第8話



 夏休みに入って一週間、紗弥は悩んでいた。


「はぁ……」


「どうしたの紗弥?」


 紗弥は今日、由美華と共に買い物に来ていた。

 買い物と言うのは口実で、実際は由美華に愚痴を聞いて欲しかった紗弥。

 夏服を買った後、二人でカフェに入り談笑をしていた。


「最近、高志と上手くいってない気がして……」


「いやいや、あんたらカップルが上手くいってなかったら、世のカップルはほとんど上手くいってないわよ……」


「そうかなぁ……」


「何かあった?」


「うん……実は……」


 紗弥は由美華に尋ねられ、紗弥は最近の高志との出来事を由美華に話す。


「え? あの八重君が合コン?」


「うん……」


「うーん……それは普通に那須君に無理矢理付き合わされただけなんじゃない?」


「そう思う?」


「だって、自分から合コンに行くタイプじゃないでしょ?」


「まぁ……そうなんだけど……それでも心配になると言うか……」


「気持ちはわかるけどね、一言くらい欲しかったって事でしょ?」


「……うん」


 由美華は紗弥の話しを聞き、これは優一にも落ち度があるのでは無いかと考え始め、優一にスマホでメッセージを送る。





「おい! 聞いてんのか優一!」


「んあ? あぁ、聞いてる聞いてる……」


 高志は先日の合コン騒動の文句を言うべく、ファミレスに優一を呼び出していた。

 優一はスマホを見ながら、高志の話しを空返事で答える。


「お前のせいで大変だったんだぞ!」


「あぁ、それは……運が悪かったな!」


「お前なぁ………」


 優一の言葉に、高志は怒りを通り越して呆れてしまった。


「はぁ……もう、俺はお前に誘われても行かないからな」


「はいはい、それよりもあの日お前に絡んでた夢ちゃんなんだが……」


「どうかしたのか?」


「いや、それほど重要な事じゃない、お前の連絡先を聞かれたから、答えておいただけだ」


「あぁ、なんだそんな事か」


「あぁ」


「……」


「……」


「いや、ちょっとまてぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 高志は一呼吸置いて、優一に向かって叫ぶ。

 優一の胸ぐらを掴み問い詰める。


「なんで教えた! お前もあの修羅場見たよな!? それでなんで教えるんだよ!!」


「いや、教えたら有力情報くれるって言うし……」


「簡単に人の情報を交換してんじゃねーよ!!」


「落ち着け、コレは俺がお前らカップルに与えた試練だ」


「はぁ?」


「カップルってのはな、障害を乗り越えて強くなって行くんだよ。だた仲良いだけじゃ、互いにマンネリになって、いつか自然消滅するかもしれない」


「で、本音は?」


「面白そうだったから」


「よし! 表に出ろ、戦争だ」


 その後、高志と優一はファミレスで騒いだ事で店員さんにこっぴどく叱られた。

 ファミレスに居られなくなった高志と優一は、炎天下の中を二人で背中を丸めて歩いていた。


「あっつい……あぁーあ、高志が騒ぐから……」


「誰のせいだ!」


 熱したフライパンのようになったアスファルトの道を高志と優一はとぼとぼ歩き、どこか涼しいところを探す。

 そんな中、高志は優一になんとか仕返しが出来ないかと考え、とある人物に連絡を取っていた。

 スマホのメッセージアプリを使い、高志はその人物に自分たちの居場所を伝える。


「それにしても……暑いなぁ……ゲーセンでも行くか? 涼しいぜ」


「あぁ、そうだな。それに場所が分かりやすい方が良いな……」


「ん? 何の事だ?」


「いや、別に……」


 高志はスマホを見ながら優一に答える。

 そんな高志を優一は不思議そうに見つめるが、あまり気にはせず、ゲームセンターに向かって歩いて行く。


「さーて、格ゲーでもやーろう」


「おぉ、流石は元ヤンキー」


「いや、別に元ヤンじゃ無くても格ゲーはするだろ……」


 高志と優一は、開いている格闘ゲームの筐体の椅子に座りゲームを始める。

 こう言う時、高志は毎回脇で優一のプレイを見ている事が多い。


「あ! クソ!! 随分やってなかったからなぁ……かなり! きっつい!!」


 ゲームをプレイしながら、優一はそんな言葉を漏らす。

 高志はその脇でスマホを操作する。

 時間が少し過ぎた頃、優一がゲームに集中している頃、高志の呼んだとある人物が到着した。

 高志はその人物に気がつき、席を立つ。

 優一はゲームに夢中で気がつかない。


「優一、俺トイレ行ってくるわ」


「おう! ゆっくりしてこい!」


「へいへい」


 優一は悪い笑みを浮かべながらそう言い、ゲーム機の筐体を離れる。

 そして、優一と入れ替わりで誰かが優一の隣に座る。

 優一は他の人がゲームをするのに座ったのだろうと思い、あまり気にしない。


「よっしゃ!」


 ついに勝利し、優一は思わず声を上げる。

 すると隣の方から声が聞こえて来る。


「優一さん、お疲れ様です」


「おう、ありがと。さて次……に?」


 優一はそこで始めて隣を確認し、誰が座っているかを見る。

 そこには、優一が一番会いたくない人物がニコニコしながら座っていた。


「あ、秋村!! な、なんでお前がここに!?」


「八重先輩が教えてくれたんです! 夏休みで会えなくて寂しいだろうって!」


「あ、あいつぅ~……なんかスマホばっかり弄ってると思ったら……」


 高志の今までの行動の理由がわかり、高志に怒りを覚える。

 優一は席を立ち、芹那から距離を置く。


「ゆ、優一さん……その調子で、今度は私も虐めて下さい!」


「来るな変態! 夏休みはお前に会わなくてすむと思ったのに!!」


「あ! 待って下さいよぉ~!」


 優一は芹那から逃げだし、そんな優一を芹那は追う。

 そんな様子を陰から見ていた高志。


「恋愛の形は人それぞれか……」


 高志は二人を見た後、ゲームセンターを後にする。


「お前も人の愛の重さを知っとけ……」


 そんな事を呟き高志は家に帰る。


「高志ぃぃ!! 覚えておけよぉぉぉぉ!!」


 ゲームセンターからは、優一のそんな叫び声が響き渡っていた。

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