4-3.データ・クリスタルについて

 こちらでは、作品世界でよく用いられる記憶媒体、データ・クリスタルについて解説します。


 ◇


 データ・クリスタルは、本作品世界では非常に重用されている情報媒体です。

 この世界ではネットが非常に深く浸透しており、これに繋がっていない、いわゆる〝オフライン〟の機器はほとんどありません。

 また、電子化されていない情報も非常に稀です。

 これが何を意味するかというと――ハッキングに対する危機感が非常に強いということです。


 このような世界にあって、最強のセキュリティは――オフラインです。

 〝大切なものは、通常はネットから切り離して保管しておく〟という考え方。もちろん使う時はネットに繋げばいいのですが、そうでない時までハッキングを恐れる必要がなくなります。


 実は、生身のままの電脳化技術である〝ソフト・ワイアド(Soft Wired)〟もその一環。脳神経をネットから隔離しておけば、心身をハッキングされる心配もないわけですね。


 そこで、問題になるのが。

 オフライン保管しておいたデータの信憑性です。

 実はオフラインということは、〝その間にどれだけ改変を加えられたか〟を見張る手段が限られている、ということでもあります。――誰もオンラインで見張っていないわけですから。

 その信憑性を確保するための仕掛けが、データ・クリスタルには施されているのです。ひとたび中身を確定したら、あとは証拠を残さずには改変できない仕掛けですね。


 〝量子刻印〟が、その仕掛けに当たります。

 量子刻印は量子データの特性を活かした仕掛けです。

 量子データの特性を、乱暴を承知で簡単にまとめると。


※1.0~1の間のどの値を取るか、事前(記録時)には判らない。

※2.観測するまで、その状態(値)は定まらない。

※3.ひとたび観測すれば、破壊されるまでその状態(値)は固定される。


 これを応用した思想に〝量子暗号〟がありますが。

 これは3.の特性を活かして、〝観測されたら(覗かれたら)必ず証拠が残る〟という特性を利用しています。


 〝量子刻印〟では逆に、わざと観測を行います。

 これによって量子の状態が固定されます(※2)。その状態を事前に知ることは、全く不可能です(※1)。つまり世界で唯一の値が記録されるわけですね。この行為を誰が称したか、〝刻印〟という名称が通称として通っています。

 なので量子刻印は何度読み取っても同じデータになるわけですが、中身が改変(破壊)されれば刻印が失われてしまう(※3)――つまり改変の証拠が残る、という寸法です。


 この量子刻印を活かすことにより、データ・クリスタルは最強のセキュリティである〝オフライン保存〟でありながら、その問題点である〝信憑性の確保〟に成功している媒体なのです。


 このデータ・クリスタル、中の量子を保護するために、あらゆる刺激を屈折・透過させる構造となっています。なので向こう側が透けて見える、つまり透明な姿です。〝クリスタル〟と呼ばれる由来は、この外観にあるわけですね。


 ◇


 このようにデータ・クリスタルは、有象無象の情報が溢れる中で、〝中身の信憑性を確保しつつセキュリティの面で優れる〟という利点から非常に重宝されています。


 本作品に関わってくださった全ての方へ、感謝を込めて。


 それでは引き続き、よろしくお願いいたします。

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