波乱の夏休み

第7話

 紗弥の試着待ちの最中、高志は店の中の女性から視線を感じていた。

 高志以外のお客さんは女性ばかりで、他に男性客はいない。


(こ、これは結構……きっつい……)


 背中から変な汗が噴き出すのを感じながら、高志は紗弥の試着が終わるのを待つ。

 そして数分後……。


「お待たせ、どうかな?」


 試着室のカーテンが開き、その中から水着姿の紗弥が姿を現す。

 白をベースにピンク色の模様が描かれているパレオがついたビキニだ。


(可愛い……)


 高志は水着姿の紗弥を見た瞬間、目が離せなくなった。


「高志? 高志!」


「え……あ、あぁごめん。可愛いよ」


「なんか、間があった気がする……」


「いや、その……見とれてました……」


「そ、そっか……なら……これ買ってくる」


「う、うん…」


 なんだか気恥ずかしい空気が流れる。

 水着は言ってしまえば下着と面積が変わらない。

 そのため高志は、紗弥の水着姿に顔を赤らめ、紗弥も高志に見られ、すこし恥ずかしかった。

 早めに買い物が済み高志は安心した。

 あの場所に長時間居るのは男にとっては辛い。

 水着を買い、高志達は店を出て近くのファミレスでお昼を食べていた。


「水着も買ったし……これからどうする?」


「うーん、外も結構暑いし家で映画でも見る?」


「そうね、チャコちゃん寂しがってそうだし」


「出かける時、仕切りに鳴いてたからな……」


 玄関先で高志と紗弥がどこかに行くのをみたチャコは、仕切りにニャーニャーと鳴き声を上げ、自分もついて行こうとしていた。

 高志の母親に捕まり、玄関先で悲しげな鳴き声を上げながら見送るチャコからは、悲壮感が漂ってきた。


「おやつでも、買っていてあげよっか」


「そうね、じゃあコレ食べたらいきましょうか」


 食事を終え、高志と紗弥は家に帰宅する。

 家に帰るとチャコが玄関の前で座って待っていた。


「にゃー」


「ただいま~チャコちゃん」


「にゃ~にゃ~」


 帰って来て、チャコが一番にすり寄って行ったのは紗弥の方だった。

 高志は自分が飼い主なのに、なんだか負けた気がして少し寂しくなった。


「俺……飼い主だよね?」


 紗弥にばかり甘えるチャコを見て、高志は若干ヤキモチを妬く。

 ここは買ってきたお菓子でチャコの気をこちらに向けようと、買ってきた猫用のおやつを出す。


「ほ~らチャコ~、美味しいおかしだぞ~」


「にゃ……」


「あら? 要らないのかしら」


「チャコ……もしかして、俺の事嫌い?」


「にゃ!」


「にゃ! じゃねーよ!」


 おやつに見向きもせず、チャコは紗弥の胸の中でうずくまる。

 この前の浮気騒動から、チャコはあまり高志に甘えない。

 どうやら原因はそれらしい、家の中の空気を感じ取ったのだろう。

 高志と紗弥は、いつも通り高志の部屋に行き、映画を見ていた。

 あまり外出していると、お金も直ぐに無くなってしまうし、暑い外に行くよりも家デートの方が楽しい言うインドア派の二人が良くするデートだ。


「チャコ~おいで~」


「………フン」


「とうとう鳴き声まで出さなくなったか……」


 チャコは相変わらず紗弥の膝の上に丸まり、紗弥に甘えている。

 そんな姿を見て、高志は二つの意味で羨ましいと思ってしまう。

 一つは紗弥に甘えるチャコ。

 もう一つはチャコに甘えられる紗弥。

 どっちでも良いから、その場所を変わって欲しいと高志は内心思っていた。


「高志が浮気みたいな事するから、チャコちゃんも怒ってるんだよね~」


「にゃ~」


「う……ね、猫にそんな事が……」


「だって、チャコちゃんも女の子だもんね~」


「にゃ!」


 そう言えばそうだったと、高志は思い出した。

 そんな事を思っていると、チャコは立ち上がり部屋の中をうろうろし始める。

 

「あら? どうしたのチャコちゃん?」


 チャコは本棚の裏の隙間をかりかりし始める。

 それを見た高志は顔を真っ青にし、ヤバイと思い始める。


「ニャー!」


「ん? そこに何かあるの?」


「無い! 何も無い!! チャコ~そんなところで爪研いじゃダメだろ~?」


「ニャー!! ニャー!!」


 高志は暴れるチャコを抱きかかえて、本棚の裏から離す。

 しかし、既に遅かった……。


「ん? 何かあるわよ?」


「あ! いや!! それは!?」


 紗弥は本棚の裏に挟まっていた本を取り出す。

 それは、高志がこっそり買っていた成人指定の本。

 毎回場所を変えて隠していたのだが、運悪く今日は見つかってしまった。


「こ、これって……」


「あ、いや! コレは……その……」


 (最近こんな事が多い気がする……)


 そう高志は思いながら、紗弥への言い訳を考える。

 紗弥は高志の本「制服姿の甘い誘惑」の中身をめくりながら、顔を真っ赤にする。


「……高志のエッチ」


「待って! 違うの! コレは、その……」


 言い訳なんて出来るはずも無い、高志がその本を買った理由は百パーセント邪な理由だからだ。


「ん……皆、胸大きい……」


「そ、それはたまたま……」


「しかも、全員学生服……」


「た、たまたまだって!」


「私が居るのに……」


「す、すみません……」


 そりゃあ高志だって健全な男の子だ、そう言うことに興味がある。

 紗弥だってそれはわかっているつもりなのだが、こうして目の当たりにすると、少しムッとしてしまう。


「チャコ~……」


「ニャ」


 チャコは紗弥の膝の上に戻り、高志をジーッと見て鳴き声を上げる。

 夏が始まってから、こんな事ばっかりな高志。

 今度からは隠し場所をもっと考えようと、堅く心に誓った。

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