111 アデルフェーには仲良くなれる魔法がある

 さて、日々はあっという間に過ぎていき。明日はいよいよファースと会う日である。

 ファースが私のことを好きって知ってからは、定期的にファースを思い出し、どきどきしてしまう。

 今日なんか特に最悪で、ぼけぇえとしてると、ファースが頭をよぎる。


 なんなのなんなのなんなのっ!

 まだ、昼を過ぎたばかりなのに、何回ファースが出てきたか。

 くそお、一人でいるからダメなんだよな。

 お腹もすいたし、アデルフェーに昼飯を食べに行こうっ!

 お腹が減ってるから、余計なことを考えちゃうんだっ!


 そうやって、自分の感情を誤魔化して、家のドアを勢いよく閉めた。



 * * *



 流石お昼時。アデルフェーはかなり繁盛していた。


「こんにちは~」

「あ、いらっしゃい、エイリー」

「忙しそうだね」

「まあ、昼時だからね」


 シェミーは誘拐事件のあとも、今まで通りアデルフェーで忙しく働いている。

 変わったこと言えば、ゼーレ族の監視(という名の護衛)が付いたことと、笑顔がさらに可愛くなったことくらいだ。

 色々吹っ切れたみたいで、シェミーは少しだけ、素直になった気がする。さほど変わらないけどね。シェミーは今も昔も、シェミーだ。


「それでね、エイリー。混んでるから、相席でもいいかな? そうじゃなかったら、少し待ってもらうことになるけど」

「相席でいいよ。お腹すいたし」


 それにしても、私の席をキープできなくなるほど繁盛してるとは。嬉しいけど、私のアデルフェーじゃなくなるようで、少し悔しい。これが、古参の気持ちか……!


「ありがとう、席はこっち」


 そういうシェミーのあとをついて、私は騒がしい中歩いていく。


「あ、そいえばエイリー」

「どうしたの?」

「婚約おめでとう」

「……えーと、は?」


 シェミーが穢れなき笑顔で、そう告げてくる。こんな風に言われたら、ありがとうって言ってしまいそうだよ……!


「え、婚約したんでしょ。第二王子様と」

「そうだけど……」

「エイリー、王族の人からも好かれてたもんね。当然といえば当然なのか」

「……私、乗り気じゃないんだけど」

「そうなの? どうして?」

「王族との婚約だなんて、めんどくさいだけじゃん」

「そんなこと言うの、この世でエイリーくらいじゃない?」

「そんなことないっ! 絶対もっといるよ!!」


 婚約自体がめんどくさいのに、その上政略的婚約だ。

 普通、喜ぶ人なんていないだろ。乙女なら、恋愛結婚を夢見るんじゃないの?


「そうかなぁ。あ、ここだよ。

 ……すみません、相席よろしいでしょうか?」


 そんな会話をしているうちに、席に着いたみたいだ。かなり奥の方の席だが、私もいつもこのあたりを陣取るので、何の問題もない。


「あ、構いませんよ。チェルノもいいですよね?」

「ああ、問題ない」


 そこに座っていたのは、黒髪の少女と少年だった。とても似てるから、双子か双子じゃなくても兄弟だろう。


「こんにちは」

「「……っ!?」」


 私があいさつをすると、2人は驚いた顔をしてこっちを信じられないという顔をして見てきた。


「踊る戦乙女ヴァルキリー?!」

「相席って、この方ですか?」

「そうですよ。ではごゆっくり」


 ニコニコと微笑んで、シェミーは接客に戻っていった。

 ……この状態で立ち去るシェミー、凄すぎないか? 流石だな……。


「どうも、エイリーです。踊る戦乙女ヴァルキリーって呼ばれてるけど、エイリーって呼んでね」


 とりあえず、自己紹介をして空いてる席に座る。


「ほ、本物ですか?!」

「本物だね」

「僕、ファンなんです! 本物に会えるとは、流石王都!!」

「ありがとう」


 私のファンなんているんだねぇ。自分で言うのあれだけど、だいぶ物好きだねぇ。


「初めまして、エイリーさん。私はメリッサと言います。こっちは、双子の弟のチェルノ。私たち、田舎から王都に来たばかりなんです」

「初めまして、メリッサ、チェルノ。私のことは、エイリーでいいよ」

「わかりました、エイリー。まさかこんなところでエイリーに会えるとは思っていませんでした」

「まあ、ここは私の行きつけだからね。……てか、そんなに有名なの、私?」

「ええ、勿論です。知らなかったんですか?」

「いや、知ってたけど。知りたくなかったというか、何というか……」

「ふふふ、どういうことですか?」


 なんて、メリッサと話が弾む。メリッサは敬語を使っているのに、何故だか距離が近く感じる。人柄の問題なんだろうか?


「姉さんばっかり話してずるい!」

「チェルノも話せばいいじゃないですか」

「そ、そんな簡単な問題じゃないじゃないんだよ」

「そうなの?」

「そ、そうなんですよ……」


 消え入りそうな声で私の質問に答えてくれる、チェルノ。こういう様子を見てると、ガチなファンなんだなぁ、と思ってしまう。嬉しいんだけどね、話しづらいのは嫌だよね。困ったもんだ。


「ところで、2人はどうして王都に?」

「色々あるんですけど、一番は実力をつけるためですね」

「へえ。ていうことは、冒険者なの?」

「そんなところです。まだ駆け出しですけどね」

「そうなんだ、頑張ってね」

「はいっ! 頑張ります!!」


 そう労いの言葉をかけると、勢いよくチェルノが返事をした。初々しくて可愛い。


「さてと。今日は何にしようかなぁ? 2人は何にしたの?」

「私は焼き魚定食にしました」

「僕はすき焼きです」


 おお、2人とも日本風だね。

 私も日本食にしようかなぁ。


「この店は、メニューが豊富ですね。母国の料理があって驚きました」

「え、出身はアイオーンじゃないの?」


 メニューを見ながら、私はメリッサの言葉に驚く。


「そうなんです。アイオーンに来たのは割と最近です」

「そうなんだ」


 へー、私と一緒なんだ。

 なんて思いながら、私は何を頼むか決めた。


「よし、炊き込みご飯セットにしよーと」

「おいしそうですね」


 そんな感じで、この後もメリッサたちと会話をしながら、食事を楽しんだ。

 今日会ったばかりなのに、かなり彼らと仲良くなれた気がする。

 また会う約束をして、私はメリッサたちと別れた。

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