35 やっぱり、踊る戦乙女と魔王は似てる
「自信満々だね?」
「ああ。我がこんな小娘に負けるわけないだろう」
「私だってこんな性悪に負ける気はしないし~!」
私と魔王は、睨み合う。口調はさっきと変わらないが、視線の重さは違う。
私も、あいつも、本気だ。
「勝負を始める前に、ひとつ聞きたいことがある」
「何?」
「どうして、お前が防御する側と決まってるんだ? こういうのは、コイントスとかで、決めるものじゃないのか?」
「…………」
鋭いところを突かれてしまった。まあ、普通気がつくよね。
この魔王だったら、ワンチャンあるかなと思ってたけど、ダメだったか。まあ、こんなくそ野郎でも魔王だもんね。
「え? だって、私が攻撃する側だったら、間違いなく魔王を倒しちゃうよ? そういうのってつまらなくない? だからと言って、手加減してもつまんないし。仕方ないんだよ」
「ほう?」
魔王の纏っていた空気が凍る。どうやら、私の安い挑発に乗ってくれたようだ。
「魔王である我の攻撃なんかでは、お前は死なないと」
「あはは。冗談が上手いね」
「冗談、だと?」
「あんたの攻撃なんかで、死ぬわけないでしょ。しかもまだ完全に力が戻ってない、あんたなんかに負けるわけない」
これは少し嘘だ。死ぬつもりはさらさらないけど、万が一ってことはこの魔王に限ってはあり得るかもしれない。
こんなムカつく奴に負けるなんて、嫌だけどね!
私が魔王を煽っているのを見て、ブライアンとミリッツェアは顔を真っ青にしている。
あれ、絶対私より心臓ばくばくしてるって。あのふたり、大丈夫かなぁ……。心配しすぎじゃない?
「……その言葉、言ったことを後悔させてやろう」
「後悔なんて絶対しないから、安心して?」
「じゃあ、撤回させてやろう。ゲームに勝ったときに、我が命令するのはそれだ」
魔王の言葉に、「は?」と言葉が漏れた。
どうやら、今度は私が驚かされる番だったようだ。
「命令、そんなんでいいの?」
私に命令できる機会って、滅多にないと思うよ? 一生に一回あるかないかじゃない?
「これはゲームなんだろう? 本気な命令を出しては、面白くないではないか」
魔王は表情を変えることなく、淡々と言ってのける。
だから、私は思わず声を出して笑ってしまう。
認めたくないけど、こいつとは似ているところがあるのかもしれない。
「あはははっ! 最高だね! 楽しくなってきたよ」
「だろう? では、早速始めようではないか」
魔王はそう言うと、魔法を放つ準備をする。準備とは言っても、詠唱をするのではなくて、魔力を一点に集中させている感じだ。
悪魔だって無詠唱で魔法を使えるのだ。尚更、魔王にはそんなもの必要ないだろう。
ていうか、結構やばい魔法が向けられてる気がする。
下手したら、森が吹き飛ぶかもしれないなぁ……。
魔王、ゲームなのに本気出しすぎでしょ。まあ、その気持ちわかるけどさぁ。
そんなことを呑気に考えながら、私もクラウソラスを抜いて準備をする。
頼むよ、相棒。
「準備はいいか?」
「いつでも来なよ。
――――その魔法、綺麗に斬ってあげる」
クラウソラスの剣先を魔王に向けて、笑う。
準備は万端。あとは、なるようになるさっ!
「ほう。それは楽しみだっ!」
その言葉が合図となって、魔王の魔法が発動する。
闇でできた何百本もの矢が、ものすごい勢いで、私に向かって飛んでくる。
だが、これは好都合。
私の得意な防御魔法にぴったりだ。
「我の脅威よ、霧散せよ、霧散せよ。無に還れ、無に還れ、無に還れっ!」
詠いながら、くるくるっとその場で一回転。そして、空間を斬るように、光を纏ったクラウソラスを振り下ろす。
すると、あら不思議。一瞬にして、矢が消えた。
この魔法は、魔法の根源を斬るものだ。いくら、矢が沢山あるとは言え、同じ根源――つまり、魔王が魔力を集めた一点からできている。そこをすぱーんと斬ってしまえば、魔法もすぱーんと斬れるわけだ。
……魔王の魔力量が想像以上に多くて、少し手間取ったのは、永遠に秘密にしておこう、そうしよう。
「私の勝ちだね」
「……我の魔法を本当に防ぐとは」
こんなにあっさり負けるとは思ってなかったらしく、魔王は唖然としていた。
その表情、しっかり目に焼き付けないと。傑作だ。
「舐めてるからこうなるんだよ」
「はっ。加減してたのがバレてたか」
「そりゃあね。魔王の魔力にしては、物足りないなぁって思ったよ」
その会話に、ブライアンたちは目を大きくして驚いた。
あれだけの魔力を使っておきながら、加減していたと言うのだ。驚いて当然だろうな。
「負けたわけだし、さっさと帰ってくれる?」
「そうだな。帰るぞ、タローマティ」
反論することなく、魔王はタローマティに声をかける。タローマティはうなずく頷くと、魔王の側による。
「ねえ、その体は置いていってよ。あんたのじゃないでしょ」
何事もなかったように、帰ろうとするので、私は声を低くして言う。
こいつ、本当にちゃっかりしてるな。
「そうだね。でも、今は僕のだ」
「いいからさっさと返せ」
「嫌だね。別の体が見つかるまでは、返すつもりはないよ」
「……力ずくでもいいんだけど?」
「ゲームは終わったんじゃないのかい?」
「それは魔王との。あんたは関係ないでしょ」
「でも、僕は魔王様と帰らないといけないし。さっさと帰れと言ったのは、君だろう?」
うぐ、言葉に詰まる。
こいつ、口だけは達者なんだよなぁ。腹立つなぁ。
「良いから帰るぞ」
「はい」
そして、魔王が転移魔法を使う。
魔王たちの姿が消えるかどうかの寸前で、私は叫ぶ。
「覚えてろよっ! 次会うときは、お前たちまとめてボッコボコにしてやる!」
…………決して、負け惜しみなんかじゃない。というか、勝負には勝ったし! 何で私が負けたみたいになってるの?!
そんな感じで、魔王とのゲームは終わったのだった。
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