4 腹黒国王改め鬼畜国王

 王城に着くと、すぐに私は国王様の元に連れて行かれた。

 隣にはファースが逃さないぞっという感じで立っている。


「よく来たな、エイリー」


 しれっとした顔で笑う腹黒国王。よく言うよ。


「……どういうことですか?」

「なんのことだ」

「とぼけないでくださいっ!」


 若干、ニヤリと笑ってるのはわかってるんだからな!

 あんたの企みに巻き込まれるのは、私が困るの、私が! 今回のは、一番しちゃダメなやつでしょ!


 腹黒国王は目を一度閉じ、真剣な表情に切り替えた。


「我にも立場というものがあってだな」

「はあ?」

アイオーンにいると知られ、しかもそれを意図的に隠していたとなったら、どうなるかわかっているか。国際問題だぞ」

「なんで今更!」


 今までは私の逃亡生活、助けてくれたじゃん! 今更すぎるでしょ! 急にひっくり返さないでよ!


「お主が魔王に宣戦布告したからだ」

「は?」

「それに加え、お主はアイオーンの、いや世界の最高戦力だ。魔王討伐に参加させないわけにはいかない」

「それがどうしたの?」

「魔王討伐とうのはな、多くの国が協力して行うものだ」


 まあ、そりゃあ、相手が魔王だもんね。ひとつの国が単体で挑むわけにはいかないし、ひとつの国でどうこうできる相手じゃない。


「今回の戦力は、踊る戦乙女ヴァルキリーと名高いエイリーとマカリオスの聖魔法の使い手、ミリッツェア・アントネッティだ。つまりそういうことだ」

「どういうことだ?!」


 全くわからんぞ、おい。


「お主の幻想魔法、親しい人には効きにくいんだろう?」

「ええまあ」

「ミリッツェア嬢はともかく、ブライアン王子にはほとんど効果はないんじゃないのか?」

「……多少はあると思いますよ」


 まあ、多少は。ちゃんと効くと信じたい。


「バレるのは時間の問題というわけだ」

「……そうじゃないと信じたい」

「だったら、早い段階で明かしておくのが得策じゃないか? お主の口から」

「……はい?」


 ちょっと話が嫌な方向に向いてきた気がするんだけど、気のせい? 気のせいだよね?!


「我々はエイリーの正体を知らなかった。お主はうまく隠していた。でも、魔王討伐にあたって、隠しきれないことを察したお主は、まずは悪いことをした当人たちの許しを乞う。みたいな流れで頼む」

「ちょっと待て、ちょっと待て?!」


 なんで、なんでそうなるの?! 色々とおかしくない?


「何か不満か?」

「不満しかないんですけど?!」

「何故だ? 我はお主を隠していたことがバレず、お主はかなり知能的で良い奴になるじゃないか」

「めっちゃ貶されてる気がするんですけど?!」


 腹黒国王、私のことどう見てるんだ。

 今の言い方だと、私が知能的ではなく、嫌な奴みたいな言い方じゃん。まあ、少しはそうかもしれないけど、そこまでじゃなくない? 少なくとも。嫌な奴ではなくない?


「そんなに不満か」

「はい! 国王様がひとつも悪くないみたいなやり方じゃないですか!」

「これでも譲歩した方なんだがな」

「どこが!」

「我共々、お主に騙されていた、と言おうと思えば言えるんだぞ?」


 確かにそうだ。私が全部いいように操っていた、と言うことが腹黒国王には可能だろう。やろうと思えば、全て私のせいにできるだろう。

 だけどさ!


「正直に話すって手はないんですかねぇ……」

「そんなことすると思うか?」

「思いますよ!」


 というか、正直に行こうぜ、正直に! ふたりで潔く謝ろうよ!


「……そういうことだ、よろしく頼むな」

「はああああああ?!」


 異論は認めん、ばかりの勢いで腹黒国王はそう言い切った。


 私の意見、全く無視ですか! ちょっと強引すぎません?

 ここまでくると、鬼畜国王だよ、鬼畜!


「……あの、少し良いですか?」


 そんな私と鬼畜国王が白熱したバトルを繰り広げている中、完全に蚊帳の外になっていたファースが、申し訳なさそうに声を出した。


 ファース、言ってやれ! 正直に話して謝ろうって、この鬼畜な父親に言ってやれ!


「なんだ、ファース」

「……エイリーが行方不明になっている他国の公爵令嬢とは、どういうことですか?」



 …………あ。


 やべえ、ついつい鬼畜国王と議論が白熱してしまったが、ファースそのこと知らないじゃん!

 私がマカリオスの悪名高き公爵令嬢、ルシール・ネルソンだって、知らないじゃん!


 というか、さらりと言っちゃってるんだよ、鬼畜国王。

 それは秘密だって、言ったじゃん!


「バレてしまったら仕方ない」


 おいいいいい?!

 自分からバラしておいて、そんなこと言っちゃいますううう?!


「隠してきたんだがな、踊る戦乙女ヴァルキリーのエイリーはな、実はマカリオスの公爵家令嬢、ルシール・ネルソンなのだ」


 何そして、私の許可もなくあっさりバラしてるんだよ、おい?!


 どうする、どうすればいいんだ。


「そ、それは本当なのですか」

「ああ、事実だ。なあ、エイリー、いや、ルシール嬢」


 そこまで言われたら、頷くしかないじゃん。もう後戻りできないじゃん。

 私はおとなしく認めた。


 はあ、これはファースに嫌われるんだろうなぁ。

 隠してきたこともそうだし、その正体が我儘令嬢、ルシール・ネルソンなんだもんなぁ。


 嫌われる、と思った瞬間、胸がきゅっと痛んだ。


「そうなのか……」


 ファースは深刻そうに、何かを考え出した。


 何を言われるんだろうな。

 少し前なら、何言われたって、縁を切られたって仕方ないなと思えたのに、どうして今はこんなに怖いんだろう。


 そんなの、答えはわかってる。

 私の中で、ファースという存在が大きなものになってしまったからだ。かけがえのない存在になってしまったからだ。


「……そうなんですね。わかりました」


 そして、ファースはカラッとした声でそう言った。


「え?」


 あまりにあっさりしすぎてたので、私は目をパチパチさせてしまう。


「どうかしたか?」

「いや、その、怒らないの?」

「隠したのって、理由があったんだろ」

「まあ……そうだけど。嫌いにならないの?」

「なんで?」

「なんでって……」


 戸惑う私を見て、ファースはくすくすと笑い出した。

 な、なんで急に笑い出すのさ! ひどいな!


「俺が好きなのは、ここにいるエイリーだ。それが誰であろうが関係ない」


 真面目な顔つきで、言ってくるファース。

 急に恥ずかしいことを言ってくるので、照れる。顔がぽっぽと熱を帯びてきた。


「それに目の前にいるのが、あの悪名高いルシール・ネルソンだとは思えない。何か事情があるんだろう?」

「……それは」

「無理に理由は聞かない。けど、これだけは言っておきたい。俺は何があってもエイリーの味方だよ」


 ……こういうこと言うの、卑怯だと思うんだよね。嬉しすぎて泣きたくなるじゃん。


 そこに、いい雰囲気をぶち壊す鬼畜国王の一言。


「お主ら、いつ結婚式をあげようか。そういえば、婚約も正式にはしてないよな」


 ニヤニヤと私たちを見ながら言ってくる。


 ちょっと本当に、空気読めよ! この鬼畜国王!



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