90 いざ出陣!

 本日はいよいよ、シェミー救出作戦決行日。

 珍しく私は、一般的に朝と呼ばれる時間に起き、朝食を食べた。

 やればできる子なんです、私!


 ファースグループ、ヴィクターグループ、それにベルナとは別々に打ち合わせは済ませている。


 …………まあ、作戦なんて、ぶっちゃけないんだけどね。だから、打ち合わせした意味はあんまりなかった。


 私とベルナがサルワとシェミーのところまで一直線。他の雑魚たちが邪魔をしてきたら、ファースやヴィクターがそれを食い止める、というものが、一応作戦と呼ばれるもの。

 ……うん。正面突破って、やっぱ簡単でいいよね!


 この作戦を考案した時には、皆同じ顔をして驚いてたなぁ。というか、呆れ顔に近かった気がする。

 全く、わかってないなぁ。シンプルイズベスト、だよ。


「そろそろ行くかー」


 例のごとく、私は集合時間ギリギリに着くように、家を出た。

 勿論、行き先は待ち合わせ場所の定番・冒険者省である。



 * * *



 私が冒険者省のいつもの部屋に入ると、ベルナ以外の皆来ていた。

 当たり前だよな。皆、時間守って、偉い偉い。


「遅かったな、エイリー」

「時間ぴったりでしょ?」

「それは……、そうね」


 ファースたちに小言を言われるが、遅れてはない。

 時間に厳しいのは日本人ってイメージだけど、アイオーンの人たちも割と時間にはうるさい。

 日本人が作り出した世界小説の世界だからね。当たり前と言ってしまえば、当たり前なのか。


「これで全員か?」

「え、違うけど」

「そうなのか? てっきり、このメンバーで行くんだと思ってたが」


 レノがそんなことを言うので、私は少し驚いた。

 あれ、おっかしいなぁ。ベルナ、まだ来てないのに。

 ヴィクターたちが知らないのは当然だが、レノの様子を見る限り、ファースたちも知らないんだろう。


 ――――ベルナの悪巧みか。


 そう私が思った瞬間、ガチャリとドアが開いた。


「待たせたの」


 そこに現れたのは、ふわふわの金髪と翡翠色の瞳を持つ、マスグレイブ兄弟の長女、ベルナディット・マスグレイブのこと、ベルナだった。


「「ええええええええええ?!」」


 私以外の人が、物凄く驚いた。少し叫び声がうるさい。それに私は驚いたよ。寿命縮んだわ。


「ベルナ、遅刻だよ」

「すまんの。しかし、主役は遅れて登場するものじゃ」

「……ベルナって主役なの?」

「勿論じゃ!」

「へー。それは知らなかった。というか、皆、叫んで満足した?」


 私はある程度ベルナと会話すると、驚きで放心状態になっている皆に話をふる。


「どうして、姉……ベルナディット様がここにいらっしゃるのですか?!」

「そ、そうですよ、エイリー様っ?! ベルナディット姫様がどうしてこんな所にあるんですか?!」


 ヴィクターあのね、王族はあと2人この場にいるんだぞ、と言いたくなる。言わないけど。ファースたちは隠してるみたいだし。

 ベルナはそのリアクションに満足がいったのか、1人でくつくつと笑っている。


「あー、それはね、マノン様に頼まれたからだよ。ベルナも連れて行きなさいって」

「え、エイリー様、王妃様とも面識があるんですか? しかも名前呼び?」

「あるけど? 名前呼びはまあ、うん」


 一庶民が王妃様と知り合えるなんてありえないよねぇ。私、どうしてこんなに王族やら騎士団長やら、知り合いに偉い人がいっぱいいるんだろう?


「まあ、エイリー様ならありそうですけど」

「……え?」

「エイリー様はもうなんでもありです」


 そんなヴィクターの言葉に一同がうんうんと頷く。

 え、心外だな。私にだってできないことはあるよ?


「だいぶ話が逸れたの。エイリー、こやつらを紹介してくれないか?」

「そうだね、じゃあファースから自己紹介して」


 ベルナにそう言われたので、私はぶん投げた。だって、ヴィクターの仲間たち、名前覚えられてないんだもん。


 俺からか?みたいな視線をファースが向けるので、勿論と私が頷く。

 ファースは諦めて、自己紹介を始めた。


「こほん、ファースと申します。特殊魔法の中でも支援系の魔法が得意です」

「ファースの妹の、グリーと申します。剣士です」

「ファースたちの友人のレノと申します。二刀流の剣士です」


 なんて、淡々と進んでいく、が。私にはベルナは笑いを堪えているようにしか見えないし、ファースたちはどこかぎこちないなかった。

 本当に、君たちベルナのいいおもちゃになってるよ。


 ファースたちの自己紹介にヴィクターたちが続く。


「ヴィクターです。槍使いです」

「俺はヴィクターさんのギルドのイーサンです。縄や紐などを操って戦います」

「セオと言います。弓使いです」

「あたしはグルースです。片手剣使いです」

「シエナと言いますぅ……。これでも格闘家ですぅ……」

「私はアメリアと申します。闇魔法が得意です」


 おお、自己紹介を聞いてなんとなく、ヴィクターの仲間たちを思い出してきたぞ?

 どうせまたすぐ忘れるんだろうけど。


「面白い人たちがいっぱいじゃの、エイリー。それに皆強そうじゃ」


 ベルナは一言コメントを言うと、


「初めましてじゃの。皆知っていると思うが、妾はベルナディット・マスグレイブじゃ。そんなに強くないから、皆戦闘は頼んだぞ」


 と自己紹介をする。


「嘘でしょ、そんなに強くないなんて」

「エイリーたちに比べたらまだまだじやぞ? ちゃんと、妾のこと守るんじゃぞ、エイリー?」

「……わかりましたよっ!」


 こうして、私たちはシェミー救出に向けて動き出すのだった。

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