10輪 夕陽の約束


 次の日の朝


 そそぎ灘タワーに覆いかぶさるように巨大な繭ができあがる。


 でも、それを知るものは少ない。



 #######



「これが君にとって最期の戦いになるドリル」



 私に向かって妖精が話しかけてくる。



「後悔しないドリル?」


「後悔はすると思う。ううん。今、後悔してる」


「それでもやるドリル?」


「うん! これで魔法少女たちの戦いが終わる訳じゃない。でも、魔女の計画を阻止しないと、きっと後悔するから!」



 私は家の屋根から飛び降りる。



「ありがとうみんな。ありがとう、世界」





 ハリーポッターが乗るような恰好のいい箒で私はタワーへと向かう。


「よう。彼女。ちょっくらタワーまで乗せてってくれよ」


「ヒカリ――」



 私の行く手を遮るように一人の魔女が宙に浮いている。



「俺はコルトだ。その名で呼ぶんじゃねえ」



 コルトは私に杖を向ける。



「今すぐここから逃げ出しな。そうすりゃ、お前は普通の女の子として一生を終えられる」


「ねえ。コルトはどうして魔女になったの?」



 私は素朴な疑問を口にする。



「そりゃあ、何もかもを犠牲にしてでも叶えたい望みがあるからだよ」


「それは魔女にならないと叶えられないものなの?」


「少なくとも、魔法少女のままでは叶わないだろうな」


「そこをどいて。コルト」



 私はかつてのともだちのように接する。



「残念ながら、それだけはできねえな!」



 だが、目の前の赤髪の魔女は私の敵であるようだった。



「そう。じゃあ、二人同時に相手をしてあげる。いるんでしょう? ナミ」



 すると私の背後に艶やかな黒髪の魔女が現れる。


 口をマスクで覆い、両手にはパペットをつけている。



「あなたの名前はなんて言うの?」



 私はかつての友だちを別の名前で呼ぶのなんか嫌だった。


 でも、もう敵なんだ。私が敵にしてしまったんだ。


 だから、せめて、敵として葬り去る。



「オレの名前はウェッソンだ」



 うさぎのパペットは言った。


 腹話術のようだった。



「わたしはスミスです……」



 もう片方のパペット、くまのパペットは消え入りそうな声でそう言う。



「そう。あなたも私と戦うの?」


「当たり前だろ?」



 うさぎが言う。



「でも、怖いです……」



 熊が言った。



「普通は逆なんでしょうに」


 私は戦う意思表示として、バトンを取り出す。


「さあ、いっちょ、最期の戦いと行きましょうか!」



 #####



 わたしは家から出れなくなっていた。


 どうして生きているんだろう。


 どうしてわたしが魔女にならなくて、魔女にならなくてもいいような二人のいい子たちが残虐な存在に変わり果ててしまったのだろう。


 全てはわたしのせい。


 でも、わたしには何もできない。


 朝からそそぎ灘タワーに大きなワームが取り憑いているのが見えていた。


 誰も騒いでいないということは、見えるのはわたしたちだけなのだろう。


 そして、きっとあの子は、太陽のように明るいあの子は、たった一人でもあの塔へと向かうのだろう。



「ツキは行ったドリル。ソラは行かないドリルか?」


「行けるわけない。わたしはとんでもないことをしてしまった! もう、誰にも合わせる顔なんてない!」



 わたしが愚かだから。自分を守ることしか考えていなかったから――


 でも、ワームはただでさえ強くなってきていたというのにあんなに大きなワーム、例え何人で戦ったって――



「わたしは何にもできない子なの。情けない子なの。そんな子、いるだけで迷惑でしょう?わたしはツキちゃんみたいに何でもできるような子じゃないの」


「本当にツキは何でもできる子だと思っているドリル?」


「え?」



 わたしは顔を上げて妖精を見る。


「ツキはとっても普通の子ドリル。成績も、得意な科目がない代わりに苦手な科目もない。なんでもそこそこできるけれど、突出して上手くはなれない。イスカの目から見れば、まだソラの方が何でもできるように見えるドリル」


