている。それどころか、
「そんな事ない。天音先輩もゆきのんも、十分可愛いと思う」
こんな事を言い出す始末。いや、その発言は下手すると暴動起きるよ?大丈夫?
「これが......『持つ者』の余裕なんですね......」
「ごめん南さん、あれ多分素」
「志津宮先輩......恐ろしい子......」
「もうとっとと泳ぐぞ!これ以上はみんなのメンタルが限界だ!というか私のメンタルがもう限界だ!」
とまぁ、こんな感じの波乱の中、初日の僕達の湖水浴は幕を開けたのだった。ちなみに永沢先生は、いつの間にかどっかからビーチチェアを持ってきて完全に休む態勢に入っていた。
それからは、ノリで葉村君の遠泳に付き合って死にそうになったり、みんなで天音先輩に泳ぎを教えたり(結果、バタ足くらいはなんとかできるようになってた)、南さんの作った間食をみんなで食べたり、空の余りの天然な返しに3回ほどナンパの男が撃退されたり......色々楽しんでいるうち、あっという間に夕方になっていた。
「おーい。そろそろお前ら上がってきやがれ」
永沢先生の合図を聞いて、思い思いの場所にいた全員が集合する。湖畔の喧騒も、ほとんど消えかかっていた。
「そろそろ帰るぞー。飯の時間だ。んでその後、観測会すんだろ?俺は一応付き添いはするしスケジュールも把握はしてあるが、いつもの観測会みたく天音と瀬上手動でやってくんだろ?」
「そうなりますね。......みんな、いよいよこの後は一年の内で一番の本格的な天体観測が始まる。いつも通り、全力で楽しんで行こうじゃないか!」
「「「「はいっ!」」」」
天音先輩の言葉を聞いて、全員が勢い良く返事する。ほんと、こういう時は頼りになる部長だ。
「よーし。んじゃ着替えて片付けしてバス乗ろう。忘れ物しないように」
そして、そのまま男女に分かれてそのまま更衣室へ向かおうとする。
「ねぇ、昴」
「ん?」
だが、空にふと呼び止められる。何か用でもあるのかな?
「この合宿。楽しく、しようね」
ただ、僕の予想に反して空の口から出てくる言葉は用事を告げる物なんかでは無かった。でも......何が言いたいのかは、分かる。
「うん。去年の合宿も楽しかったけど、今年は、できる限りもっとたくさん楽しんでいこう」
「......ん」
そう言って、空は黙り込む。茜色に染まった空と、それを反射し幻想的に揺らめく湖をバックを背にした水着姿の空は......それはもう、ため息が出るほど、美しくて。分かれて更衣室に向かうまでしばらくの間、僕の目は空の姿に釘付けになっていた。
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