幕間 ベルナとレノも強い
ベルナディット・マスグレイブは、自らが拘束したゼーレ族たちを見て、ため息を落とした。
「さて。寛大な妾は、言い訳を聞いてやろうかのぉ?」
「お主に話すことなど何もない」
一番年長の男が、落ち着いた声音で言ってのける。他の人たちも、不気味なほどに落ち着いていた。
「……浅はかな理由ではないのじゃろう? 其方たちが里を復活させたいのは」
「それは当然だ」
「だったら話すが良い。情状酌量の余地があると思うがの?」
「そんな他人に話すようなことではない。我らは我らの矜持に則り、行動しているのだ」
「ほう? 妾を他人と申すか?」
興味深そうな、そして冷ややかな表情をして、ベルナはゼーレ族たちを見る。
微かにゼーレ族たちがびくっと肩を揺らしたのをベルナは見逃さなかった。
「力はともかく、妾は紛れもなく半分ゼーレ族の血が流れておる。それに、妾の母は純血のゼーレ族であり、最後の族長、アニス・ゼーレの親友のマノン・マスグレイブじゃ。その母の命を受け、妾はここにいるのじゃ。その意味がわからないほど、其方たちは愚かではあるまい?
――――妾は他人ではない、当事者じゃ」
「……だからと言って、お主には話す義理はない」
「頑固じゃのぉ?」
ベルナは威嚇の意味を込めて微笑み、魔法を唱える準備をする。
それに対して、慌てることなく穏やかな調子で、
「そう急かすな、ベルナディット王女」
と男は言う。
その言葉に、ベルナは顔をしかめる。
「なんじゃと?」
「混血のお主には喋る義理はないが、お主の母、マノンには話さねばならんだろう。
我らはマノンになら、全てを話そう。我らのことも、ゼーレ族のことも、ディカイオシュネーのことも、知ってること全てな」
「投降するってわけじゃの?」
「そういうことだ」
「サルワのことはいいのか?」
「良いか悪いかと言われたら悪いが、仕方ない。そちらもそろそろ決着が着く頃だ。いくら上級悪魔とはいえ、踊る
「……わかったのじゃ」
なんだか煮えきれないベルナであったが、ゼーレ族の真剣な瞳を見て、諦めることにした。どうせ、真実を知るのは時間の問題だ。
しかし、ベルナはどうしても聞いておきたいことがあった。
「どうして其方たちは、ここまでしてゼーレ族の里を存続させたかったのじゃ? 解散してもしなくても、里は滅びただろうに」
「だからだ」
「……どういうことじゃ?」
ベルナの問いに、ゼーレ族たちは答えず、ずっと口をつぐんだままだった。
* * *
レノックス・ボルジャーは、ディカイオシュネーの軍人に囲まれていた。しかし、その表情はなんとも楽しそうな顔をしていて、不安の欠片もなかった。
「余裕そうですね、アイオーンの騎士団団長?」
「そりゃ、このくらいの軍人に囲まれただけでピンチになってたら、この歳で騎士団長なんてやってられないよ」
「それもそうですね。ですが、その余裕はいつまで持つのでしょう?」
「ずっとだよ。軍の国・ディカイオシュネーとはいえ、暗殺部隊に正面から負けるはずがないだろう?」
レノは煽りに煽る。その煽りに、みすみすとつられた軍人たちは、しゅっ、とレノに向かってナイフを投げる。完璧な不意打ちだ。
だが、そんなものにやられるレノではない。
「お?」
なんて、楽しそうな声をあげ、数十本のナイフを華麗に避ける。
ディカイオシュネーの軍人も、プロであるので、避けられたからと言って焦りはしない。次の行動に移るべく、皆魔法で姿を隠す準備をする。
「ほう? いいじゃないか。少しは楽しめそうだな」
レノは楽しげに2本の剣を抜く。
「舐めてもらっては困りますね」
そう言ってた軍人他、何人かは姿を消すが、僅かに出遅れたものはレノの餌食となった。
「遅いぞ?」
目に見えない動きで、レノは軍人たちを倒していく。死なせはしないが、急所を狙った正確な攻撃。それだけでもレノの剣の腕は確かなものだと物語っていた。
「……っ!」
姿は見えないが、驚き故に漏れた微かな呼吸がレノの耳に届く。それだけで、レノが居場所を掴むのには十分だ。
レノは何もない空間を次々に、切り裂く。そして、魔法を継続させることができなかった者が次々と姿を現した。
「もっと楽しめると思ったんだがなぁ」
「……撤退します」
レノの呑気な声を聞いて、隊長と思われるさっきから喋っていた人がそんな命令を出す。
「おいおい逃げるのか?」
「暗殺部隊は、時に逃げるのも仕事のうちです。確実に仕留められる時しか、暗殺はしません」
「逃すわけないだろ?」
「舐めてもらっては困りますね。これは我々の本業ですよ?」
「……っ?!」
その声を最後に、無事なディカイオシュネーの軍人は姿を消していた。
「……流石、非情な暗殺部隊ってことだな。味方を見捨てて、上司の命令まで無視するとは」
レノは自らが倒した軍人たちを見て、そう呟いた。
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