2 前世の記憶、お陰で助かった
ネルソン家は、公爵家。しかも古参。
故に、国から貴重な資料の管理を任されることも少なくない。
そんなネルソン家が管理してる本の中には、悪魔との契約ができる本があった。そのことを知っていた私は、アホなことに嫉妬ごときで、悪魔と契約をしようとしたのである。本当にアホだ。何故にそんな発想に至る。
それが管理されている地下書庫に潜り込むのは簡単だった。なんせ、私は甘やかされて育ったのだから。このくらいお茶の子さいさいだった。
いざ、扉をあけて本を探そうと、したところで、事前に扉にかけられていた魔法が発動した。
“一番高い確率で悪事を働くのをやめさせる魔法”。詳細はよくわからないけど、様々な属性の魔法が、複雑に混じり合っているらしい。
その魔法のせいで、私は前世の記憶を思い出した。
前世は
そして、『伯爵令嬢は世界を浄化したい』という小説の内容を思い出した。ヒーローたちを始め、魅力的なキャラが多く出てくる、ザ・ラノベって感じの異世界ファンタジーだ。乙女ゲームに近い要素もあった。
まあ端的にいうと、その世界がそっくりそのままここにあるのだ。違うところは今のところ思いつかない。
その小説の主人公はミリッツェア・アントネッティ。
彼女が彼女にしか使えない特別な聖魔法で、仲間と共に世界を魔王の悪の手から救っちゃう系の話だ。笑いあり、涙あり、恋あり、友情ありのハラハラドキドキする展開で、かなり人気があった。
最後は苦しみながらも魔王を倒し、マカリオス第一王子・ブライアンと結ばれてハッピーエンド。めでたしめでたし。
ちなみに私、ルシール・ネルソンは、ばりばりの悪役だ。
婚約者のブライアンに近づく、ミリッツェアが許せなくて、様々な犯罪まがいのいじめをする。それがバレて婚約破棄をされたルシールは、嫉妬に狂って悪魔と契約する。だが、体の主導権をほぼほぼ悪魔に握られ、ルシールの意識はなくなってしまった。
ルシールというか、中身の悪魔はかなりキーパーソンである。魔王を復活させ、ルシールが改心したような演技をし、学園に通い、ミリッツェアを叩き潰すその時をひっそりと狙っていた。中ボス的な役割を果たしている。この伏線は長い間、解決されることはなく、本当にルシールが改心したのだと騙されてしまったのを覚えている。
つまり私は、世界を支配しようとする悪の軍団の仲間入りをしようとする直前だったのだ。悪魔と契約していたら終わっていた。人生詰んでた。
魔法がうまくかかってよかった、うん。本当にありがとう。
そうして、私はルシール・ネルソンの人生の回想を終えた。
なんていうかあれだな。ここまで小説通りとは、凄い凄い。でも、
魔王が復活しないかもしれないなぁ。まあもう、私には関係ないけど。関係ないと信じたいけど。
さて、ここで問題が一つ浮上する。このままルシール・ネルソンとして、ネルソン公爵家として生活していると、地下書庫に入って、悪魔と契約しようとした罪が裁かれるかもしれない。
あと、ミリッツェアをいじめていた件についても言及されるのは間違いなし。罰は重くなるに決まってる。最悪死刑だ。それは避けたい。
そもそも、悪いのは前世の記憶を思い出していない頃の、我儘令嬢な
なんで、ミリッツェアなんかいじめたのさ?! 余計なことしてくれるな、ルシール?! いや、私のことなんだけどさ?!
辛い。まじ辛い。主人公気質の子だと、ちゃんと罰を受けるんだろうけど、あいにく私はそんなんじゃない。辛いなら逃げたいし、苦しいことは回避したい。楽して生きていきたい。
流石に自分でやった罪は、そこそこ真面目に償おうとは思うけど、今回のはちょっと例外。やったのは、私であって、私ではない。
そういうことにしておこう。これから気をつければ良いのだ、うん。まあ、もう誰かをいじめることなんてないと思うし! 貴族様なんて特に!
うーん、どうしようこれから。公爵令嬢をやるのもぶっちゃけめんどくさいんだよなぁ。
逃げるかなぁ。逃げちゃおうかなぁ。逃げるかぁ!
国境越えればなんとかなるでしょ!
うん、そうしよう。いい案だ決まり!
そうして私は隣国に逃げることを決意した。
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