10 あっさり魔物倒し

 この洞窟の奥に眠っている、お宝。


 それは、伝説というか、『伯爵令嬢』のゲームの中の、レア中のレアな魔剣・クラウソラスだ。

 これが欲しかったので、私は結局依頼を受けることにしたのだ。まあ、ゴリ押しされたのが一番の理由だけど。あれは断れない。


 さっさと魔物を倒して、クラウソラスを手に入れるとしよう。

 依頼の最中に手に入れた宝などは、その人が貰える。ありがたい話だ。だから、ここでクラウソラスを手に入れれば、それは私のものになるってわけ。


 冒険者は依頼さえあれば、かなり稼げるのだ。命の危険と引き換えだけど。


 呑気に考え事をしていると、また魔物たちに遭遇した。

 今度はさっきのより強い中級の魔物も混じっていて、簡単にいかないかもしれない。


 油断は禁物、と自分に言い聞かせるが、色々試してみたいという欲求を抑えられなかった。

 だから、私は得意な、というか手軽な魔法を発動させるんじゃなくて、脇にぶら下げている剣を握った。


 剣術のステータスは馬鹿みたいな数字を叩き出しているが、現実世界ではそれは実現可能なのだろうか? と言う疑問があったのだ。

 魔法だけでも十分にやっていけるが、剣を使うのは、オタクの一種の憧れ。剣を使って戦う戦士たちは、かっこいい。

 だから、仕方ない。仕方ないの。


「はあっ」


 剣を握る手に力を込めて、私は勢い良く、魔物の群れに突進していく。

 ぶんぶんと剣を振るが、魔物に上手く当たらない。当たると魔物は一瞬で死ぬのだが、当たるまでが困難だった。


 というか、剣自体は問題なく持ち上げられるし、むしろ軽いくらいなんだけど、正しい使い方がわからない。だから、剣で斬って倒す言うよりは、剣で殴って倒すと言うのが正しい表現の戦い方だった。


 そりゃ、そうなるに決まってるんだけども。


 魔法はイメージが大切なので、すぐに使えるようになるが、剣はそうじゃない。いくら剣術のレベルが高くたって、体が追いついていかないと話にならない。ルシールは剣の鍛錬をあまり積んでこなかったので、当然と言ってしまえば、当然のことだ。

 体が剣の使い方を覚えないといけない。つまり、慣れが必要なのである。


 段々と剣を上手く扱えないことに、イライラしてきた。地味に痛いし、地味にHP減るし! めっちゃ効率悪い! 

 てか、魔物湧きすぎ、どんだけいるの。うざったるい!


「まとめて片付けろ!」


 イライラに負け、私は光の矢を飛ばす魔法を使う。

 魔物の急所–––––心臓部に命中し、全ての魔物を撃ち漏らしなく、始末した。あっさりいきすぎて、少々腹立たしい。


 絶対、剣を使いこなしてみせる。と決意をした。

 ……結局三日坊主になるんだろうなぁ。それが私だ。


 はぁ、と溜息をつきながら、私はさらに奥へと進んでいく。



 それから私は、出てくる魔物を片っ端から魔法で瞬殺し続け、この洞窟の魔物のボスのいる場所にたどり着いた。

 護衛の魔物を魔法で吹っ飛ばし、魔物のボスと向かい合う。


 わぁ。今までの魔物と全然違う! 私より何倍も体はでかいし、ガタイいいし、強そうな武器握ってるし。


 倒せるのかなぁ?

 なんて、またまた呑気に考えていると、ボスがこちらに向かってくる。


「うおおおおおお」


 と、威嚇しながら、走って来る。無駄に迫力があって怖い。

 それに地響き凄い。そこら辺のデブとは桁違いに、地面が揺れる揺れる。


 なんか、気にくわないなぁ。

 グラグラ揺れる地面のせいで酔いかけてるし、叫び声は耳障りだし。

 なんか気分が悪くなってきたんだけど? そういう作戦?! そうなのか?!


 さっさと倒してしまおう、そう決めた私は。


「燃え尽きろ」


 殺気に満ちた声で、魔法を発動させる。


 すると、その殺気が直に伝わったのか、一瞬で魔物のボスは燃え、そして炭になった。

 一件落着、と思いきや、火の威力が強く、周りに火が移り始めた。このままでは、洞窟全体が燃えてしまう!


「えっちょっ、ちょちょちょ、待って! 待ってよぅ!」


 これだと、この洞窟のどこかにある、クラウソラスが燃えてしまう!!

 パニックになりながら私は、


「消火して!」


 水を出して、消化活動をした。

 幸い、私の迅速な行動により、被害は広がらなかった。


 ふう、良かった良かった。これで本当に一件落着。


「さてと。魔物退治は終わりかな」


 クラウソラスが燃えなかったことにほっとしながら、私はマップを確認する。うん、魔物は一匹もいないようだ。



 そして、私は安心して、クラウソラスを探し始めるのだった。

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