「わたしはちょっと絵が上手いだけで、その他は普通だし――」



 でも、世の中にはどれだけ頑張っても絵が上手くなれない子だっている。


 つまり、わたしは恵まれているんだ。



「でも、じゃあ、どうしてツキちゃんはあれだけ頑張れるの?どうして戦えるの?」



 わたしにはツキちゃんが自信に満ち溢れていて、とても羨ましく思えていた。


 でも、ツキちゃんから見たら、わたしの方が羨ましかったのだろうか。



「ツキも自分に自信がない方だったドリル。でも、ツキには守りたいものができた。そのために、命を捨ててもいいと思えるほどのものを私はみんなからいっぱい貰ったって。ツキは魔法少女になる前にそう言ったドリル」


「そんなの……間違ってるよ」



 自分を大切にしないなんて。自分の命よりも誰かの幸せの方が大切だなんて――



「そんなの、間違ってる!」



 そんなことで――



「そんなことで守られて嬉しくなんかないよ!」



 そんな時、塔の上から町を二つに割る光線が放たれる。



「エボルワームがとうとう進化を始めたドリル」



 わたしはコンパクトを握りしめ、家を飛び出した――



 ####



「アンタたち、意外と相性良かったのね」


「うるせえ!」


「そうだぞ!なんでオレがこんなメスゴリラと」


「ウェッソン……そんなこと言ったら――」



 くっ。


 私は急いでその場から離れる。


 私が離れるとすぐさまその場が爆発する。


 爆発というよりも粉々になる破裂なんだけど。



「ひやー。すごいわね。馬鹿力ってやつ?」



 魔法には力は関係ないと思うけど、どうなんだろう?


