55 王子様との決闘(?)

「それもそうだな。では、用件を話そう」


 コランタン王子は、話を進めてくれる。

 話が早くて助かる。というよりは、単純と言った方が正しい気がするけど。まあ、細かいことは気にしなくていいよね。


「と言っても、まず、君たちが何しにここに来たか、教えて貰ってもいいか?」

「邪竜を倒しに来た」

「倒した……よな?」

「勿論。わかってるなら聞かないでよ」


 私がそう言うと、親衛隊の人が驚きの表情を見せる。か弱い女性2人で邪竜を倒した、と言う事実に驚きを隠せないんだろう。

 まあ、私とゼノビィアならなんてことないけど。


「そうだよな。ここからが本題だ。洞窟で指輪を見かけなかったか?」

「指輪……?」


 ……邪竜から出てきたあれか! 

 コランタン王子が探しているってことは、あの指輪もマスグレイブの秘宝ってことだよね?! 

 だからこんな場所に邪竜が出たのか……! 納得だよ。


「割とシンプルな指輪なんだが」

「……わかりませんねぇ~」


 私の言葉に、ゼノビィアが目を見開く。そりゃそうだろう。指輪は見つけて、私が持っているのだから。

 私は黙ってて欲しいと目力で伝える。伝われ〜!


 ゼノビィアは私のただならぬオーラに気づいたのか、こくりと頷いてくれた。


「そうか。ならいいんだ」


 あっさりと引き下がるコランタン王子。やっぱり単純だ。


 それとやっぱり、コランタン王子には嘘が通じるようだ。彼にはゼーレ族の力があまりない。

 ゼーレ族の力を強く持つ人ほど、瞳の色は深い翡翠色をしている。

 だから、ベルナはゼーレ族の力が強い。逆に全く翡翠色の面影がない金色の瞳を持つコランタン王子には、ゼーレ族の力がない。


 何はともあれ、誤魔化せて良かった、良かった。

 一応、宝の回収を受けているからね。コランタン王子にあげるわけにはいかない。


「じゃあ、エイリー。戦おうではないか!」


 もしかして、いやもしかしなくても、こいつ、戦いたいがために話をさっさと進めたのでは……?

 絶対にそうでだ。こいつから溢れ出る戦いたいオーラは異常だ。


「はあ、まあいいんだけど。ルールとかハンデとかどうすんの?」

「剣での一騎打ちで、魔法の使用はなし。でどうだ?」

「それでいいよ」


 魔法が使えないのは痛いが、丁度良いハンデだろう。私が魔法を使ったら簡単に勝てちゃうしな。


「そっちの誰かが立会人やって良いよ」

「分かった」


 さくさくとルールなりなんなり決まっていく。



 で。あっという間に準備ができ、私とコランタン王子は向かい合う。


 私はゆっくりとクラウソラスを抜く。コランタン王子は、片手剣のようで、割とシンプルな剣である。

 私たちが剣を抜いたのを見ると、


「では、始め!」


 ルール説明がめんどくさくなったのか、立会人の騎士はすぐに決闘開始の合図をした。

 剣だけだけど、勝てるかなぁ……? コランタン王子、強そうだぞ。


 まあ、勝てなくてもなんの問題もないから大丈夫か。


 なんて、呑気に考えてるとコランタン王子が猛スピードでこちらに迫ってくる。

 カキン、と金属と金属がぶつかる音がする。

 コランタン王子の剣は、速いし重い!


「ははは、やばいかもなぁ」


 冷や汗をかきながら、私は呟く。


「冗談だろ? 俺の剣を受け止めるなんて、流石だ」

「そうなの?」

「ああ。俺の剣を受け止められる人なんて限られてるんだぞ?」

「へー」


 どうでも良いけど、この王子、剣の腕だけは確かなようだ。


 とにかく、このままでは押し負けてしまう。

 私は剣を握る手から力を抜き、後ろに飛ぶ。当然だが、コランタン王子はバランスを崩した。


 その隙を見逃さない。

 私はすぐさま体勢を整え、加速をして、コランタン王子に剣を向ける。

 これで、決まりかな?

 と、思ったのだが、流石はコランタン王子。

 私の剣を不安定な体勢でも受けた。


「ふふふ、流石」

「そりゃどうも」


 だからと言って、追撃をやめないわけない。


 私は勢いに乗って、どんどん打ち込む。

 コランタン王子は段々と捌き切れなくなり、ついには、剣をその手から手放す。

 私は、喉元すれすれにクラウソラスを向ける。


「そこまで! 勝者、エイリー様」


 そこで、私の勝利宣言がされる。

 ふう。なんとかなってよかった。


「やっぱり、流石だな、踊る戦乙女ヴァルキリー

「ありがと。でも、踊る戦乙女ヴァルキリーって呼ぶのはやめてよね。エイリーって呼んで」


 いつものように、呼び方を指定する。


「分かった、エイリー。俺のことはコランとでも呼んでくれ」

「分かった、コラン」


 その会話に、親衛隊の人もゼノビィアもポカーンとしている。驚くのはわかるけど、そこまで露骨に驚かなくてもいいじゃん。

 2人だけで、会話は進んでいく。


「なあ、エイリー。俺に協力してくれないか?」


 はい、きましたー! くると思ってましたー!


「協力……?」


 とりあえず、知らないふりをしておく。何それ美味しいの的に。


「俺たち兄弟が跡継ぎ争いをしてるのは知っているだろ?」

「はあ、まあ有名だしね」

「姉さんも、クレトも出しゃばってくるから変なことになってるんだ。まあ、競争は好きだからいいんだけどな」


 確かに、普通なら跡を継ぐのは長男のコランだろう。


「で? 協力って? 私にできることなんてないと思うんだけど」

「詳しくは言えないが、色々とエイリーが役に立つんだよ」

「ふーん、で、私に派閥に入れ、と」

「そういうことだ」

「じゃ、お断りさせてもらいます」

「は……?」


 信じられない、と大口を開けるコラン。仮にも王子がそんな顔をしてはいけないだろう。


「どうしてだ?」

「めんどくさいから。跡継ぎ争いとかぶっちゃっけどうでもいいし。まあ、頑張って?」


 私がそんなことを言うと、


「ちょ、流石に失礼だぞ?!」

「そうだよ、エイリー!」


 と、固まっていた方々が口々に私を非難する。


「別に断ろうが私の勝手でしょ。それに、ベルナ――ベルナディット姫の誘いも断ってるんだから、コランの誘いも断らないと不平等だし」

「「「は?」」」


 見事に皆さまハモりましたー! すごいすごーい!


「そんなに、驚かないでよ。結局、皆考えるとは一緒ってことでしょ?……話はそれだけ?」

「……あ、ああ」


 やっとの事で頷くコラン。


「じゃあ、私は帰るね。またね、コラン。さ、帰ろ、ゼノビィア」

「………」


 驚く皆を置き去りにして、私は歩き始めた。



 ……そんなに驚かなくても、いいじゃん。私がおかしいみたいじゃん。

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