5 シュヴァルツシルト背景
私は昔から、歯に衣を着させられない子だった。
思った事は何でもはっきりと言うし、嘘は死んでも吐かない子だった。違うと思った事にはすぐ爆発して反論したから、私は友達が出来なかった。
そんな私にも中学一年生の時、初めて私の事を認めてくれる友達が出来た。
名前はアキコちゃん。
おかっぱ頭に眼鏡をかけた彼女はお人形さんみたいにお淑やかで可愛くて、お日様みたいに優しくて暖かかった。
彼女はいつも意地悪してくる男子と喧嘩する私を羨ましいと言ってくれたのだ。「私はヒカリちゃんみたいに堂々と喋られないから、私はヒカリちゃんが羨ましいよ」って、何度も。
私にとって彼女は、何より大切な友達で、遊び相手で話し相手で親友で。
何より大切な、心の底から好きな人だった。
私は昔から、女の子の事を好きになる子だった。
自分と同じ性別の人を好きになる人の事を同性愛者というのだとニュースで見て、私は自分の事だと思った。
彼女の優しさに触れて、温もりに癒されるたびに、私は彼女と友達にしかなれないという事が辛く感じた。
そして中学一年の時の夏休み、一緒に遊びに出かけた帰りに入ったカフェで、私は全てを打ち明けた。
自分が同性愛者である事。自分があなたの事を好きだという事。友達以上の関係になりたい事。全て。
私は心のどこかで、受け入れられてもらえると思っていたのだ。だって私はその時彼女に、堂々とハッキリと喋ったのだから。
堰を切ったように想いを口にし続けた私に、彼女は伏せていた眼を開いて、それまで聞いた事の無いくらいハッキリとした声で言った。
今までそういう目で見てたなんて気持ち悪い。もう関わらないで。
信じていたもの全てが失われるような感覚だった。いつの間にか彼女は帰っていて、私は一人で何時間もその席に座っていた。
それから私は、本心で喋らなくなった。
周りの話に合わせて、周りの行く方向と同じ方向についていけば、嫌われる事は無いのだから。気持ち悪いと言われる事は無いのだから。
あの時、彼女が私に向けた眼の色を、もう見ないで済むのだから。
けれど。
もうこの学校に、ハルミが、ナツキが、フユカがいても、アキコはいない。
私の目の前に向かい合って座っているのはアキコじゃない、田中ハナコだ。
愛を知ると世界が変わるなんて言うし、実際私もそうだった。私の世界観は愛を知って、悲観的なものになった。
ううん、悲観的なものに私がしたんだ。
過去の事にいつまでも囚われて、何も出来なくなるなんて馬鹿みたいだ。
田中ハナコの何の色も浮かんでいない瞳が、たとえ私を侮蔑する色になろうと変化を見せるなら。
私は口を開く。歯に衣は着せない。 堂々と喋ろう。
だって言わなきゃ伝わらないんだから。
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