50 上級悪魔まで出てこなくても

「ほう? 全てひとりでやってしまうとは」


 くくく、と笑い声がどこからか聞こえてくる。

 もう誰もお呼びじゃないんだよ! 私はさっさと帰って飯を食いたいんだよ!


「誰? どこにるの?」


 さっきの悪魔より、流暢に喋るなぁ。というか、人間そのものの発音だ。


「後ろにいるぞ」


 はっ、として私は後ろを振り向くと、普通の人間の少女が1人いた。最も、見た目だけだが。


「あんた、何者?」


 クラウソラスを少女に向ける。


「おっと、私は普通の少女だよ?」

「どの口が言う。


 うまく言えないが、この少女の魂は異物が混入している。気持ち悪くなるほどに、魂どうしが反発し合って、うまく混じれていない。

 本能的に感じる気持ち悪さ。こんなの嫌がらせでしかない。


「くくく、分かるか? 流石だな。。いや、今はエイリーだったか?」

「……なんで、その名前を」

「さあ? なんでだろうな?」


 くくく、と少女は面白そうに笑う。さっきから笑いすぎだ。むかつく。


 私は腹が立ってきたので、クラウソラスを少女の喉に突きつける。

 倒しちゃいたいけど、我慢だ。こいつには、色々聞き出さなければならない。


「おっと、殺さないでくれよ? 体は普通の少女のものなんだよ」

「……」

「嘘じゃないぞ? は体を持たないんだ」

「上級、悪魔……?」

「ああ、知らなかったか? さっきのは下級の悪魔だぞ? 上級悪魔は体を持たないんだよ。幽霊みたいな感じ、といえば分かるか? だから、上級悪魔わたしたちは人間に憑依するんだ。こんな風にな」


 そう言いながら、悪魔はくるりとターンをする。


「まあ、魂が上手く共鳴しないと、君みたいな実力者にはバレてしまうがな。上手くハマるとバレないもんよ。たまに、悪魔と契約しようとする変な奴がいるけど、そういう奴となら、魂は間違いなく共鳴するけど」

「へー。勉強になった。で? 中身の悪魔を倒すにはどうすればいいの?」

「それを私に聞くか?」

「勿論」

「くくく、やっぱり君は面白いな。だが、教えるわけにはいかんな。こっちだって、命がかかっているんだから」


 だよねー。この悪魔がそんなに間抜けなわけがない。

 まあ、聖魔法を使えば倒せるはずだ。確か小説でも、ミリッツェアが魔王のことを聖魔法で倒していた。なんとかはなるだろう。


「で? 私に何の用?」

「ただ、君のことが気になっただけだよ」

「は?」


 なんだって……?


「知らなかった? 君はネルソン家に封印されていた、上級悪魔・タローマティと契約しようとしたが、失敗した、というより放棄しただろう? そのはずみで、タローマティは不完全ながら、解放されたんだ」

「え」


 ……まじで?


「そこからは簡単さ。各地にばらばらに封印されていた上級悪魔を、タローマティが解放したのさ。あとは、魔王様の封印を解くだけだね」

「……」


 私、やばくね? なんか、悪魔と契約するよりやばいことやらかしちゃったんじゃね?

 内心で、冷や汗をかきまくりだ。やばいやばいやばい、それしか思うことができない。


「驚きで声も出ないかい?」

「……確かに驚いた」


 自分自身、知らず知らずのうちに大変なことをやらかしていたことに。


「自分がしてしまったことに対して、どう思ってるか聞かせてくれるかい?」


 目の前の悪魔は凄く楽しそうだ。


「……まあ、やっちゃったことは仕方ないよね!」

「は?」

「もうどうしようもないんだから、気にしない」


 それが1番である。過ぎたことをうじうじ気にするなって誰かも言ってたし。

 うんうん、気にしない気にしない!


「……君はなんというか、変な奴だな」


 あれ、私になんか呆れてない? 呆れるポイントなんてあった?


「悪魔なり、魔王なりかかって来ればいい。私が倒してあげる」

「くくく、やはり君は面白いな」

「あんた、さっきから笑いすぎ」

「だって、君が面白いから」


 そうか? ……私はそんなに面白いのか?

 私が困惑していると、


「さて、今回の作戦は失敗したし、帰るかな」


 なんて、甘ったれたことを言い出した。


「帰すと思ってんの?」

「帰らせてもらうさ」


 その瞬間、目の前の少女がその場に倒れこんだ。


『くくく、じゃあね、エイリー』


 どうやら、悪魔は少女の体を捨てたらしい。

 悪魔の本体がどこにいるのかは、正確に分からなくなってしまった。


「待て!」

『待たないよ』

「あんた、名前なんて言うのよ! いつか倒しに行くから!」


 名前知らないと、どうしようもないじゃん! ただでさえ、体を持たないので、探しづらいのに!


『本当に面白いな、君は。私の名前はジャヒー。覚えとくといい』


 そう言い残して、ジャヒーは消えていった。


 こうして、悪魔騒動は終わったのだった。


 * * *


 完璧な余談だが。


 私の戦いぶりをこっそり建物の陰から覗いていた者がいたらしく、その人が私に“踊る戦乙女ヴァルキリー”という厨二くさい二つ名をつけやがった。



 それは、私の戦果と共に、あっという間に広がった。

 ほんと、なんなんだよ。


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