 魔女にも筋力とかのステータスはあるのかな。



「魔法少女にだってねえだろうが!」



 地面すれすれを翔る私に向かってコルトは魔砲を放ってくる。



「私はアンタをそんなしつこい子に育てた覚えはないわよ!」


「じゃかましい!」



 次々と魔砲が放たれてくるけど、簡単に避けられる。


 一本気なヒカリの性格らしい、表裏のない一直線な魔砲だった。



「しゃらくせ!」



 前言撤回。


 あの野郎、わざとパターン化して私を誘導しやがったな。


 私は魔砲をバトンで跳ね返す。



「やっぱり筋力が上がってるじゃない。胸筋も増えた?」


「増えるか!」



 突然私の前に岩が現れる。


 恐らくそれは魔法で作ったものだ。


 でも、その真意はそこにはなく――


 私は箒を加速させて岩に沿って垂直に上っていく。


 そして、恐らくそろそろかなというところで岩から離れる。



 瞬間、概念を突き崩す攻撃が炸裂し、岩は粉々になって私に襲いかかった。



「くっ」



 岩は砂ほどまでに粉々になったから痛くはないけれど、破裂した時の風にあおられて、私と箒は吹き飛ばされる。


 そこにコルトの魔砲が襲いかかる。



 私は箒から飛び降りて、それを逃れる。



「ったく、夏の超大作映画?これを実写化するにはハリウッド並みの予算が必要だけど?」


「スケールでかいな、お前」



 けらけらとうさぎが笑う。


 このうさぎ、可愛くない。



「なんだと!?」


「ウェッソン。落ち着いて」


「この恨み、はらさいでか!」



 ナミだったものはうさぎとくまのパペットを前に突き出す。


 それがナミだったものの、いいや、スミス&ウェッソンの攻撃の仕草だった。


 スミス&ウェッソンの攻撃はどこに当たるか分からない。


 でも、攻撃という性質上、私に当てなければ意味がないわけで――



「もっといろいろ擬音を使って臨場感を演出してあげたいけど!」



 びゅくっ。



「本当に悪ノリしかしないわね」



 私はその場からタイミングを見計らって回避する。


 無色透明な、暗殺のために生まれたとしか思えない攻撃が、私のいた地面を炸裂させる。



「ええい!らちがあか――」



 瞬間、私は世にもおぞましい何かを感じる。


 星の慟哭にも似たそれは、この世のものではない。


 そう。この世界から隔離され続けた場所でひたすらに時を刻んで、全てを漆黒に変えた、もはや現象に似たもの――



「ちくしょぉおぉおぉおぉおぉおぉ!」



 私は箒を作り出し、タワーと魔女たちとの間に回り込む。



「なんだ?とち狂って――」


「私の裏に隠れなさい!」



 瞬間、私たちを世界の慟哭が襲った。



 #######



 そそぎ灘タワーの頂上には一人の魔女がいた。


 白い髪に琥珀色の目が特徴的な少女。


 タワーの風に吹かれて、黒いドレスは大きく揺れる。


 その幻想的な少女の色合いに一つだけ不調和なものがその右手に握られていた。



「さて。調子はどうだい?ロスト」



 その魔女の名をザウエルという。


 ザウエルは、目の前にこべりつく、がん細胞のような塊に語りかけた。



「まだ目を覚まさないか」



 ザウエルはうっすらと笑みを浮かべると、右手をまっすぐがん細胞に向かって延ばす。


 少女の色白の腕の先には拳銃が握られていた。


 Sauer & Sohn 38H。


 少女と同じ名を冠する拳銃である。



「銃というのは、弾を込めないと意味がないわけだ」



 ザウエルは拳銃からマガジンを取り外す。


 そして、マガジンへと器用に4発の銃弾を込めていく。



「4体の完成体ハザードワームだ。しっかりと受け取れ」



 パンパンパンパン。


 場違いに乾いた音がそそぎ灘タワーに響き渡った。


 次の瞬間、ガン細胞は妖しく発光し――


 さなぎのようなその体から魔力の塊を町に放出した――



 ######



「ううぅ――」



 その魔砲に触れただけで分かる。


 これを放った敵はもう、人間じゃない。


 ただ、純粋な憎悪が寄り集まってできただけの、そんな邪悪でしかない存在。すでに生命であることさえ止めてしまっている。



「ぐぅう――はぁあ!」



 私は盾を作り出し、そこから変質系で硬度を増す概念を付与させた。


 それを強化系で補強して、縦の表面から数センチ先を変化系で変化させ、なるべく盾への負担を少なくした。



「殺す気か!」



 頭痛がして、目の前がふらついて仕方がなかった。


 ついでにヒロインあるまじきことに、吐いてしまう。


 朝食べた納豆が出てしまって、ただでさえにおいがきついっていうのに、なんというかもう、なんなんだというかまあ――



「くふぅ」



 町を割るほどの魔砲を何とかやり過ごした私はその場にへたり込む。



「おい。休んでる暇はねえぞ」



 ああ、やっぱりか。


 コルトは私の首筋に杖を向けている。


 ここまでなのか。私は。



「ったく、満足そうな面してんじゃねえよ。なんだ、お前。俺たちなんざ守らなくてもよかっただろうが」


「そんなこと、出来るわけないでしょ?」



 それでも、どんなことがあっても、ともだちなんだから。



「さ。早く私を殺したら?コルト。それがアンタのやりたいことなんでしょ?」



 私にはなんとなく分かっていたのだ。


 ふたりの魔女が魔女になるべくして魔女になったことに。



「俺をみくびんじゃねえぞ! 月影夜空!」


「へ?」



 なんだか間抜けな声を出してしまう。



「なんでその名を――」


「ぜってーに忘れねえっつただろーがよ。お前が忘れてどうすんだよ」



 コルトは私の首元から杖を離し、スミス&ウェッソンに向ける。



「魔女は別に記憶を消されたわけじゃねえ。今まであったことを一つ残らず覚えてる。ただな、そこに感情が宿らねえだけでよ。思い出を思い出しても、それは思い出じゃなくてな。ただの記憶というかデータに過ぎない。つまり、思い出してもそれが楽しい思い出なのか、悲しいトラウマなのか分からねえってことなんだよ」


