3 逃げるための準備

 さて、逃げるために必要なのは念入りな計画だ。へまをしないように注意をしなくてはならない。これ大事。

 このまま、家を出て真っ直ぐ隣国に向かってもいいんだけど、下準備が不十分で生活に困るのが目に見えている。


 今日はネルソン公爵家で過ごし、夜の間に荷物まとめ、しっかりと睡眠をとり、明日学園に行くふりをして、その足で隣国へ行くのが一番良いのかな。

 そうしよう。決まり!


 学園に行くには怪しい、大荷物になりそうだが、仕方あるまい。出来るだけ、荷物を最小限に絞ろう。今後の生活のために、金になりそうな物を持ち出そう。


 幸いにも隣国・アイオーンは、入国するのにめんどくさい手続きは一切不要だ。アイオーンには森や迷宮など、魔物が生息する場所が多いからだ。故に色々な国から、様々な冒険者を募り、魔物を討伐するために入国自由な国なのだ。

 だから、『冒険者の国』とも呼ばれている。ただし、悪さをした時の刑罰はすごく重いらしい。


 ともあれ、そんなアイオーンだから、私がひっそりと逃亡しやすいし、暮らしやすいはずなのだ。冒険者になり、稼ぐこともできる。この国・マカリオスでは、冒険者は、ほんの一握りしか生活するための金を稼ぐことはできない。

 基本的に魔物が出なくて、平和な国なんだよね、マカリオス。それに魔物が出たら、冒険者じゃなくて騎士団とか、国防軍とか、王都から離れた場所だと傭兵団とかが、倒してくれる。

 冒険者じゃなくても、魔物は十分に対処できるのだ。


 そういえば、私の今のステータスはどんな感じなのだろう? 冒険者をやっていくためにも、自分のステータスを分析しておくのは大事だよね。

 ルシールは幻想魔法は飛び抜けた才能はあるものの、他は平凡であったはずだけど。なんか隠れスキル的なの、実はあったりしないかな。


 幻想魔法は、精神に語りかける魔法が多いので、本能のままに行動する魔物相手にはあまり効果はない。

 人には効果絶大だ。だからこのままだと、犯罪組織とか裏部隊とかに所属して、仕事をするしかお金を稼ぐ方法がなくなってしまう。


 嫌だよそんなの! そんな暗躍するような暮らし! 何か、冒険者としてやっていくために対策を立てないと!


「ステータスオープン」


 そう意気込んで、私はステータスを開いた。私の目の前に、ステータスの詳細画面が浮かぶ。おお、と少しだけ興奮する。


 だが、そんなことに驚いている場合じゃない。


 私のステータスがおかしいのだ。


 ラノベの最強主人公みたいな、現実ではありえない数字がたくさん並んでいた。思わず目をパチパチさせてしまう。

 なんじゃあ、こりゃ。前世の記憶を思い出した反動……?


 基礎レベルは30くらいしかなかったのに、今はその10倍になっている。幻想魔法はカンストしてるし、幻想魔法以外の魔法のレベルもめちゃくちゃ上がっていた。ルシールは持っていないはずの、ゲームの画面越しでしか見たことない特殊なアイテムたちも、多く所有していた。


 というか、こっちの世界でもアイテムボックスとかいう、ゲームの中のご都合主義なものが使えるの?! 凄いな、ゲーム補正!

 試しに一番上に表示された弓の名前を押してみる。すると弓が手に現れた。おお、これは感動ものだ!


 そして、今度はアイテムボックスを起動させると、目の前に黒い穴が現れた。そこに弓を投げ入れると、穴は消えた。無事に収納されたみたいだ。


 使えるじゃん、アイテムボックス! 青い猫型ロボットのポケットみたい!

 つまり、部屋の荷物は持ち出し放題というわけだ! イェーイ。

 といっても、ルシールの私物は派手なものばかりで、私の好みではないんだよな。まあ、世界が違うし、しょうがないんだけど。でもそれにしたって派手すぎる。

 でも金にはなるだろうから、売って、生活資金にしよう。


「ん?」


 これからのことを想像しながら、ステータスを再度眺めていると、あることに気づく。


 名前の部分が“エイリー”となっていた。“ルシール・ネルソン”でも、“海住恵衣”でもなく。

 エイリー、というのは、私がゲームの時に使っていた名前だ。恵衣だから、エイリー。単純な由来だ。


 なるほど。どこかで見たことのある数字が並んでいると思ったら、ゲームの数字だったのか!


『伯爵令嬢は世界を浄化したい』略して、『伯爵令嬢』は人気があったため、オリジナルストーリーでゲーム化したのだ。ストーリーはイベントも含めてクリアした。

 レベルをカンストするまでしなかったのだが(した人もいるらしい)、ストーリーをクリアするのに250のレベルは必要なのだ。ちなみにレベルの上限は500。達した人はいるらしいが、ごく一部の人間だけだ。


 この“エイリー”のステータスは、前世の私海住恵衣のゲームのものと現世の私ルシール・ネルソンのものが足されて出されている。

 なあんだ、これなら十分冒険者としてやっていけるじゃん。


 なんだかんだ、今日はいいこともあったし、悪いこともあった。

 バランスが取れてていいじゃん、いいじゃん。

 そう無理矢理結論づけて、私は地下書庫を後にしたのだった。

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