51 ゼノビィアさん、ノリノリですね
「あー、そう言えばね。悪魔退治したとき、悪魔は大したことなかったんだけど、その後が困ったんだよね」
私は、ゼノビィアに悪魔退治のときの話をし終えた。
上級悪魔に会ったことは勿論言わなかった。というか、ロワイエさんにも言ってない。会話の内容が内容だし。私がルシール・ネルソンだなんてばれる訳にはいかないのだ。
それに、悪魔が上級か下級かだなんて、たいした問題じゃないでしょ。
「へー。悪魔を大したことないとか言えちゃうエイリーって、やっぱり規格外だね。それで? 何に困ったの?」
「帰り道が分からなかったんだよ。どこにある村かも正確にわからなかったしさ」
村人に話を聞いて、かなり王都から離れていることがわかった時の絶望感。こんなに悲しいことはなかった。
元の場所に戻る手段がなって、不便。転移魔法使えない。
「へー、大変だったんだね。で、どうやって帰ってきたの? 歩いたの?」
「途中までは」
「まじかよ」
ゼノビィアは冗談で言ったらしく、私の答えに驚いていた。
私だって、歩くとは思わなかったよ!
だからと言って、わざわざ村人に馬車出させるのは悪いしさ? ……それに、ぼろかったし。乗り心地悪そうだったし、何より酔いそうだったし。
歩いた方がマシって結論になったわけだ。
「だって、本当に田舎の村だったんだよ。めっちゃ王都まで遠かったんだよ」
「そして、どうしたの? 途中からは通りかかった商人の馬車にでも乗せてもらったの?」
「まさか。そんな偶然あるわけないでしょ。歩くのしんどくなったから、魔力消費する覚悟で、召喚魔法使って、ペガサス召喚して、それに乗って帰ってきた」
召喚魔法はかなりの魔力を消費する。喚び出すのに使い、喚び出した召喚獣が活動する力の源として魔力が常時吸い取られるのだ。
コスパは最悪だけど、何日もかかって歩くよりはねぇ。
私は我が家のベットで寝たかったのだ!
「はあ? ペガサス?」
ゼノビィアは「お前何言ってるの」と言いたげな顔をした。
「そうそう、ペガサス」
まあ、ペガサスは喚び出すの難しいって言うしね。ほんと、たまたま成功して良かったよね。
「……やっぱエイリーはおかしいわ」
「おかしいって何よ、おかしいって。私は正真正銘、人間だし!」
人より少し強いだけであって、そんなにおかしくはないだろう。誤差の範囲だ。何が何でも誤差の範囲なの!
「あ。あれだよ、洞窟」
私の抗議を無視して、ゼノビィアは洞窟を指差す。
いくら楽しみでもさ、人の話は聞けよ。
「あ、ほんとだ」
まあ、こんな状態のゼノビィアに何を言っても通じないので、私はテキトーに話にのる。
本当に邪竜いるのかなぁ。無駄足だったら嫌だなぁ。
そんなことを思って、マップを開く。
「あ、邪竜いるね。本当にこんなところにいいたんだー」
「私の情報、信じられなかったわけ?」
「半々。だって、ゼノビィアの情報って、所詮噂でしょ?」
噂は形を変えて、あっという間に人に広がるのが特徴だ。少し信じるくらいに留めておくのが賢い人だと思う。
それに冒険者省では、まだ邪竜が出たなんて、出回ってない。疑っておいて損はないでしょ。
「そうだけど。所詮噂けど、されど噂なのよ!」
「へいへい」
「じゃあ、突撃しましょ」
「いきなりかよ!」
「いや、エイリーにつっこまれるとは思ってなかったわ」
「なんでよ?」
「自覚なし? これが一番タチ悪いんだよなぁ」
「何なの?!」
「ま、とにかくちゃっちゃと邪竜を倒すよ!」
やる気満々のゼノビィアを私は止められない。もう完璧に意識は邪竜(の鱗)にある。
それに、邪竜の相手をさせられるのは、100パーセント私だ。
「邪竜を消滅させたり、鱗を傷つけたりしないでね。つまり、魔法はあまり使わないでねってこと!」
「えー」
完全に私の専門外じゃん。
「ゼノビィアがやった方が早くね?」
「私のナイフと針で、邪竜を倒せると思ってるの? 鱗は硬いんだよ?」
いやいや、ゼノビィアの技術ならできると思いますけどね。
「私のクラウソラスも変わんないよ……!」
「でも、エイリーがやった方が安全でしょ? ほら、HPの量が私とエイリーとじゃ全然違うじゃん」
「そうだけどさー」
「援護はするから! ね! じゃあ行こー!」
私の話をろくに聞かず、ゼノビィアは洞窟へ歩き出した。
ほんと、ノリノリだなぁ。
私は慌ててゼノビィアを追いかけた。
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