95 踊る戦乙女は割と怒ってる

 地下は暗かったが、だからと言って物が見えないか、というとそうでもない暗さだった。

 念には念を、という言葉があるが、めんどくさいので私は、光を魔法で出すことなく、奥へ進む。


「というか、こんな本格的な地下室よく作れたなぁ」


 静か過ぎるのは嫌なので、ぼそりと独り言を言う。だけど、余計に虚しい。


 そんなこんなで少し歩いていると、一つの扉が目の前に見えた。ずっと一本道で、他の扉もないので、高確率でシェミーはここにいるだろう。

 そう思い、ドアノブに手をかけた瞬間、


「や、やめて! やめてくださいっ!!」


 とシェミーの必死に抵抗する声聞こえた。

 考えるよりも早く、私は扉を破壊する。


「シェミー?!」

「エ、エイリーっ!!」


 扉の向こうには、手を拘束されたシェミーにサルワが近寄っているという光景があった。

 間一髪って感じだ。少しでも遅かったらと思うと、ぞっとする。


「ふふふ、タイミングが良いのか悪いのか。元気だったかしら、エイリー?」

「おかげさまで、元気ハツラツだよ」

「怖いわ、もっと穏やかにいきましょう?」

「どの口が言のさ?」


 サルワのこういう腹芸苦手だなぁ。私、なんかまた罠に嵌められそう。私が罠に嵌らないようにファースとかベルナとか連れてきたのに、いつの間にか私ひとりになってるし!

 それに、ふつふつと湧いてくる怒りを抑えられる気がしない。


「それで、何しに来たの、エイリー?」

「そんなの決まってるでしょ」

「へぇ、やっぱりシェミーを助けに来たの?」

「……他に何があるっていうわけ?」


 サルワ、めっちゃ余裕そうなんだけど。気にくわないなぁ。


「そうよね。踊る戦乙女ヴァルキリーのエイリーが来ないわけないわよね。

 だけどざーねん。半分は手遅れね」

「……どういうこと?」

「わからない?」


 くすくすと楽しそうにサルワが笑う。

 ……どういうことだ? 何が手遅れなんだ?


 そう考えながら、私はシェミーを見る。するとシェミーは気まずそうに私から目を逸らす。



 ――――ああ、そういうことか。



「あんた、何がしたいの?」

「何のこと?」

「とぼけないでっ! シェミーをさらって、挙げ句の果てに、ゼーレ族の力まで元に戻して何がしたいのって聞いてんだよっ!」

「ふふふ、そこまで気づいてるのにわからないの?」

「…………そういうことかっ!」


 私はサルワの笑みを見て、気づいた。気づいてしまった。


「シェミーを依り代にするつもりだったのね! ディカイオシュネーもゼーレ族もそのために利用していたってこと?!」

「そこまで気づいてくれて嬉しいわ。

 別にディカイオシュネーにもゼーレ族にも特別な思い入れはないわ。全て私の駒よ」


 サルワの言葉に背筋が凍る。

 やっぱり、人を依り代にしているとはいえ、こいつは人とは明らかに違う。こいつは、サルワは紛れもなく、悪魔だ。


「……どうしてシェミーなの?」


 そりゃシェミーは特別な力を持っているが、依り代にするのはシェミーじゃなくてもいいじゃないか、と私は思っていた。


「大した意味はないわよ? 復活派のゼーレ族がディカイオシュネーに協力を求めて来た時、面白そうだなって思っただけよ? あとは、単純に?」

「サルワッ!!」

「どうしたの、そんなに怒って。別に誰をどうしようが私の勝手でしょ? どうして、五悪魔衆マンユ・ダエーワである私が人間の心を考えないといけないの? そっちの方がおかしいじゃない」

「そういう問題じゃないっ!」

「じゃあ、どういう問題なの?」


 興味深そうに、サルワが尋ねてくる。その期待を見事に裏切ってやろうじゃないか!

 そんな気合を込めて、私は叫ぶ。


!」


 その言葉にサルワは面食らった表情を浮かべ、シェミーは目に涙を滲ませた。


「私が怒ってるから。それ以外に理由はいらないでしょ!」

「ふふふふふ、はははははははっ!! 面白い、面白いわ、エイリー!! 私の邪魔をしようってわけね?!」

「そうだよ。サルワ、あんたのこと、気に食わない、だから。シンプルでいいでしょ?」


 私は難しいことは嫌いなのだ。だから、今だって簡単に考える。

 サルワを倒したいから、倒す。シェミーを助けたいから、助ける。


 理由なんて、それで十分だ。


「あは、 確かにそうだわ!」

「いつまでそんな余裕でいられるかな?」

「ふふふ、エイリーはやっぱり面白いわ!」


 こうして、私とサルワは戦闘態勢をとり、互いに睨み合った。


 ――――悪魔との本気の戦いが始まる。

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