幕間 ファースたちも強い

「この人数をわたくしたち4人で相手するの?」


 どこか楽しそうに、グリーは言った。


 エイリーたち突破組を先に行かせてから、ファース、グリー、ヴィクター、そしてアメリア――闇魔法使いは、40人弱のゼーレ族とディカイオシュネーの軍人に囲まれていた。


「まあ、できないこともないだろう」

「そうだな。見たところ、皆下っ端だしな」


 ファース、ヴィクターが顔色を変えることなく言ってのける。エイリーの強さにかき消されがちだが、今回シェミー救出作戦に参加したメンバーは皆、普通の人とは比べることができないほど強いのだ。

 いくらディカイオシュネーの軍人とはいえ、下っ端にやられるほど、彼らは弱くない。


「さっさと終わらせちゃおうよ、エイリー様たち追いかけないと」


 アメリアが皆をせかし、呪文を唱え始める。


「我が力の根源・宵闇のしもべたち、力を貸しなさい!」


 すると、地面に黒い穴がいくつも開き、その中から黒い布を身にまとい、手には小さな鎌を持った幽霊たちが召喚された。


「行きなさい!」


 アメリアの命令に、幽霊たちは一斉に動き出し、召喚主の敵に牙をむく。


「最初から飛ばしていくね、アメリア」

「当然でしょ、ヴィクター。これは遊びじゃないのよ」

「そりゃそうだ! 俺もいくから、援護よろしくっ!」

「任せといて」


 そんな会話をしたヴィクターは、愛用している槍をくるくると回すと、敵陣に切り込んでいった。


「じゃあ、!」

「ほどほどにな、グリー」

「わかってる!」


 剣を手に持ったグリーも、ヴィクターに続く。


 槍を完璧に扱う槍使い、力任せのように見えて華麗な技を使う剣士、世にも珍しい闇魔法使いに、魔力操作のうまい支援系の魔法使い。

 彼ら4人のパーティを相手にできるほど、ディカイオシュネーの軍人も、ゼーレ族も強くはなかったし、経験も足りてなかった。



 * * *



「手ごたえなさすぎだ。がっかりしたぞ」

「……あの、グリーさん?」


 グリーの口から漏れる言葉に、ヴィクターとアメリアは戸惑いを覚える。

 それを見たファースは、


「ああ、グリーは剣を持つとガサツな性格になるんだよ」


 と、どこかで聞き覚えのある説明をした。


「いやいや、ガサツとか、そんなレベルじゃないじゃん?!」

「最早、別人だろ!?」


 と、どこかで聞き覚えのある驚きを2人は口にした。


「そうか?」

「「そうだよ!!」」


 グリーの言葉に、息ぴったりで2人はツッコミを入れる。

 ぐ、と言い淀んだグリーは大人しく、剣を鞘にしまう。


「やっぱり、こっちの方が違和感はないのかしら?」

「いやいや、その変化が違和感の塊だよ?!」


 上品なグリーに瞬時に戻ったっことに対して、アメリアは正確なツッコミを返す。


「まあ、俺の妹は少し変なんだ」

「あらあら、酷いですね、お兄様」


 何事もなかったかのように話すふたりを見て、ヴィクターもアメリアも自然と口から笑いが漏れた。それを見て、ファースもグリーも笑う。


 気絶しているディカイオシュネーとゼーレ族が倒れてる中、彼らは楽しそうに笑うのだった。シュールな光景である。



 * * *




 時は少し進み、エイリーがサルワを倒した直後のことだ。

 ゼーレ族の里だった場所から少し離れたところに、2つの人影があった。


「え、嘘でしょう?」

「どうしたの、姉さん」


 闇のように黒い髪をした少女が、目を大きく見開く。


「サルワ様がやられました」

「え、嘘だろ!?」

「……いいえ、本当です」

「まさか、サルワ様がやられるなんて」


 黒髪の少女とうり二つの少年も、姉と同じように驚きをあらわにする。


「マスグレイブの秘宝もまんまと回収されてしまったし、大人しく帰るしかなさそうですね」

「……失敗、か」

「いいえ、あくまで失敗したのはサルワ様です。私たちは、力を貸しただけです。あの方もわかっていますよ」

「なら、大丈夫か」

「ええ、まだ回収されてないマスグレイブの秘宝もありますし、そんな悲観しなくても良いです」


 黒髪の少女は、空を仰いで言う。


「魔王様の力は無事に戻りつつあります」






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