67 最強メンバー、揃う

「こんにちは。遅くなってごめんね~」


 扉が開くと一番に聞こえてきたのが、アエーシュマの声だった。

 その後に、「お邪魔します」という声がいくつか聞こえてくる。しかも全部聞き覚えのある声。


 アエーシュマがひとりで来たわけじゃない?

 他にも誰か連れてきてる? 主に私のお友達を??

 どういうことだ??


 さっきから何が何だかわからない。

 どうせそのうち嫌でも説明されるんだから、考えるのはやめにしよう。無駄なエネルギーは使うもんじゃない。


「本当にごめんね、ニコレット。こんなことになるとは思わなくてさ。あ、エイリーさっきぶり」

「さっきぶり」


 まず、姿を見せたのはアエーシュマだった。


「エイリーはもっと慎重に行動するべきだわ」

「今回の場合は不可抗力だし、私に言われても困るなぁ……」

「あら、不可抗力って言葉知ってたのね」

「私、そこまで馬鹿じゃないしっ!」


 失礼なっ。


 そんな言葉と共に姿を見せたのはグリー。

 う~ん。アイオーンの王女様が他国に来ていいのだろうか? しかも、不法入国だよね?

 う~ん。私も人のことは言えないけど。う~ん。本当にいいのだろうか?


「エイリー、無事で良かったよ。話を聞いたときは意味がわからなかったけど」

「うん。私もいまいちわかってないから大丈夫だよ」

「それは大丈夫って言うのかなぁ……」

「大丈夫、大丈夫。こうしてなんとかなってるし」


 私を心配してくれたのは、天使ことシェミーだった。

 見た目に反してシェミーが強いことは知ってるけど、こうして敵国に乗り込んできて大丈夫なんだろうか? こっちの方が心配だ。

 しかも、シェミーに不法入国させるなんて……。どこの悪魔の仕業だ?!


「エイリーは計画通りに物事を進めるとは思いませんでしたけど……、ここまでとは」

「私がいつも計画を破綻させるみたいに言わないでくれるかな?!」

「え、違うのですか?」

「……若干、あってると言えなくないかもしれないけど。いつもじゃないから!」


 不可抗力とは言え、今の状況では全く説得力がない。状況が悪すぎる。

 全ては転移魔法のせい、つまりはアエーシュマのせい、もっと言えば父さんたちのせいだ!


 最後に姿を見せたのが、私の情報屋のメリッサだ。

 メリッサはいいこちゃんだが、最近私の扱いが雑になっている気がする。というか、私の扱いを完璧に覚えたって言った方が正しいかもしれない。

 それくらい親しくなったってことだけど、う~ん、なんだか色々と複雑だ。


 それぞれニコレットに挨拶を済ませ、本題――私への説明会が始まった。


「エイリーは何も知らないってことで良いんだよね?」

「うん。驚くほど何も知らない。何にも聞いてない」


 ベルナから話を持ちかけられてそれっきりだ。

 それに付け加えるように、アエーシュマが続ける。


「それはベルナディッドが『計画を話すのは直前でいいから』って言ったからだよ。『エイリーはまだ先の仕事の話なんて聞きたくないだろうから』って」

「よくわかってるじゃん」

「それに『どうせ、前もって話してても、どうせ忘れるだろうから』っても言ってたね」

「……よくわかってるじゃん」


 どうにも最近、周りの人々が私のことを理解し、扱いを覚えてきた気がする。

 それは嬉しいことなんだけど、どうにも扱いが雑なんだよなぁ……。

 間違いじゃないんだけど。むしろ正しいんだけど。

 でも、でもさあ、もっと丁寧でもいいんじゃないのかなぁ?!


「まー、誰かさんの魔法のせいで、事前に立てた計画はほぼ使えないから、話すことはそんなにないんだけどね」

「私が悪いみたいに言うけど、今回に関しては私も想定外だからね?! 加えて言うなら、あんたにも責任あるからね、アエーシュマっ!」


 いきなり転移魔法の練習をしようって言ったのは、どこの誰だ?!

 それがなかったら、私は今こうしてディカイオシュネーにいることはないのだっ!


「私だってエイリーが一発で転移魔法を使えるだなんて、想像もしてなかったよ。誰かさんの魔力量が多すぎるのが悪い」

「それは仕方なくない?!」


 あるものはあるんだから!

 それに多すぎて困ることなんてあんまりないんだし、どれだけ魔力を持ってたっていいじゃんっ!


「あと、エイリー。私のことはゼノビィアって呼んでって言ったよね? すぐそうやってボロを出すんだから」

「うぐっ……」


 ここには私の正体知ってる人しかいないから良いけどさ、と零しながらアエーシュマはため息をついた。

 そういうところだよ、と言われてる気分だ。いや、実際言われてるんだろう。


「まあ、それはさておき。ここにいる6人が計画実行メンバーだよ。主な選考理由はエイリーと親しいから、強いからかな」

「理由はなんとなく察してはいたけど……、他の人はともかく、グリーは来て大丈夫なわけ? 一応、お姫様でしょ?」


 そう言って、グリーの方を見ると、少し不機嫌そうな顔をしていた。


「一応って失礼ね。わたくしは正真正銘、王族よ」

「ごめんね。色々ありすぎて実感ないの」


 危険な森にいたり、町に来てみたり、挙げ句の果てには他国に潜入して……。

 王族のくせにフットワーク軽すぎなんだよ。これは他の奴らにも言えるけど。


「否定はしないけれど、エイリーに言われると少しイラッとするわね」

「どうしてだよ」

「自分の胸に手を当てて聞いてみなさい?」


 グリーに言われたので、一応やってみる。

 どくんどくんと心臓の音が伝わってくるだけで、他に何もわからない。

 わからないものはわからないから、仕方ないよね! 気にしないでおこう!


「わたくしは王位継承しないから、ある程度自由に動けるの。それに戦争の準備をしている国内にいるとむしろ足手まといだし、こうして潜入してた方がいいのよ。それに、こっちの方が自由に戦えるしね」

「あー」


 最後の一言で納得してしまった。

 グリーは剣を持つと人格が変わる。つまり、第二王女グリゼル・マスグレイブとして、人前では剣を振るえないのだ。

 剣を持つと人格変わるってお姫様を見たい人なんて、そうそういないだろうし。


 潜入計画に参加した方が、グリーは自由に動けるのかもしれない。

 いや、それもどうなんだよってっ話だけどね。


「ちなみにファースお兄様は来ないわよ?」

「はへ?」

「この間の一件の罰みたいなものね」

「はい?」

「それに任務中にいちゃつかれても困るし」

「はああああああ?!」


 意味不明なことを言い出したかと思ったら、何を言い出したんだこいつ?!

 一気に体温が上がったんだけど?!


「ついに恋人になったのね。おめでとう」


 しかもこの状況で、しれっとお祝いするか?!

 まじで、意味不明すぎるんだが?!


 お願いだからやめてくれええええええええ?!


「今、する話なのかな、これ?!」


 慌てる私を、みんなはニヤニヤと見てきて、「おめでとう」とか言ってきやがった。

 くそおおお。覚えてろよ。

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