53 またまた登場、新たな王族
うーん、ま、何はともあれ、邪竜退治も無事に終わったことだし、さっさと帰りたい。慣れないことして少し疲れた。
「取り分を分けるのは帰ってからでよくない?」
私はなんでもいいから、早く洞窟から出たかった。この音が響く感じが、好きじゃない。
「別にいいけど」
ゼノビィアの了承を貰ったので、私はアイテムボックスに解体した邪竜をしまう。
「それ、便利だよね。羨ましいなぁ」
きらきらした目で、ゼノビィアが私を見てくる。
「……この魔法、使えるけど、どうやって使ってるのか、私もわからないっていつも言ってるでしょ。使い方、教えるのは無理なんだってば」
そもそも、魔法と言っていいのかどうかわからないものだし。
なんせ、前世の記憶を思い出した時に使えるようになっていたのだ。いわば、ゲーム補正なのだ。私だって、どういう原理で使えてるのか、わからない。むしろ、私が教えてほしいくらいだ。
便利なんだけど、とっても非現実的。魔法ある世界で言うことじゃないけど。
「わかってるよぅだ」
そう言いつつも、ゼノビィアはどこか不満げだった。じとぉとした目で私を見ないでほしい。
意地悪してるわけじゃないんだけどなぁ。まあ、使ってるのにどうやって使ってるかわからないなんて、あり得ないからなぁ、普通は。
「さ、帰ろ帰ろ」
「そーだねー」
そうして、私たちは洞窟の外を目指すのだった。
* * *
魔物に一匹も遭遇することなく、私たちは外に出ることができた。当たり前と言ったら、当たり前なんだけれども。
魔物が出てこないって素晴らしい。
――――面倒なことになったのは、どちらかというと、外に出てからだ。
出口に近づくにつれ、ガヤガヤと外から雑音が聞こえてくるようになった。あれは明らかに人の声だった。
邪竜の噂を聞いて、冒険者がやってきたのか? 倒したことを説明するのめんどくさいなぁ。くらいにしか思ってなかった。
入り口付近でゼノビィアと目配せをして、一旦止まる。
「人がいるっぽいけど、どうする?」
「どうするもなにも、出ないわけにも行かないでしょ? とりあえず、エイリーはマップで確認して。私はちょっと外の様子を見てくる」
そうして、私はマップを、ゼノビィアは外を見た。
「まじかよ」
「嘘でしょ」
私たちが驚きの声を出したのは同時だった。
マップを閉じて、ゼノビィアの方に駆け寄ってその事実を確かめる。
洞窟の外には、偉そうな金髪のひとりの男性と、鎧を身にまとった騎士らしき人たちが数人いた。
黄金より輝いている金髪と金色の瞳を持つ、俺いかにも王族ですってオーラを持っている男性。それは。
――――第1王子、コランタン・マスグレイブその人だった。
…………最近よく王族に合うなぁ。別に嬉しくないんだけどなぁ。
「コランタン様、だよね?」
「うん、マップの名前もそうなってる」
お忍びではないのだろうか。マップの名前をコランタン王子は細工していなかった。
清々しいな。
「嘘でしょ。どうすればいいの」
「てか、ゼノビィア、知ってるんだね」
王族の顔や名前を知らない人はかなりいるのだ。マスメディアが発達していないので当然のことなんだけど。出回るのはせいぜい姿絵だ。
でも、ゼノビィア、ファースとグリーを見たときは反応しなかったよね?
跡継ぎ争いをしてる3人がメインだから、ファースたちは知名度が低そうだけども。
「当然でしょ」
「私は知らなかったけどね、顔」
名前は流石に知っていたけど。
これでも、元・公爵令嬢。隣国の王族の名前くらいは知っている。会ったことはなかった(きっとそのはずな)ので、顔は分からなかった。
「てか、妙に落ち着いてるね、エイリー」
「そー?」
「流石だわ」
流石も何も、3人には会ったことがあるのだ。しかも皆、かなり変わり者だったし。
マスグレイブ兄弟は、自らが王族だという自覚が足りてないように思われる。
「で、どうしよっか?」
ゼノビィアがたじたじしながら聞いてくる。
「どうするも何も、普通に出ればいいでしょ?」
「でも、コランタン様がいらっしゃるんだよ?」
「その理屈、よくわからないんだけど」
「どうしてそんなに落ち着いてるの?!」
「いや、ゼノビィアこそどうしてそんなに慌ててるのさ」
ゼノビィアが王族相手に、こんなに慌てるとは意外だった。いつも通り、淡々とした態度で接するのかと思ってた。
やっぱ、偉い人には緊張しちゃうのかなぁ?
「私が普通だよ。エイリーがおかしいんだよ」
「それは……そうなのか?」
確かに、偉い人には慣れているけど。
……よくわからなくなってきたぞ。
「とにかく、ここから出ないといけないんだから、出よ?」
「えぇ」
「女は度胸って言うし?」
「言わないっ!」
ゼノビィアが断固として動こうとしないので、私は、
「えー。じゃあ、私は先に帰るからね」
と言って、歩き出した。
「置いてくな!」
1人になるのも嫌だったのか、ゼノビィアは私の後をついてきた。
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