54 やはり、キャラは強い

 そういうわけなので、私は堂々と外に出た。その後ろを少しおどおどしたゼノビィアが着いてくる。

 別に悪いことなど、これっぽっちもしてないんだ。何の問題もないし、おどおどする必要もないでしょ。

 そんなにおどおどしてた方が、何かしたって疑われそうだし。


 そんな風に逃げも隠れもしないで、出ていったんだから、見つかるのも当然であって。


「あ、すまんが少しいいか?」


 と、コランタン王子のお供らしき騎士のひとりに声をかけられる。


「よくないです」

「「え」」


 私の返答が意外だったのか、そんな答えを返されると思っていなかったのか、騎士とゼノビィアがきょとんとした。

 きょとんとした顔が似すぎてて、ちょっと怖かった。


「ちょちょちょ、エ、エイリー?!」

「どうしたの、そんなに慌てて」

「え、だって、騎士様だよ?! 第1王子親衛隊の騎士様だよ?!」

「知ってるけど」


 そこに第1王子がいるんだから当然だろう。何を当たり前のことを言っているんだ。


「知ってるなら、もっと丁寧に対応してよ?!」

「……一応これ、冗談だったんだけど」

「よくこの状況で冗談言えるね?!」


 凄い勢いで、ゼノビィアはツッコミを入れてくる。いつもの何倍もキレがいいなぁ……。

 私に声をかけてきた騎士は、ついていけずにぽかーんとしている。仮にも騎士様がそんなアホ顔を晒していいの?

 ダメでしょ、皆の憧れ(?)の騎士様でしょ! キリッと行こうよ!!


 そんな、感じでやり取りをしていると、


「おい、どうかしたのか?」


 と、金髪のザ・王子様という男が乱入してきた。いや、ザ・王子様というのは言い過ぎた気がする。王子様というより、カッコつけた騎士?的な感じだ。


 まあ、周りにいる騎士とは装備が違う(ひとりだけ高級感に溢れている)ので、彼が第1王子、コランタン・マスグレイブで間違いないだろう。


 ファースとグリーの兄で、ベルナの弟。一体どんな奴なんだ。

 私は思わず身構えてしまう。

 当たり前だと思う。変人の兄弟は変人に決まってる。


「あ、コランタン様。いえ、特に何も……」

「そうか? ならいいんだ」


 深く追求することなく、あっさりと納得した。

 ……いいのか?それでいいのか?! もっと追求するべきじゃないのか?!


「いきなりすまない。俺は、コランタン・マスグレイブだ。尋ねたいことがあるんだが、いいか?」

「はい、なんでもお尋ねください!」


 私が余計なことを言う前に、ゼノビィアがそう返してしまう。

 なんでも、は言い過ぎだろう。


「そうか、感謝する」

「いえ、当然のことです! 私は、ゼノビィアと申しますゼノヒィアとお呼びください!」

「そうか。よろしくな、ゼノビィア」


 気さくに話しかける、コランタン王子。

 マスグレイブ兄弟って基本的にコミュ力高いよね。そういうところは王族なんだよなぁ。


 ゼノビィアとコランタン王子が互いに自己紹介を終えると、2人してじっとこちらを見てくる。お前も自己紹介しろ、と言わんばかりに。

 別に、自己紹介しないとは言ってないんだから、そんな目で見ないで欲しい。


「私はエイリー。踊る戦乙女ヴァルキリーと言えばわかります?」


 私がそう言うと、親衛隊の皆さんは驚いた顔をし、コランタン王子は何故かとても嬉しそうだった。


「おお! 君が噂の踊る戦乙女ヴァルキリーか!」

「そうですけど……。どうしてそんなに嬉しそうなんです?」

「一度、会いたかったんだ! いや、俺は運が良いな!」

「そーですか」


 これは、あれか? ベルナみたいに、派閥に勧誘されるパターンか?


「俺と戦ってくれ!」

「……はあ?!」


 さらりとなんか恐ろしいこと言いませんでした、この人。


「俺と勝負だ、踊る戦乙女ヴァルキリー!!」


 びしっ、と指で私を指し、カッコいい(笑)ポーズを決めるコランタン王子。何気に様になってるのが、悔しい。

 ああ、こいつはこういうキャラなのね。単純・熱血・戦闘狂。濃いなぁ。濃すぎるなぁ……!


「何を言ってるんですか、コランタン様!」


 慌てて親衛隊のひとりが止める。そりゃそうだ。

 私はレベル300越え。その気になれば、殺すことだってできる。…………やらないけど! 断じてやらないけど!


「そうですよ、何馬鹿なこと言ってるんですか? ここに来た、本当の用件を話してくださいよ」


 私は親衛隊の人に便乗して、そんなことを言う。

 気持ち的に、『そうだそうだ!!』って言ってやりたかったんだけど、流石に王族だしね。


「ちょ、ちょ、エイリー?! 何言ってるの?!」

「え、私なんかおかしなこと言った?」

「無礼にもほどがあるでしょ!」


 敬語は、使ったんだけどなぁ? 王族、というものに慣れてきてるのかもしれない。


 ––––––それに、こいつ本当に馬鹿じゃん? そんな奴に敬意を払いたくない。


 私がそんなことを思っていると、コランタン王子が大声で笑いだした。


「あははは、面白いな」


 ほら来た。今まで出会ったマスグレイブ兄弟と同じ反応。流石は兄弟。


「コランタン様……」


 親衛隊の人は、呆れた顔をして主人を見る。


「まあ、用件を話しちゃって。そしたら、戦ってあげなくもないから」


 ついに、私は敬語を使うこともやめたのだった。


 それを、コランタン王子も親衛隊の皆さんも咎めることはなかった。

 冷や冷やした顔をした、ゼノビィアはいたけれど。

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