102 王妃様の解決策

「貴方たち、直接シェミーを見張ったらどうかしら?」


 マノン様の提案に、皆『はぁ? お前何言ってるの?』みたいな顔をする。ゼーレ族の人たちも例外ではない。


「どういうことです?」


 意味がわからなかったので、私はすぐさま質問する。なんとなく場の雰囲気が元に戻った気がしたので、安心する。


「見張るっていうのは言い過ぎたかしら? 要するに、シェミーの安全を守りなさい、ということよ」

「どういうことだ?」

「ゼーレ族の残党で、ひとつの部隊を作るってことよ。表向き管轄するのは私だけど、シェミーが指揮権を握ったらどうかしら?」


 にやり、と笑ってマノン様が言う。

 うわー、悪い顔してるわぁ。いっそ清々しいな。


「え、私ですか?!」

「シェミーしかいないわ。だって、ただのゼーレ族にすぎなかった私より、族長の血筋をひく貴女の方が良いと思わない?」

「それは……」

「貴方たちはどうかしら?」


 シェミーの意見を大して聞かず、マノン様はゼーレ族に質問をする。


「……我々がどうしてそんなことをしなくてはならない?」

「罪を償いなさいって話よ。これだけで済むのだから、感謝しなさい」

「…………」


 マノン様の獲物を逃がさない鋭い目つきに、ゼーレ族は黙る。

 まあ、酷いことをしたのは事実だしな。もっと処分は重くていいはずだが、彼らの場合、これが一番辛い罰だろう。


 ――――誰かに縛られて生きる。


 彼らは死にたいのだ。もしくはひっそりと生きていたい。


 マノン様は本当に恐ろしい罰を思いつくものだ。


「良いですか、母上。こやつら、シェミーを殺すかもしれないですよ?」

「そこは大丈夫よ。踊る戦乙女ヴァルキリーと名高いエイリーに制約の魔法をかけてもらうもの」

「え?」

「なら安心ですね」

「でしょう?」


 え、え? ここで、私の出番? え、聞いてないよ?


「今言ったもの」


 私の心を読んだように、マノン様がにやりと笑う。


 えええ、まじっすか? 私ですか? また出番ですか? 私、疲れたんですけど? 退場させてください?!

 なんて、言えるはずがなく、(マノン様の圧力やばい)


「頑張りますよ、わかりました」


 と、答えておく。無難な返しだ。私、偉い。


「ありがとう、エイリー。

 ねえ、ゼーレ族の皆さん。私、貴方たちに聞きたいことがあるの。答えてもらえるわよね?」


 マノン様はゼーレ族に向かってそんな言葉を吐く。有無を言わせない雰囲気がダダ漏れだ。


「……なんだ」

「アニスは、私たちが魔物との混血だと知っていたの?」

「ああ、族長になった時に」

「そう。……だったら、わかるわよね?」

「何がだ?」

「…………」

「アニスはきっと、ゼーレ族の里を解散させるとき、貴方たちに言ったんじゃない?」

「何を?」


 マノン様は勝ち誇った笑みを見せながら、言った。


「『滅び行くのは、私たちに与えられた運命だろう。人知れず滅ぶのは私たちの償いのひとつだろう。だが、それでは卑怯だとは思わんか? ……私は思うぞ? 苦しみも痛みも知らず、滅びるだけなんて、何の償いになるのだ? のうのうと生きるだけで、何ができるのだ?

 生きてこの罪深き命を繋ぐこと。それが私たちのできる償いではないか? そして、祖先が間違ったことを、今度は私たちが正せばいいじゃないか』ってね」

「ふ、ふふふ、ふははははっ!」


 マノン様がそう言い切ると、ゼーレ族の皆様方は、声を揃えて笑い出した。

 狂ったか、狂ったか、ついに狂ったか?!


「ははは、流石親友だな。ほぼその通りだ」

「お褒めに預かり光栄ね。あの子がいいそうなこと、大体わかるもの」

「これまた愉快だな」

「楽しそうで何よりだわ。

 ――――アニスは、確かに恋に溺れて、その恋を叶えるために里を解散さたのは事実だと思うわ。でもね、今日の話を聞いて確信した。彼女は彼女なりの信念を持って、里を解散させたのね」


 ゼーレ族の長としての責任。魔物の混血だと言う事実。そして、魔王の味方をした祖先。

 色々な理由が絡み合い、複雑になっていく中で、アニスは決断した。

 立派だなぁ、と素直に思う。


「……わかった。その罰を甘んじて受けようではないか」

「あら良いの?」

「そう言う冗談はよせ。

 だが、我々は我々の信念を曲げない。シェミーが危険だと思えば始末するし、ゼーレ族が滅ぶべきだと思ったら滅ぼす。どんな手段を選ぼうがな」

「わかってるわ」


 ゼーレ族の決意に、望むところとマノン様は言う。


 こうして、ゼーレ族のいざこざは解決したのだった。一件落着、と。

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