3 お迎えがファースだと嫌な予感しかしないよね
で、翌日。
私は寝坊することなく、冒険者省を待ち時間きっかりに訪れていた。私はやればできるのだ。
今日の衣装は、前に国王様に呼ばれた時に着た軍服よりの冒険者っぽい服だ。
ロワイエさんは新しく買いたかったらしいが、昨日は1日、ロワイエさんの勉強会で潰れたので、買いに行く暇がなかったのだ。
着せ替え人形になるのは回避できたが、昨日のお勉強会は辛かったので、良かったのか悪かったのかいまいちわからない。
とまあ、そんな感じで迎えを持っていると、馬車の音が聞こえてきた。
来たか。今日もレノが迎えに来たのかなぁ。でもレノ、きっと忙しいよねぇ。騎士団長様だから、魔王復活関連でばたばたしてそう。
「エイリー」
じゃあ今日は、知ってる人来ないのかな。まさか王族の誰かが迎えに来るわけないし。
王城に着くまでは暇だなぁ。
「エイリー」
「さっきからどうしたの、ファース」
「聞こえてたのか?」
「勿論」
「じゃあ何で返事しないんだ?」
「それは……って、え?」
ちょっと待って。私、今誰と会話してるの?
目の前を見ると、着飾ったファースがいた。
「えーと、ファース?」
「そうだけど?」
「本物?」
「偽物に見えるか?」
「見えない」
え、つまりどう言うこと?
何でここにファースがいるんだ?
「何で、いるの?」
「エイリーを迎えに来たからだけど」
「え? 何で」
「何でって来ちゃ駄目か?」
少し凹んだ表情を見せるファース。
むうう、その顔は卑怯なんじゃないか。私が悪いみたいじゃん。
「いや、あの、まさかファースが迎えに来てくれるとは思わなくって」
「レノが忙しいから変わってくれって」
「……ん?」
「エイリーの迎え頼まれたんだけど、忙しいから変わってくれってレノが」
「んん?」
おかしいなぁ。今頭の中で、ニヤニヤしてるレノの顔しか浮かばないんだけど?絶対これ、レノ面白がってるよね。
「どうかしたか」
「……なんでもない」
「その間はなんだ」
「なんでもないってば。ささ、早く行こ」
絶対レノと共犯でしょ、この男。私のことからかおうとしてるんだろうけど、そうはいかないからねっ!
そうして私たちは馬車に乗って、王城へ向かった。
* * *
「なあ、エイリー。魔王に宣戦布告したって本当か?」
馬車が動き出してすぐに、ファースが尋ねてきた。
「本当だけど」
宣戦布告って大袈裟なものじゃないけどね。
「どうしてそんなことしたんだ?」
「ムカついたから」
迷いなく私が言い切ると、ファースははあ、と呆れたようにため息を吐いた。
「エイリーが強いのは知っているけど、相手はあの魔王だ」
「毎回、復活されるたびに、ことごとく人間に封印されている魔王?」
「……それでも魔王だ」
ファースが一瞬言葉に詰まる。
本当、仮にも魔王なんだから強いはずなのに、どうして人間に封印されるんだろうね? 絶対油断してるんでしょ、あの魔王ならそうだろうなぁ。
「何をされてもおかしくないんだぞ。もしかしたら、殺されてたかもしれない」
「大丈夫、それはない」
「なんで断言できるんだ」
「理由は色々あるけど、私はそんなに弱くない」
1番の理由は魔王は本体で来てなかったから、私を殺せる力はなかったってやつだけど。
まあ、多少は見栄張っていいでしょ。なんかファースの言い方、私を信じてないように聞こえるし。
「それは知っている。だけど、心配になるんだよ」
「え」
「心配させないでくれ」
え、えええ、ええええええ?
な、なななななんですか、そんな真剣な瞳で見つめないでください?
私が悪かったって思っちゃうじゃん。ドキドキしてきちゃうじゃん?
どうしようもないこの状況に、私は口をぱくぱくさせるしかない。
「エイリー、聞いてるのか?」
「も、勿論、聞いてますとも、ええ」
「なんか喋り方おかしくないか」
「き、気のせいでございますのよ、はははは」
「やっぱりおかしい」
「そうかのぉ」
「明らかにおかしいだろっ!」
ツッコミありがとう。でもこんなことになってるのは、ファースのせいなんだからね?
こほん、と咳払いをして、私は場を仕切り直す。
「わかった、わかったよ。これから考えなしの行動は控える」
「まあ、エイリーに期待はしてないけどな」
「酷いなぁ!」
くすくす、とファースが楽しそうに笑ったので、私も笑ってしまう。
本当にファースの笑顔は可愛いなぁ……。って私何考えてるんだ?
いや、美形だから笑った顔も様になるだけじゃん。アイドルの笑顔が可愛いって思うのと一緒じゃん。他意はない、他意はないんだ……!
そんな感じで私が焦っていると、
「それにしてもどうして、魔王に宣戦布告したんだ?」
ファースが聞いてくる。
「安眠妨害されたから」
「……は?」
「せっかく気持ち良く寝てたところを、魔王に起こされたの」
「それだけ?」
「それだけって何?!」
まあ、それだけだけど。いいじゃん、魔王倒す気になったんだから!
「エイリーらしいや」
「……でしょでしょ」
褒められてる? ないよね、完全に嫌味だよね。
「あ、エイリーに伝えないといけないことがあったんだ」
「何?」
「父上からなんだけど」
――――嫌な予感しかしない。
「マカリオスから、今日使者が来るから、エイリーも立ち会ってほしいそうだ」
「……は?」
「マカリオスから、第一王子、ブライアン殿下と聖魔法の使い手ミリッツェア伯爵令嬢が来るので、俺とエイリーに立ち会えと言われた」
「それだけは絶対嫌だ」
そんなんなら、死んだほうがマシだ。
なんで、よりにもよって、ブライアンとミリッツェアとここで会わないといけないの? 私、平和にやってたのに?
「どうしてそんなに嫌がるんだ」
「嫌なものは嫌だからだよ」
「でも、王命だし」
「そんなの知らない!」
「それに、魔王に宣戦布告した張本人じゃないか。少なくとも聖魔法の使えるミリッツェア伯爵令嬢とは協力していかないといけない」
「ぐぬぬぬ」
私はどうして、魔王に宣戦布告なんかしたんだ……!
「詳しくはこの後、父上に聞いてくれ」
くそ、あの腹黒国王め。嫌がらせってレベルじゃないぞ、覚えてろ……!
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