ある日の夕方、僕は近所の塾から家まで歩いて帰っていた。

すると、ブロック塀の前にしゃがんでいる男を見かけた。男はブロック塀の下にある何かに手を伸ばしたかと思うと、突然立ち上がり向こうへ駆けて行った。


僕は好奇心に押され、先程まで男がしゃがんでいた場所に近づいた。

そして、思わず「うわっ」と声を上げそうになった。

ブロック塀が欠け、地面との間にできた僅かな隙間からニョキッと一本の真っ白い腕が塀の向こうから生えていた。マネキンの腕かとも思ったが、僅かに生えた産毛や薄らと見える血管から考えるに、これほどリアルなマネキンがこんな住宅地の中に落ちているとは考えにくい。むしろ、塀の向こう側に誰かおり腕だけ隙間から出していると考えた方が現実的だ。

「どうしよう・・・。」

このまま一旦家に帰ってお母さんに話してからもう一度来てもいいが、もし誰かが倒れているなら一刻を争う事態だ。

「大丈夫ですか?」

と声を掛けるが返事はない。

隙間から向こうを見ようとしても腕で埋まって全く見えない。

恐る恐るその開いた掌を握ってみると、驚く程冷たかった。

これ以上はもう僕の力ではどうにもならない。家に帰っている暇はないが、せめて周囲に大人がいないか探して来ようと走り出した時、うっかり腕を蹴飛ばしてしまった。


次の瞬間、僕は今度こそ本当に悲鳴を上げた。

僕が蹴った腕は路上にゴロゴロと転がり、骨が剥き出しになったボロボロの断面を此方に見せつけていた。

そして腕は

正確には、腕にいくつも現れた大きな目玉たちが。

瞬時に僕は家まで一目散に逃げ帰った。

翌日から僕はあの道を使うのをやめ、例の腕もあの日以来僕の目の前には現れることはなかった。

だが、今でも時々どこからか睨むような視線を感じることがある。

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