96 踊る戦乙女vsサルワ

 と、構えたはいいものの、サルワとどう戦えばいいのか、わからなかった。つまりはノープランだ。

 上級悪魔を倒すというか、消す方法、いまいち分からないし。聖魔法に弱いんだなぁ〜、くらいだ。ミリッツェアは聖魔法オンリーで撃退していたら、大丈夫だと思うけど。


 弱ってからの方がいいのかなぁ? 小説だと、ミリッツェアの仲間が悪魔を弱らせてから、いいとこ取りでミリッツェアが聖魔法を使ってたよね?

 あれって、演出? それともそうするしかなかった?

 小説が現実リアルになるとわからない!


 そんなことを悶々と考えていると、


「エイリー、危ないっ!」


 と、シェミーの声が飛んでくる。

 はっと我に帰ると、サルワが特殊魔法で熱線を放っていた。


 危なっ。

 間一髪で避けられたが、シェミーが声をあげてくれなかったら、私はまんまと食らってただろう。壁がじゅわって嫌な音したもん!


「あらあら、当たると思ったのに」

「いきなり酷いんじゃない?」


 にい、と余裕で笑うサルワ。

 上級悪魔を舐めてたわ。無詠唱であんな、当たったら溶けちゃいそうな、熱線を撃って来るなんて。

 まあ、そうだよね、一筋縄じゃいかないよね。

 油断は良くない、うん。仮にも戦闘中だ。今まで楽な戦いばっかりだったので、危機感が足りなかったな。反省、反省。


 と、反省していると、サルワはどんどん熱線を撃ってくる。

 また考え込んじゃった、私らしくないっ!、と思いつつ、私はサルワの熱線を避ける。


「中々当たらないわねぇ!」

「そっちも弾切れにならないね!」


 そう言ってても、熱線は絶え間なく飛んでくるので、むやみに近づけない。


 イライラするなぁ。

 そう思いながら、私はクラウソラスを抜いた。

 もういいや、強行突破してしまえ! とりあえず、聖魔法打ち込んで、ダメだったらそれから考えよう!

 考えるより、実行すべし! それが私、踊る戦乙女ヴァルキリー、エイリーだ!


「聖なる光が煌めいた。全ては等しく浄化され、この他は再び平和を取り戻す。穢れたものは灰になり、聖なるものは輝きを増す!」


 踊りながら、呪文を歌う。熱線を避けながら踊るのは難しかったが、なんとか形になった。よかったよかった。


 光で部屋が埋め尽くされる。


 ……さて、どうなったかな。

 サルワがくたばったか否か。どのくらい効力があったのか。

 これで倒れてくれたらありがたいけど、無理だろうなぁ。


 相手は仮にも上級悪魔。しかも、五悪魔衆マンユ・ダエーワ?(だった気がする)と呼ばれるすごい悪魔のひとりなんでしょ、サルワって。

 こんな魔物に使う聖魔法じゃ、致命傷を与えられても、完全に倒すのは無理だ。


 ――――静寂が訪れる。


「……サルワ?」


 さっきまでずっと笑っていた、サルワは突然口を閉ざし、黙って立っていた。

 ――――やったのか? いや、まさか。じゃあ、この不気味な静けさはなんだ。


 そう私が考えていると、


 


「……っ! まさかっ?!」


 ばたりと倒れたアニスから、シェミーに視線を移す。


 ああもうっ! これだから私はダメなんだよっ! 頭悪すぎだろっ?!

 間に合うか? でも、どうやって妨害すればいいんだろう?


「シェミーっ!!」


 とりあえず、叫ぶ。


「エ、エイリーっ!! た、たすけ……ふふふふっ、……エ、エイリー……、ふふふ、おやすみなさい?」


 シェミーは涙を浮かべながら、こちらを見てくる。

 ――――彼女は必死に戦っていた。


「ふふふ、なんとか間に合ったけど、魂が綺麗に混ざらないわねぇ。やっぱり死人が一番だけど、今回の場合は仕方ないわね」

「サルワッ!」


 シェミーの声でサルワが話す。そのことが私は、不快で不快でたまらなかった。


「怖い怖い。さあ、勝負を再開しましょう?」


 にい、と怪しげにシェミーの体でサルワは笑う。


「……許されると思うなよ?」


 私は久しぶりにブチ切れた。

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