「じゃあ、なおさら――」



 コルトはバカにしたように笑った。



「だから、俺はお前に手を貸すとは言ってねえだろうが。初めから最後まで、俺は俺のやりたいことをやるって言ってるだろ?そのためなら、魔女だって、世界だって敵に回す」


「魔女ってのは変わりものね」


 そういうところは、本当に変わってない。


 私以上に誰かのことを想っていて、私以上に正義の味方だった。


 花火ファイアー・アーツは。



「だから、下の名前で言うんじゃねえっつってんだろ!」


「しもの名前?」


「テメェ、帰ってきたらケツを百叩きだ」


「叩かれたいの?」



 言ってろ、とコルトはここに来て初めての笑みを見せる。



「まだ立てるんなら急げよ。月影夜空。この暴走女、何するのか分かったもんじゃねえ」


「アンタも気をつけなさい」



 私は力を込めて立ち上がる。


 うん。大丈夫。


 まだ立ち上がれる!



「波野司! 私はアンタの名前だって覚えてるんだから! どれだけ忘れて欲しくっても、泣いて懇願しても、忘れてやらない!」



 でも、司ほどの美少女によがり泣きされたら、考えちゃうかも――



「心変わりしないうちに早く行けよ」


「うっさい。バカ」



 ほんと、いつも通りの私たちだ。


 ただ一人、赤井南空がいないけれど。



「せめて、恋愛がしたかったな! というか、もう百合小説扱いされちゃうかもしんない!」



 私はそそぎ灘タワーに向かって走り出した。



 #####



 家を出てすぐの森を抜けると、市街地に出る。


 そそぎ灘タワーは市街地の真ん中にあるんだけど――



「どう……して……?」



 魔法は原則として現実世界に影響を及ぼさないはずなのに――


 町は崩壊していた。


 あちらこちらで火の手が上がり、人々の泣き叫ぶ声が聞こえる。


 わたしはコンパクトを握りしめる。


 魔法ではどうしようもないことだ。


 わたしの魔法では目の前の悲しみを笑顔にすることなんてできない――


 そんな時に都合よく崩れかけた家からテレビが見えていた。


 何の奇跡なのか、きちんとテレビ番組を映していて、人々はその映像に釘付けになっている。


 災害の情報かと思いつつ、それはいくらなんでも早すぎるとわたしは思った。


 こんな声が聞こえてくる。



「さて。今日はこの町の名物、そそぎ灘タワーに来ています」



 とても聞き覚えのある声だった。



「この町は皆さんもご存じの通り、緑に囲まれた、とってもいい町です。みなさんも温かくて、空気もおいしくて。そんな町の名物が、あの大きなタワー、そそぎ灘タワーなのです!」



