005  真田優作Ⅳ

「それで、先輩は何をしていたんですか?」

 優作ゆうさく真冬まふゆに入れてもらったお茶を飲みながら訊ねた。

「えっと……、暇だったから料理をしていたの」

「え、あ、料理?」

 優作は戸惑った。敦史たちもコタツに入って、真冬の話を聞いていた。

「真冬先輩……。それって、自分が作ったとは言いませんよね」

「正解だよ。理恵りえちゃん。もう、これが自信作で困っちゃうのよ」

「あ、あの……私は遠慮させてもらいます」

「私もよ。あれは食えたものじゃないし……」

「お、俺も遠慮させていただきます。ゆ、優作が全部食べてくれるって言ってくれましたよ」

「お、おい。なんで俺が……。や、やったー、先輩の料理が食べられるぞ……」

 三人はそれぞれ真冬の手料理を丁重に断り、それを全て優作に擦り付けたのだ。彼女の手料理は、料亭の様な豪華な料理に見えるが、それとは別に問題なのは味である。真冬は、飾りつけでおいしそうに見せている為、初対面の人間が何も知らずにそれを食べると、なぜか、いつの間にかに気を失っているのだ。

 優作たちもそうだった。そして、好意を寄せられている優作は、毎回彼女の手料理の餌食となる運命になったわけで、そのたびに敦史あつしたちは逃げるように言い訳をしている。

「よかったー。今日は優君が大好きな卵焼きと生姜焼き、野菜炒めにしてみたの。食べてみて!」

 真冬から出された者は、生姜焼きと野菜炒め、ここまでは予想通り美味しそうに見えたが、一つだけ、彼女がおいしそうに作れないものがある。

 そう、卵焼きだ。

 皿の上には黒い何かがあった。これを皆、ダークマターと呼んでいる。ダークマターとは、その名の通り、黒い危険物の食べ物である。これを食べたら最後、気を失うどころか、記憶まで消去されるのである。

「な、なあ。この黒い物体も食べないといけないのか?」

「知れねぇーよ。でも、美人な女子には気をつけろと母ちゃんが言っていたから俺は知らない。優作、が・ん・ば・れ♡」

 敦史は親指を立てながらウインクをした。

 目の前のダークマターを見て、優作を大きな溜息をする。食べたら最後というのが、もう嫌だと、拒否反応を起こしていた。

 優作は理恵りえたちを見るが、誰も目を合わせてくれようとはしてくれない。真冬はニコニコと笑顔で、感想を待っているようだ。

「じゃ、じゃあ……。い、いただきます……」

 手を合わせながら、そう言うと、箸に手を伸ばし、恐る恐ると、卵焼きのダークマターに手を伸ばした。

 そして、それを口に入れて噛みしめると、サクサクとした触感があり、

「お、おいしいで……」

 あまりにの不味さに、気を失いかけそうになるが、何度も食べているせいか、何とか耐えられる所まで免疫がついてた。

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