68 脳筋な踊る戦乙女

「それで、これからどうするの?」


 これ以上踏み込んだ話をされる前に、私は先手を打った。

 いつも話の変え方が下手だのなんだの言われるけど、今回ばかりは仕方ないと思うんだよね。うん。


 みんなもこれ以上聞いてくる気はないらしく、ふざけた表情から真剣な表情へ変わる。これで一安心。

 私の話より、これからのことの方が大事だよね! そんな話後でも大丈夫だよね! まあ、後からもしないけどね!


「どうしようね?」


 困ったように言うのはニコレット。

 そうだよね。きっと、計画について一番考え、下準備してくれていたのは彼女だ。

 私には想像もつかないくらいの苦労をしたんだろう。


 そう思うと途端に申し訳なくなってくるな……。

 でも、だからと言って未然に防げることだったのかと言ったら、微妙なところだし……。

 私だって、こんなに早く来る予定なかったし。だらだらしているはずだったし。


「早いけど、進めるしかないんじゃない?」


 気楽に言うのはアエーシュマ。

 私もその意見に賛成。

 早く来たなら、早く仕事を終わらせて、早く我が家に帰りたい。そして、だらだらしたい。


 アエーシュマの意見に反対する人はいなく、みんなこくりとうなずく。

 まあ、大人しくしてる必要性ってあんまりないもんね。大人しく隠れてても、バレるときはバレるし。


「じゃあ、今後のことについて話し合おうか」

「偉い人がいるところに乗り込めばいいんじゃない~?」


 色々と遠回りするのって、安全だし確実だけど、長いんだよね。めんどくさいって言うか。

 このメンバーなら早々やられることないし、正面突破でいいんじゃないの? いいよね?


 でも、みんなはそう思わないらしく、「お前アホなの?」と言いたげにこちらを見てくる。

 アホで悪かったな!!!!

 こちとら戦うことしかできないんだよ!!!!


「あのさ、もっとよく考えてもらってもいいですか?」


 嫌味ったらしく、アエーシュマが言ってくる。

 う~、確かに脳筋発言だけれども。そこまで否定しなくてよくないかな?!


「一応考えたし!」

「へえ?」

「計画って考えるだけで疲れるしさ、あ、それにどこかで想定外のことが起こったら、軌道修正しないといけないじゃん? 一回立てた計画が無駄になっちゃったんだしさ、もう深く考えずに正面突破の方が楽なんじゃないかな~って」


 今思いついたことを適当に話しているので、どうにも早口になる。

 よく回るなぁ、私の口。


「うん。エイリーの考えたことはわかった。とりあえず、めんどくさいんだね?」

「そういうことだよ、シェミー」


 でも、簡潔にまとめてほしくなかったかな、シェミー。

 そう言うと、私が「めんどくさいから正面突破しようぜ!」って言ってるヤバい奴に聞こえるじゃん。

 間違ってないんだけどさ! 間違ってないんだけどさ!! 言葉にしないでほしかったかな!!


「……エイリーの考えは場合によっては使えるんだけどさ、今回はダメ」

「なんで?」


 でも、場合によっては使える作戦なのか! ただの脳筋の作戦じゃないんだね!

 相手が油断しているところを突くってことか~。無謀に聞こえるけど、攻め込むメンバーが強ければありな作戦だな。

 ふむふむ。私、結構できる子?


「なんでって……。今回、ディカイオシュネーに潜入した目的がなんだかわかってる?」

「偉い奴をぶっとばす」

「……いや、間違ってないんだけどさ、いや、間違ってるか?」

「どっちだよ」

「じゃあ、間違ってる」

「ええ、間違ってるの?!」


 ため息を吐きながら、アエーシュマは言ってくる。


 間違ってないもん!

 だって、私はベルナに、悪魔がいたら倒して、いなかったら偉い奴を捕らえてって言われたんだよ?

 まとめたら、偉い奴をぶっとばすじゃん! 間違ってないじゃん!


「目的は主に3つ。潜んでる悪魔を無力化すること。ディカイオシュネーの首脳部を捕らえ、戦争の被害を最小限にすること。そして、ノエルとデジレを捕らえること」

「最初のふたつは知ってるけど、最後のひとつは初耳だ」

「聞かなくてもわかっててほしいことだけど……。それに、エイリーだって、言われなくても捕まえる気満々でしょ?」

「勿論。デジレのことは一発ぶん殴らないと気が済まないしね」

「まあ、そういうことだよ」


 そうだよね。ベルナだって、他の人だって、ノエルちゃんのことは心配だよね。

 私がディカイオシュネーに来た一番の目的だって、ノエルちゃんとデジレがいるって聞いたからだし。


「その目的を達成するのに、正面突破は向かないのよ」


 ここで、グリーが口を開く。


「悪魔がいて、人間たちを操っているとして、悪魔から見たら人間は捨て駒でしょ? そんな状況で乗り込んだら、悪魔たちは人間を見捨てて逃げるに決まってるわ」

「根性ないね」

「仕方ないじゃない。上級悪魔を倒し、従えているエイリーがいて、何の準備もできてない不利な状態で、戦う悪魔がどれくらいいるのかって話よ」

「エイリーって奴、そう聞くと相当ヤバい奴だね」

「あら、ようやく自覚してくれた?」


 あまりにも嬉しそうにグリーが微笑むので、冗談だったとは言えなかった。

 私、そんなにヤバい奴……? 少しだけだと思ってたんだけどなぁ……。


「後ろにいる悪魔は場合によっては逃げないかもしれないけど、十中八九ノエルとデジレは逃げるはずよ。また、一から探すことになるわね。それはいらない手間だわ」

「まあ、それは確かに」

「だから、今回の場合は向かないってわけ。相手が整えた状況にあえてはまってあげないと、これらをまとめて片付けることはできないわ」

「なるほど。勉強になります」


 流石は王女様。色々と考えてるんだなぁ……。

 私にはそんなこと考えられないよ。

 グリーって本当に王女様なんだねぇ。


「それを踏まえた上で、今後どうするのか考えましょ」


 グリーの言葉に、みんな揃ってうなずいた。


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