101 ゼーレ族の謎を解け!其ノ二

「それは――」


 ゼーレ族の人は一旦間をおいて、そして語り出す。


「丁度良かったからだ。深い意味はない」

「丁度良かった?」

「我々みたいな者に協力してくれる奴など、ディカイオシュネーくらいしかないだろう?

 ――――それに、アニス様が住んでいた所は、ディカイオシュネーとも因縁があった。それも含めて、丁度良かったのだよ」


 淡々と、まるで感情なんてないかのように、ゼーレ族は言い放った。


悪魔サルワと組んだのはどうして? 貴方たちは少なからず崇拝していたみたいじゃない」

「我々ゼーレ族を終わらせてくれると、思ったからだ。

 あとは……少なからず刷り込まれた本能があるのかもしれん」


 魔王の手下としての、ゼーレ族はそう付け足して、少しばかり悲しい顔をしたように見えた。


「……サルワが破滅の元凶になると、そう思ってたの?」


 しかしマノン様はその感傷を無視して、話を押し進める。どっちも冷静で、怖くなってくるなぁ。

 緊張感が漂った空間、私苦手なんだけど。もっと明るく行こうぜ!って言いたい。


「向こうも向こうで何かを企んでいた。そして、相手は上級悪魔だ。上手くいけば、ゼーレ族は滅びることは目に見えていた」


 確かに。企みと企みが衝突し合うと、破滅は必然だもんねぇ、うんうん。


「ディカイオシュネーの企みはわかってるの?」

「知らぬ。興味もなかったからな」

「そう、まあいいわ。じゃあ、次の質問。――――どうしてアニスを殺したの?」


 心なしか、マノン様は鋭い声音だった。きっと気のせいではないだろう。

 だって、親友を殺されたんだから。


「アニス様を殺す予定は、我々にはなかったし、我々が殺したわけでもない。殺したのはサルワだ」

「でも殺すのを止めもしなかったんでしょう?」

「何を当たり前のことを言っているのだ? アニス様だって、ゼーレ族の一人。しかも、祖先の血を濃くひく、族長一族の娘だ。真っ先に滅びるべきなのだ」

「それを本気で言ってるのかしら?」


 もろに殺気がこもった瞳で、マノン様はゼーレ族たちを睨みつける。奇妙な静寂が訪れた。

 そんなこと言っちゃダメじゃん。マノン様怒らせるだけじゃん。もっと言葉を選ぼうよ。馬鹿なの? 馬鹿なんだね?


「……本気だとも。だが、アニス様が殺されるのが悲しくなかったわけではない。我々にとって、子供みたいなものだからな」

「じゃあ、何故」

「さっきから言っているだろう? 我々ゼーレ族は滅びるべきなのだ」


 その言葉にマノン様は考え込むように黙る。

 マノン様が口を開かなくなってしまったので、またまた場が静かになって、正直怖い。


 誰か喋ってよ、と私はシェミーやベルナの方を見るが、ふたりもまた、顔を青くしながら、自分の世界へ旅立ってしまっている。まあ、ふたりとも魔物のクォーターってことになるし、当然っちゃあ当然だ。


 てか、なんでゼーレ族に関係ない私が呼ばれてるの? 完全に場違いだよね?

 ゼーレ族が魔物と人間の混血種だったからといって、私に何か問題があるかと聞かれたら、ないのだ。ぶっちゃけどうでもいい。


 ………………。


 人がいて、静かなのはとっても気まずい。


「で、シェミーたちが住んでいた村を襲ったのはどうしてなの? ゼーレ族側にも理由があったから、参加したんでしょ? アニスを殺すのが目的じゃなかったとしたらなんだったわけ?」


 私はこの空気感に耐えられず、とりあえずそれっぽい質問をしておく。

 アニスを殺すのが目的じゃなかったのなら、彼らは何故村を襲うのを手伝ったのだろうか?


「……


 私の質問に少しの躊躇もなく、簡潔にゼーレ族は答えた。


「は?」


 それによって、私は一瞬のうちにキレた。ちょっと沸点が低くなってるみたい。


 シェミーを殺すため? ありえないんだけど。何の罪もない、ゼーレ族すら知らなかった子供を殺すため? 狂っているにも程があるだろう。

 ふつふつと湧き上がる怒りを抑える術を、私は知らなかったので、クラウソラスに手をかける。

 そして、私が呪文を歌おうとした時――――。


「やめて、 エイリー」


 意外にも止めたのは、当の本人シェミーであった。

 しっかりとした眼差しで私を見つめてくる。


「シェミー、どうして止めるの?」

「だって、理由があるに決まってるもの」

「だからって」

「いいの、いいんだよ、エイリー」

「よくないっ!」

「私はそうやってエイリーが怒ってくれるだけで充分」


 挙句の果てには、シェミーは笑顔を浮かべる。

 どうして、どうして怒らないの?

 自分を殺すと言われて、家族を殺されて。苦しかったんでしょ、悲しかったんでしょ?

 なのに、どうして……?


「あのね、エイリー。私、私が何者なのか、なんとなくわかるの」

「え?」

「私は、んだよ」

「どういうこと?」

「言葉通りの意味だよ。……そうですよね?」


 私に変わらない笑顔を見せると、シェミーはゼーレ族の方に問いかける。


「そこまでわかっているのか」

「はい。記憶を思い出した時になんとなく」

「なら、お主はどうしたいんだ?」


 試すような瞳で、ゼーレ族はシェミーを見る。

 でもシェミーはそれにも負けず、毅然とした態度でゼーレ族を見る。


「今の私は、アネリ・ゼーレではありません。シェミーです。そして、これからも変わりません。私は、シェミーとして、この先も生きていきたいです」

「お主の存在は、近いうちに災いを呼ぶぞ」

「私が私じゃなくなった時は、そうなる前に迷わず命絶ちます」

「その覚悟が本当にあるのか?」

「あります。信じられませんか?」

「ああ、信じられない」


 そう、シェミーの言葉をばっさり切り捨てた上で、


「だが、今の我々にお主を殺す力はない。だから、諦めるしかないな」


 と、言う。

 今のゼーレ族たちは捕虜であるので、武器は持っていないし、魔法も使えないようにさせられている。

 それ以前に私がそばにいる限り、シェミーを殺させはしないもん。


「では、こうしましょう」


 そんな会話をしていると、マノン様がようやく重い口を開いた。

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