52 邪竜vs踊る戦乙女
作戦(?)が決まった私たちは、覚悟を決めて恐る恐る洞窟に足を踏み入れた。–––––と、そんなわけはなく、冒険者省にでも入るように、平然と、堂々と、お気楽に洞窟に入った。
気分は完全に『あ、お邪魔しま~す』だった。
洞窟の中には、他の魔物はあまりいなかった。邪竜がいるので、容易には近づかないのだろう。
竜種は、自らのエネルギーを得るために、魔物たちを喰らうからだ。いくら魔力に吸い寄せられる魔物とはいえ、自分の命を危険にさらす行動はしない。
私たちはマップを頼りにして、どんどん奥へと進んでいく。
「
そんな私の声が、洞窟内に響く。めっちゃ響く。
「元々、危険視されてない洞窟だしね」
「まあね」
邪竜なんて存在しなければ、ここに私たちが出向くことなどなかっただろう。
この洞窟は入り組んでこそするが、危険な魔物など住んでおらず、初心者向けの狩場なのだ。レベル上げにぴったりってわけ。
だから、邪竜が生息していることが知られてないのだろう。
「誰も襲われてないよね? 邪竜に」
私は不安になって、ゼノビィアに尋ねる。
「そんな噂は聞いてないから、たぶん大丈夫だと思うよ。それに、誰かしら襲われてたら、冒険者省に依頼が来るでしょ」
「それもそっか」
襲われてた冒険者、全滅してたら別だけどね。なんちゃって。あははは、笑えない。
「あ、そろそろだよ。準備してね」
「あー、はいはい」
ゼノビィアにそんなことを言われてので、私はクラウソラスを抜いて、軽く素振りをする。
「鱗さえ傷つかなければいいんでしょ」
「できれば、他の部分も綺麗な状態がいいな」
「贅沢な」
「お願〜い。半分はエイリーに分けてあげるから」
「えー」
半分って、取り分おかしくない? 私が主となって戦うんだよ? 鱗以外全部もらっても、おかしくないよね?
「えー」
「じゃあ、ゼノビィアも戦ってよ」
「援護はするって言ってるじゃん」
「じゃあ、物凄い援護を期待してるよ」
「任しといて!」
とんっ、と胸を叩いて、ゼノビィアは笑う。
調子がいいなぁ。
そんなこんな喋っているうちに、どうやら邪竜のいるフロアが目の前に迫ってきた。
「ささ、エイリー。踊る
「……調子いいなぁ」
「つべこべ言わずに、さっさと行く!」
どんっ、とゼノビィアに思いっきり背中を押され、私は邪竜のいるフロアに入ってしまった。
心の準備できてないのに、なんて嘆いている場合じゃない。
取り敢えず、私が崩れかけた体勢を立て直す。
……殺気が感じるなぁ? あは、あはは? あははは?
視線を感じる方を見ると、そこには黒い鱗を持つ、私の10倍はある邪竜がいた。しかも、ばっちり目があってしまった。
このゼノビィア、覚えてろよ! こんちくしょう!
「光よ、光。纏えよ、纏え。星のごとく、月のごとく!」
私は早口で呪文を歌い、クラウソラスに光を纏わせ、強化する。
「ギャオオオオオオ」
邪竜が吠え、ひしひしと体を威圧してくる。
この邪竜は、喋らないタイプかぁ。喋らないということは、知能が低いと言うことだ。そういうことならやりやすい。
喋るとちょっとずる賢くて、やりずらいんだよね。
「ゼノビィア、麻痺毒よろしく!」
「オーケー、任せといて!」
私はゼノビィアに指示を出すと、邪竜の方へ駆け出す。
剣術は苦手だけど、苦手なりに頑張らないと、死んじゃう。ゼノビィアに殺されちゃう。
「たあ!」
足元を狙って斬りかかる。意識を私に集中させるためだ。
私は邪竜に踏みつけられないように気をつけながら、足に傷をつける。竜の鱗は硬いので、クラウソラスであっても完全に切り落とすことは出来ない。
「刺さったよ、エイリー! そろそろ効いてくるころ!」
ゼノビィアが瞬間錬成で作り出した、麻痺毒の針がうまく命中したようである。
「ありがとっ!」
簡潔にお礼を言うと、私は足元から飛び出して、首元を狙う。竜種は首には核があり、そこを刺すことができれば、瞬殺なのだ。
「凍れ、凍れ、凍れ。固くなれ、固くなれ、固くなれ。貫け、貫け、貫け!クラウソラスよ、全てを知り、受け入れ、発揮せよ!」
踊りながら呪文唄い、クラウソラスを極限まで硬くする。
「はあああっ!」
私は全てをそこに込めて、邪竜の核を刺す。
ぱりん、とガラスのような物が割れるような気がした。……核が割れたのだ。
邪竜は力尽きて、倒れてくる。危なっ!
急いでクラウソラスを抜き、私はその場から離れる。
なんとか、逃げられた。邪竜の下敷きになって死亡とか、笑えない。本当、笑えない……。
「お見事! 流石だね!」
「まあね。ゼノビィアもナイス!」
と私たちはハイタッチをする。心地よい音が、洞窟内に響き渡る。
「さて、どうしよっか、これ」
邪竜の亡骸をクラウソラスで指しながら、ゼノビィアに尋ねる。
「ここで解体して、取り分まで決めちゃお」
「おけー。じゃあ、解体よろしく、ゼノビィア」
「ええー」
「だって、解体はゼノビィアの方がうまいじゃん。それに私が解体したら、傷つくよ、きっと」
「ああ、それは嫌だな。ただでさえ、足の鱗は傷だらけだし」
仕方ない、と渋々ゼノビィアは解体作業を始める。といっても、魔法を使うので、そんなに手間はかからない。
ゼノビィアは、魔法で邪竜をばらばらにした。
鱗を始め、かなりの部位が細かく分かれていた。鱗と骨の多さは異常だ。当たり前だけど。
「ねえ、エイリー」
「何?」
「なんだろう、これ」
ゼノビィアが、邪竜から出てきたあるものを見せてきた。
「……指輪?」
「それは見ればわかるでしょ」
よく分からない文字が彫り込まれているだけのシンプルなデザインをした、少し魔力を感じる指輪をゼノビィアは掲げていた。
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