9 初めての依頼なんだけど

 それから、数日後。

 色々あったけど、無事にアイオーンと正式に契約を結ぶことに成功した。

 私のつけた条件は、


 1、素性を探らない。

 2、政治に関する依頼はしない。

 3、やり方は私に任せる。


 などなど、かなり沢山のものを要求した。

 が、相手は嫌な顔をすることなく、すんなりと了承してくれたので、逆に怖くなった。何か裏がありそうだ。

 まさかのブラック労働? 依頼の量って、もしかしてかなり多いの?! と、不安で不安で仕方なかった。


 本当に、前世の記憶を思い出してから心臓に悪いことが多いよ!! 当たり前だけど!!


 ––––––それはともかく。


 私は初めて、冒険者としての仕事に取り組んでいる。

 国の依頼ではなく、冒険者省に来ている一般からの依頼だ。


『洞窟のモンスター倒し』


 ファンタジーの世界では定番のやつだ。出てくる魔物は、そこそこ強いらしい。

 私はもっと初心者向けのものを選ぼうとしたんだけど、受付嬢に全力で止められた。そして、代わりに提案されたのが、この誰も成功していない依頼。


『エイリー様にはこれしかないですよ!!』


 素敵な笑顔と勢いで押しつけられた。

 私は、「これ受けます……」と言うしかなかった。


 そろそろ解決しないと依頼主様から、苦情でもくるんだろうなぁ。

 困っているから、冒険者省に依頼を出してるんだし。結構、金払い良いし。


 報酬が良いから、いいんだけどさ? 余り物を押し付けてくるのはやめてほしいよね。

 でも、今後ともそんな状態に陥りそうな予感がするなぁ。というか、もはや確定事項だよね? 難易度高いやつは、容赦なく私に押しつけてくるよね?

 皆さん、レベル300を存分に使う気だよね? 厄介事解決係にでも任命されちゃうの? えええええ。それだけは勘弁してほしい。



 まあ、そんなこんなで、私はお目当ての洞窟の前に着いた。

 よし、いっちょ頑張りますか。と、気合いを入れるものの、何をすれば良いのだろう? どうやって倒すべきとか、絶対にやっちゃいけないこととか、そういうのあるのかな?

 なんも教えられてないから、多分ないんだろうけど。


 というか、そもそも魔物の倒し方がよくわからない。

 ゲームみたいに進めれば、何とかなるのかなぁ。そんなに上手くいくかなぁ。


 何もしないわけには行かないので、私は洞窟に足を踏み入れた。

 なんとかなるでしょ! レベルは無駄に高いし!


「うわっ、暗い」


 予想以上に洞窟の中は暗く、呟いた声は静か反響した。これは、明かりが必要だな。

 木の枝かなんかに火でもつける? でも手が塞がるのって危険だよね。

 ゲームみたいに、上手いこと見えないかなぁ? 暗闇でもうっすらと見えるやつ。


 一か八かで、私は魔法を使ってみる。


「辺りを見せろ」


 自分に周りが見える、と思い込ませる魔法をかける。一種の錯覚のようなものだ。

 どうやら魔法は上手くいったらしく、洞窟の中が見渡せるようになっていた。よし、これで進めるね。


「マップ」


 と、ゲーム特有の、便利な機能を表示させる。地図は勿論、モンスターの分布や探している人の場所を表示してくれる。

 というか、この世界の住人はマップを使えるらしい。アイテムボックスは使えないのに。謎だなぁ。折角なら、アイテムボックスも使えるようにすればいいじゃん。


 今回は一匹残らず魔物を倒すのが依頼なので、皆殺しにしないといけない。だから、このマップはとても重要なものなのだ。


「うわぁ、うじゃうじゃいるなぁ……。何匹いるんだこれ」


 魔物が想像以上にいる。しかも、レベルもそこそこあるじゃないか。これじゃあ、簡単にこの依頼が達成できるわけない。誰も成功しないのも頷ける。

 でも、今の私は多分楽勝に達成することができる。まとめて潰して、さっさと終わらせよう。


 アイテムボックスから、適当に選んだ剣を取り出しながら、私は気合いを入れる。

 剣なんてうまく使える気がしないが、気休めにぶら下げておくだけでも、安心感が違う。それになんかかっこいいしね。冒険してるって感じ。

 基本的には魔法でいけるはずだ。


 ふう、と一息ついていると、早速、出迎えの魔物が来たようだ。

 数十匹の初級魔物ザコたちだ。これなら楽勝、楽勝。


「焼き尽くせ」


 魔物たちに攻撃の隙も与えず、私は魔法を発動させた。


 魔物たちは、勢いよく燃え上がり炭になって消えてしまった。

 意外とこの魔法、威力がある。

 イメージを怠ったら、洞窟全体を燃やしてしまいそうだ。気をつけないと。



 なんせ、ここには私のお目当てのお宝が眠っているのだから。


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