 崩壊しきった町の元の姿を映し出すさまは滑稽でしかないだろう。


 けれども、人々はぞくぞくとテレビに集まってくる。



「私は魔法少女ツキです。魔法少女である私はこの町で生まれ育ちました――」



 ツキちゃんの笑顔につられてみんなは頬を緩める。


 こんな絶望の中でも、笑顔は生まれていく。



「私にはとっても大切な友達がいます!」



 心に響く声。それは魔法よりも魔法のように人々に染み渡っていく、希望の光。



「その子たちはいつも私を支えてくれます。とても情けない私をいつも助けてくれて。だから、私はこの町と、そのお友達を育ててくれたみなさんが大好きです!」



 だから、命を懸けて守ろうというのだろうか。



「そんなの、違うよ。夜空」



 わたしは初めてその名を叫んだ。



「わたしたちには、夜空が必要なの! ずっとわたしたちに笑顔をくれた、月影夜空が!」



 わたしは魔法少女に変身しようとする。


 でも、コンパクトは反応してくれない。



「花火も、司も、わたしも――夜空が大好きだった!そんなあなたがいなくなった世界なんて、あったって仕方ないじゃない!」



 魔法なんてなくたって、大事なともだちのもとに向かうことができる。



「ぴんちだ ぴんちだ どうにもならない――そんなとき!」



 再び町を切り裂かんと黒い魔砲が迫る。



「魔法少女が欲しい!」



 わたしはコンパクトを掲げる。


 その瞬間、わたしを光で包みわたしを魔法少女に変える。



「ぎりぎりまで がんばって」



 バトンを振り、町を守るための巨大な壁を作り上げる。



「ぎりぎりまで ふんばって」



 壁にひびが入り、壁が崩れる。けれどもわたしはさらに壁を作る。



「月影夜空とともに笑える青空が! わたしは欲しいから!」



 それがわたし、赤井南空の最期の願いだった。



 #####



「苦しんでいる人々を見捨て――うわっ」



 私はザウエルに向かって魔砲を放つ。



「人が話している最中に攻撃するのはルール違反じゃないかな?」


「ふぇーず4の攻略方法なんだから、仕方ないじゃない」



 ただでさえ、私にはもう時間が残されていない。


 体中から嫌な汗が噴き出している。



「どうした、魔法少女。れべる7の実力はそんなものなのか?」


「うっさいわね!」



 私が体調を悪くしているのには時間が迫っているという理由とともに、目の前にあるとんでも生命体が原因でもあった。



「ねえ、ザウエル。アンタはコイツがなんなのか分かってるの?」


「ああ。世界を破壊し全てを繋ぐ者だ」


「どこの10年前のらいだーよ」



 だが、目も前の化け物はそんな簡単なものじゃない。


 全てを殺しつくすまで、破壊しつくすまで終わることのない、災厄だ。



『殺す、殺す。全てを、目に映る全てのものを、耳にする全ての事象を、殺しつくす――』



 私の耳に入ってくるのは折り重なるように放たれる呪詛。



「この中に一体何人入ってるのよ」


「もともとのワームの中にも相当数の人々が入っているんだ。このロストはどのような存在かなど、もう、実証もできないね」


「アンタ、それを知ってて、こんなことを?」


「ああ。ちなみに、君の大切なおともだちの心のほとんどもこの中に入っているよ」



 あっ。


 切れた。



「ねえ、アンタ。一つだけお願いを聞いてくれるかしら」



 私は自分の中に暴れ出す何かを精一杯抑え込む。



「なんだ?」


「今すぐ逃げなさい!」



 もう、限界だった。



 私の背中から妖精のように透き通った羽がせり出してくる。



「これは――」



 だから、早く逃げろっつってんでしょうに!


