17 こいつらはこういう奴らだった

 ネルソン公爵家に身を置く始めてから、一週間が過ぎた。


 私はこの一週間、ひたすらだらだらしていた。

 ご飯の準備などの家事は、全てメイドさんがやってくれる。そればかりか、着替えの手伝いや寝癖直しなどもやってくれる。


 最初は戸惑ったものの、慣れるとなんてことはなく、むしろ超快適だ。余計なことをしなくていいので、楽ちんだ。


 父さんたちも、足りなかったルシール成分を十分に摂取出来たみたいで、だんだんと落ち着いてきた。とは言うものの、まだまだ溺愛っぷりがやばいけど。

 父さんたちの対応の仕方もわかったので、何ら問題はない。


 基本的に私に甘い父さんたちは、寝て起きてご飯食べて寝るという、いかにも駄目人間的な生活を許してくれている。

 快適な実家生活を送れているわけなのだ。



 とはいうものの、そろそろミリッツェアが問題を調べ始めないといけない。

 こんなだらだらしてたら、問題も解決しないし、いつまで経ってもアイオーンにも帰れない。


 と、ふかふかで豪華なベッドで決意した。

 流石、貴族様ベッド。すごく質がよろしい。体が綿に包まれているような気分になる。


 こんなベッドだから、私はいつまで経っても起きられないんだ!

 ごろごろしちゃうんだ!


 そんな風に、今日も今日とて、ベッドの上でごろごろしていると、メイドさんがノックをして入ってきた。


「エイリー様」

「どうしたの?」


 やっぱり、『エイリー様』って呼ばれるの慣れないなぁ……。

 何回か、エイリーって呼んで、とは言ってみたんだけど、流石に駄目だった。

 私はお客様、というか一応、ネルソン公爵家の一員だから、呼び捨てとタメ口は、私が許しても本人たちが許せないらしい。


 まあ、そりゃあそうだよなぁ……。でもねぇ……。


「ブライアン王子殿下が、明日の午後1時に、我が家にいらっしゃるそうです」

「そうなんだ。わざわざどうして?」

「エイリー様にお話があるそうです」

「はあ、私に」


 今度は何の用だよ。できることなら、あの王子とは会いたくないんだけど。

 もしかして、もしかしなくても、ミリッツェアのことかなぁ……。それなら一応は、話を聞かないとね。

 めんどくさいけど仕方がない。


 まあ、そんなこんなで、ブライアンに会うことになったのだ。



 * * *



「……あのさ、どうしてあんたたちもいるわけ?」

「もしかして、聞いてなかったのか?」


 にこにこと笑いながら、ファースが隣でお茶を優雅に飲んでいる。真っ正面にはグリーが、レノが座っている。

 この笑顔、絶対に確信犯だな。


 –––––––––––––何で、しれっとこいつら隣国にいるんだ?



「俺が頼んだんだよ」


 そこで、口を挟んできたのが、今回のお客様、ブライアンだ。


「はあ? どういうこと?」

「だって、お前のことを止められるのは、ファース殿だけだろう?」

「人を暴れ馬みたいに言わないでくれる?」

「事実だろう?」

「そんなことない! ねえ?!」


 私は、ファースたちに聞く。

 すると、彼らは目で互いの答えを確認して、声を揃えて言いやがった。


「「「残念ながら、事実」」」


 見事にハモった。だから、こういうところでハモらなくていいんだって!

 息ぴったりだなぁ、こいつら!!


「理由、理由は何よ?!」

「自分の胸に手を当てて考えてみればどうかしら?」


 グリーがため息を吐きながら言う。

 何で私、怒られてるみたいになっているんだ……?


 とりあえず、自分で考えてみる。

 うーん、特にないかなぁ?  そりゃあ、少しまずいことは結構してるかもだけど、“暴れ馬”みたいに言われるほどではなくない?


「……わかんない」

「本気で言ってるのか?!」

「本気だな、エイリーだもんな」


 驚くブライアンと納得するレノ。

 そんなに驚くことではなくないですか、これ。


「エイリー。1週間前、王城であった出来事を覚えているか?」


 ファースがそんなことを聞いてくる。

 何でそんなことを聞くんだ……?


「王様とかマカリオスの偉い人に会ったやつ?」

「そこで何をしたんだ」

「別に何も?」

「あれを別に何もで済ませるな!」


 私の答えに怒り狂った声で、ブライアンはツッコミを入れてくる。

 まあ、別に何もで済ませちゃダメかあれ。

 現実逃避してて話聞いてなかったり、少し喧嘩売ったみたいな会話になっちゃったりしたもんなぁ。


「確かに別に何もじゃないね。何やかんやあったね」

「何でそんなにお前は軽いんだ!」

「ブライアンこそ、どうしてそんなにピリピリしてるの?」

「お前なぁぁぁぁぁ!」


 そんなにイライラしてたって、いいことないよ。もっと気楽に行こうぜ!


「エイリー、貴女平常運転すぎるのよ」

「平常運転で何が悪いの? というか、そんなに私いつも通り?」

「環境が変わったのに、どうしてそんなにいつも通りなの? むしろ、いつもよりいきいきしてない?」

「それは流石に気のせいじゃん?」


 私だって、いつもと違う場所、周りの人も違う、そんな環境で、ドキドキするけど?!

 めっちゃ緊張してたけど?! もう慣れたけどさ!


「自覚ないのがたち悪いわね」

「酷くない?!」

「そんなんだから、ファースお兄様が呼ばれるのよ」


 困ったものだわ、と言いたげな表情をグリーはした。

 ちょっと、色々と失礼じゃないですかね?


「ファースたちって本当に何しにきたの?」

「魔王討伐のことについての話と、そのことを発表するためのパーティーへの参加だ」


 ファースが簡潔にそう言う。


 ふーん、パーティーかぁ。お貴族様、そういうの好きだよねぇ。

 これどっちも、私も参加しないといけないやつだよね?

 めんどくさい。


「ちなみにパーティーは明後日だ」

「急だね?!」

「そうでもないぞ。1週間くらい前には決まっていた」

「そうなの?!」


 ブライアンの言葉に、私は驚きしかない。

 だって私、全く知らなかったよ?! 何で私に回ってこないの?!

 私が家でダラダラしてる間に何があったわけ?!


「そして、話し合いは終わってるから、お前が参加するのはパーティーだけだ」

「当事者抜きで、話し合い終わってんの?! おかしくない?!」

「お前がいると話にならん」


 その証拠に、話し合いは何の問題もなく、円滑に進んだそうだ。

 話し合いに参加しなくていいのは嬉しいけど、私がいないことで捗るのは、それはそれでなんか悔しいっ!


「それらにアイオーンの使者として参加するのが、わたくしたちなの。お父様たちも魔王のことで忙しいから、わたくしたちもお手伝いをしなければいけないのよ」

「そっか、大変なんだねぇ」

「……そんなに呑気にしてるのは、エイリーだけだと思うぞ」


 ファースの冷静なツッコミ。


「あ、なんかこの感じ安心するなぁ……」

「急にどうした」

「いや、マカリオスにはそうやって、ツッコミ入れてくれる人いなかったから」

「……俺はツッコミ役なのか」


 ファースはなんだか複雑そうな顔をしていた。

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