6 トーキングヘッド
「先に聞いときたいんだけど、あなた達みたいな乾パン個体って皆無口なの? それとも中には凄い社交的でいきなりハグしてくるようなのもいるの?」
「端末個体です。そして質問に対しては、ノーとお答えさせていただきます。私達端末個体は元々感情の外部への出力を必要とする存在から生まれたわけではない為、必要以上の人類種との接触はしないのが我々の総意で――」
「ざっけんじゃないわよ!」
宇宙人の少女の声を遮るように、私は声を張り上げる。田中ハナコの頬が反射的にピク、と震えた、ような気がした。
「私達人間はね、言わなきゃ思ってる事なんて伝えられないし、言ってくれなきゃ他人が考えてる事なんかわかんないの! 好き嫌いも要望も不平不満も、愛してるのか愛されたいのかも! だって皆考えている事は人それぞれで違うんだもん。なのにあなた達は何も言わない。そんなの愛せるわけないじゃない! 嫌というほど喋って、お互いに考えてる事をぶつけあって、相手の事なんて何でも分かった気になっても愛しあうなんて難しいのに! 何にも言わずに愛されようなんて、舐めんじゃないわよ!」
「言わなきゃ、伝わらない。考えは人それぞれ・・・・・・」
勢い余って席を飛び跳ねるように立って熱弁する私の言葉を、田中ハナコが呟くように繰り返す。
私達人間は考えて話せる。けれどどれだけ考えてこれなら上手くいくと思って話しても考えた通りにはいかないし、他人も同じように考えて話した内容と食い違ってぶつかって、争いになる事だって沢山ある。
そうやって喧嘩とか、たぶん戦争だって生まれて、最初は皆と愛し合って暮らすために考えてた事がいつの間にか皆を傷つける原因になったりもする。
けれど、それでも、いつかまた皆で笑いあえるよう話し合うことが出来るのも、人間なんだ。
人が考えている事なんてそれこそ人それぞれで、気まぐれだ。
最初は皆同じスタートラインでも、時が経つにつれて、自分が見たものや聞いたものに影響されて、だんだん違う考えになっていく。
そうして人は、色んなものを考え、作ってきたんだ。
一人じゃできなかった、一つの考え方じゃ作れなかったものを。
「たぶん、もしあなた達がたくさん色んな人と喋ったりしていたらきっと多くの人と、それに私なんか霞んじゃうくらい素敵な人と仲良くなれて、愛し合える関係になったと思う。色んな愛の形を知ったと思う」
「喋るという形でしか互いの意思を確認できず、それでもすれ違い、衝突する事もあるなら。愛の形が一つでなく、全ての人間が理解し合える普遍的な答えが無いのなら」
田中ハナコは私の眼に視線を合わせるように立ち上がる。その瞳には揺らぎがあった。
「人はどうすれば争いをやめるのです。この星はどうすれば愛で満たされるのです」
「だからさ、話し合おうよ。”今まで”で諦めるんじゃなくて、”これから”を見てさ。何十年、何百年、ううん、何億年かけて、話し合って、たまには喧嘩して、もう顔も見たくないと思ってもまた時間を置いて仲直りから初めてさ」
面食らったように、田中ハナコの表情の揺らぎは収まった。代わりに彼女の凛とした声が、ほんの少し震えているように聞こえる。
「出来るのですか、それだけの間、たった一つの目的の為に対話し続ける事が」
「今までだってやってきたんだよ。それこそ四十何億年もかけて。だからこれからだって、いつか答えが出る日まで出来るはずだよ。それに」
私は自分の脚がしっかりと教室の床についているのを感じる。教室の床は柱を通って地面に繋がっていて、その地面は世界中に繋がっているんだ。
「私達が生きる地球を守ってくれている人が見た、皆で笑いあっている景色が、未来の地球の姿じゃない、なんて証拠はどこにもないんでしょ? 実際に見てみなきゃ」
私は手を伸ばして机越しに田中ハナコの手を握る。これでまた、繋がった。
「だからさ、田中ハナコ。私と交際を前提に友達になってよ」
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