 はざーどれべる7。


 それはもう人間ではない。


 私はコンパクトを手にした時から、人間でない何かになることを宿命づけられていた。


 私は箒を使わず宙に浮く。



「おい、何をしようと言うんだ!離れろ!お前ごときが傷一つ付けられるわけがないんだ!」



 そう言いつつも、ザウエルは私に攻撃してくる。

 けれど



「ごめんね」



 ザウエルの放った魔法は私の意志に関係なくザウエルに跳ね返っていく。


 そして、私はそそぎ灘タワーのワームのもとに近づいて行く。


 そう。終わりの時だ。


 私の体はどんどんと光を増していく。


 体全体に力が行き渡る。



「もっと私に時間があれば、あなたたちを笑顔にできていたかもしれない。だから、ごめんね」



 そして――


 ほんの一瞬だけ世界から音が消えた――



 ####



 体中を消し飛ばしてしまいそうな光がだんだんと引いていく。



「なにが起こったの!?」



 わたしは辺りを見渡す。


 そしてすぐに異変に気がついた。



「ワームが消えている――」



 ワームが存在していた辺りのそそぎ灘タワーは、削れてしまっていた。


 まるで世界からそそぎ灘タワーの一部だけを、ワームの存在だけを切り取ってしまったかのように――



「夜空!夜空はどこ!?」



 わたしは立ち上がろうとする。


 けれどもすでにそれだけの力がない。


 体に力が入らなくて、ぼーっとする。


 そんなわたしの頬に一枚の花弁が引っ付いて来た。


 愛くるしい桜の花びらで、まるであの子のようだと思った。


 特に理由もなく嫉妬して、特に理由もなく、わたしはあの子を一人で死地へと追いやってしまった。


 月影夜空。


 もう一人のソラちゃん――


 わたしはソラちゃんがこの世界から消えてしまったことを悟った。



 #######



「随分とひどくやられたみてェじゃねえか」


「君がいうかね」



 コルトはスミス&ウェッソンによって押さえつけられていた。体中には生傷が絶えない。



「本当になんなんだ、あのはざーどれべる7は。本当に人間じゃなかったのか」



 ザウエルは八つ当たりにコルトの頭を踏み潰す。


 ザウエルは本気でコルトの頭を潰す気で踏み続けた。



「裏切り者には用はないからな。なんなら、かろうじて残ったエボルワームのえさになってもらうか――いいや!それでは我の気が済まない!」



 スミス&ウェッソンはコルトが傷付けられる様を静かに見ていた。



「あら。とっても面白そうなことをしているわね」


「なんだ?」



 ザウエルは折角のお楽しみを邪魔され、腹立たし気に声のした方を見る。


 そこには黒い髪の魔女が浮いていた。


 人形のような端正な顔立ちに意志の強そうなつり目。


 唇は小さく桃色をしている。


 肌は白く、まるで大和なでしこをモデルに作られたビスクドールのような少女だった。



「あまり、仲間を傷付けるのはよろしくないと思うけれど?」


「お前には関係――」


「やめろ! ウェッソン!」



 腕を掲げ、ザウエルはウェッソンを制止させる。


 ウェッソンは文句を言おうとしたが、ザウエルの腕が小刻みに震えているのを見て、宙に浮く魔女を睨む。



「アンタは、いや、あなた様は一体――」


 ザウエルは一目見た瞬間、感じ取っていたのだ。


 目の前の魔女と己自身は蛇とカエルの関係であると。


 己はただ捕食されるだけの存在であると。


 それほどまでにザウエルと少女との実力の差は開き過ぎていた。



(もう、はざーどれべるとかそういう話じゃない――)


「今宵の巫女は去ってしまったのね」



 黒い髪の魔女は手のひらを水平にして広げる。


 そこ小さな掌に桜の花びらがちょこんと乗る。



(桜の花びら……?)



 ザウエルは桜の花がほとんど散ってしまっていたことを思い出す。



「彼女は運命のもとに訪れる。ずっとずっと奇跡を待ちながら、未だ起こせるものを見つけられていない。だから、少女たちを共として、再び運命のもとに訪れる」



 少女は手のひらにふっと息を吹きかける。


 花びらは風に揺られて遥か彼方へと飛んでいってしまった。



「さて。この物語を終わりに導きましょうか」



 ###



 花びらがわたしの頬から去っていく。かつての思い出とともに、ぽろりぽろりと涙がこぼれる。



「あなたたちは?」



 桜舞う風の中、黒い衣装がよく目立つ。


 それに宙に浮いているのだから、大道芸人以上に存在感があった。



「それは知っているだろう?」



 白い魔女、ザウエルが言った。


 それはわたしにも分かっている。


 だから、わたしはこう尋ねたつもりだった。



『わたしを殺しに来たの?』



 と。


「残念ながら、新しく主人となった人物は無駄な殺生を好まれないようなのでね。君の勝ちだ。魔法少女ソラ」


 少しも勝った気などしない。


 その場にはかつてヒカリだったものとナミだったものもいた。


 二人を魔女にしたのはわたしだ。


 自分の危険を顧みず、ツキのように勇気をもって二人に手を差し伸べていたら、結果はもっと違ったはずだ。


 だから――



「わたしは変わるから! 二人を助けられるように変わってみせるから! だから、だから、待ってて! いつか二人を助け出してみせる!」



 二人の親友は一度だけ振り向いた後、何も言わずに虚空の彼方へと姿を消した。






 次回予告


「ふはははは!我らが次回予告を占拠したぞ!」


「やけにテンションたけーな。白魔女」


「なんだ?パイ×ン」


「そこだけ伏字にすんじゃねえ!ぶっ殺すぞ」


「オレオレ。やっちまえ!」


「ウェッソン。煽っちゃダメだよ……」


「みんな、とっても元気ね。でも、静かにしてくれるかしら。せっかくの昆布茶こぶティータイムなんだから」


「地味にお前もキャラ濃いよな」




『次回、あばよ なみだ よろしく ゆうき』


 うちゅうけいぃじぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃ!


 コルトって特撮が好きなのかしら。


 お、弟が見てたからつい一緒になってみちまったんだよ!


 どこでぎゃばんを知ったんだ?オイ。

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