99 とりあえず、エイリーからの報告

 サルワを倒した私は、他の仲間たちと合流し、そのまま王都へ帰還した。ベルナが捕らえたゼーレ族たちも一緒にだ。

 他に蹴散らした人たちは、流石に人数が多いので、王都から人が派遣され、回収してくれることになった。万一逃げられても、大した情報は持ってないだろうから、大丈夫だろう。


 そんなこんなで私は帰還するやいなや、前に国王様に謁見した部屋に呼び出された。


「ご苦労でした、エイリー」


 私が部屋に入ると、まずマノン様から労いの言葉がかけられた。

 部屋にいたのは、マノン様、ベルナ、シェミー、そしてゼーレ族のおじいさんたち。

 ファースたちはいないんだなぁ、と思いつつ、私はマノン様に、


「勿体ないお言葉です?」


 と言葉を返した。疑問形なのは気にしないで欲しい。いつものことだ。


「さて、全員揃ったところで今回の事件のことについて、詳細を明らかにしましょう」


 ぱん、とマノン様の手を叩く音で、事情聴取(?)が始まった。



 * * *



「さて、まずはエイリー」

「え、私?!」

「ええ、貴女からよ」

「どうしてですか?」

「え、貴女が一番早く済むでしょう?」


 そうだけどそうだけどさっ! なんか気にくわないよね。

 そう思っても、マノン様はにこりと笑みを浮かべなら強要してくるので、私が逃げられるわけない。

 諦めて私は話し始めた。


「上級悪魔・サルワを倒しました」

「……もっと詳しく」


 私が簡潔に述べると、マノン様がさらに説明を求めてくる。さっさと終わらそうという私の魂胆はあっさりと破れた。当然っちゃあ当然だ。


「まず、サルワはアニス・ゼーレに取り憑いてました」

「アニスに?!」


 マノン様は驚きのあまり声を上げる。

 言ってなかった? ……なかった気がするなぁ。まあいいや。


「はい、遺体は私が保管してます」

「……後で会わせてくれるかしら?」

「わかりました」


 涙を我慢した声でマノン様がそう言うので、私に断ることなどできなかった。ここで断ったら非情な人間だし、そもそも会わせて不都合があるわけでもなんでもない。


「話を戻しますね、なんだかんだありまして、今度はシェミーに取り憑いたんです」

「本当なの、シェミー?」


 私の言葉を受けて。マノン様はシェミーに視線を移した。


「はい。でも、エイリーが助けてくれたので大丈夫です」


 シェミーははっきりとした声で受け答えをした。王妃様を目の前にしてるのに、堂々としててかっこいい。

 そんなシェミーの様子を見て、マノン様は何かを感じたらしく、悲しそうな目をして、シェミーにあることを尋ねた。


「……貴女、記憶戻ってるのね?」

「……はい」

「そう……。ねえ、シェミー」

「どうしましたか?」

「後でいいのだけれど、私と2人でお話ししない? アニスのことについて」

「えっ」


 マノン様の突然の申し出に、シェミーは驚きの声を漏らした。まあ、そうだよな普通。王妃様に突然ふたりで話ししようとか言われても困るだけだよな。


「私の知らないアニスを教えてくれないかしら? 勿論、私の知ってるアニスも教えるわ」

「……私で、いいんでしょうか?」

「貴女がいいのよ、アネリ。アニスの子供である貴女が」


 マノン様は真っ直ぐな瞳でシェミーを見つめる。その瞳をじっとシェミーは見つめ返して、


「わかりました。私でいいのなら」


 と返答した。

 いやはや、シェミーは本当に肝が座ったなぁ。私としては嬉しい限りである。


「ありがとう、シェミー。

 さて、話が大分逸れたわね。エイリー、サルワを消滅させたのは間違いないのね?」

「私の感覚では消えましたよ」

「なら大丈夫ね」

「何を根拠にですか?!」


 サルワが消えたのは私の中では確定事項だが、明確な証拠などない。上級悪魔は精神体ゆえ、マップに映らないのだ。

 自分で言うのもあれだが、私のどこを見て信用できるというんだ。結構適当なこと言うぞ私。


「エイリーだから?」

「は?」

「貴女、単純だけど、強いでしょ? だからこういうのは大丈夫よ」


 マノン様の言葉にうんうん、と外野も頷いた。

 え、ええええ。大丈夫か。これでいいのか?!

 そんな私の驚きを無視して、マノン様は話を続ける。


「ディカイオシュネーの軍人は逃げたのよね?」

「はい、レノはそう言っていました。残ってるのは下っ端だけだと」

「成る程ねぇ。ディカイオシュネーも動き出したのね」

「長い期間、サルワはディカイオシュネーに潜伏していたようですよ、母上?」

「あらあら、真っ黒じゃない」


 マノン様とベルナは凍りつくような笑顔を浮かべながらそんな会話をしていた。

 お前らの方が(お腹が)真っ黒じゃねぇか、とツッコミを入れたい、けど入れられない。

 怖い怖い。こんな怖い奴らがいる国に喧嘩売るとか、ディカイオシュネーは狂ってるんだなそうに違いない。


「まあ、この話は置いておきましょう。――本題に入るわよ」


 マノン様はそう言って、ゼーレ族の方を見た。


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