能面の小説家
ある所に、1人の変わり者の小説家が居た。
変わり者と言われる理由は「何時も人前に出る時には『能面』を付けている」からであった。
その小説家の作品は、読む者を魅了し、更にはその人生選択までにも影響を与える程であった。
そんな類稀なる才能にさらに「能面を付けている」と言う個性も相まって、小説家の人気はうなぎ登りであった。
そんな個性的な人物をマスコミが放っておく訳が無い。
多くのマスコミが、競ってその能面の下に隠された素顔を解明する為に奮闘した。
しかし、どんなに小説家を追っても、後少しのところで気付かれる、巻かれるの繰り返しであった。
だが、面の下の顔を解明しようとしたのはマスコミだけでは無かった。
その小説家の担当編集者までもが其の素顔を知りたがった。何故なら、今人気が出ている内に其の素顔を明かす事により、さらに人気を集めようと考えたからだ。
そこで、企画会議の際に出すお茶に睡眠薬を入れ、眠った隙に能面を剥がすと言う計画を立てた。
其の計画は見事に成功し、到頭小説家の顔が拝める時となった。
編集者は、小説家を起こさないように慎重に面を剥がした。
最後まで剥がし終わり、一気に能面を外してみると・・・
其の下には何も無かった。
いや、正確には顔は有った。有ったのだが、それは顔と言っていいのか定かでは無い程に実体の無い空気のようなものが浮かんで居た。
すると突然、小説家が其の実態の無い目を覚まし、其の実態の無い口で人とは思えない奇声を上げ、煙のように消えてしまった。
それからというもの、その小説家を見たものは居ない。勿論、小説の新刊も発行されることはなかった。
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