6-2
「ひゃっはー、みんなこっちだ! こっちにおいでー」
「待ってよー」
狭い公園を若いウサギと数羽の子ウサギがかけまわる。あざやかな小麦色の毛並みはエイトとよく似ている。あれがナインか。
子ウサギがナインをつかまえて一息ついたところでドンガガたちは声をかけた。
「ナインさんですか?」
「そうだけど? あんたたちは?」
問いかけてドンガガが小脇に抱えていたヘルメットを見て目を見開く。
「それはエイト兄さんの! 兄さんに何かあったのかい!」
真剣な目でナインはドンガガのもとへ駆け寄った。ドンガガはエイトの伝言を伝えた。
「兄さんが事故だなんてそんな! デビュー以来ケガをしたことなんて一度もなかったのに」
「お兄様はあなたに後をついでほしいとおっしゃっていました。それでこれをあずかってきたのです」
ヘルメットを見るとナインは少し考え込み、すっと思い立ったように顔を上げた。
「こうしちゃいられない、病院に行かなくっちゃ!」
そう言って子ウサギたちを段ボールへとつめ込み始めた。
「ねえ、ナインもうおしまい?」
「もっと遊びたい!」
子ウサギたちは箱の中で口々にしゃべり出す。
「今日はおしまい、皆お家へ帰るんだよ」
急いですべての子ウサギをかき集めると「あんたたちちょっと待ってて」と言い残し公園をあわてて出て行ってしまった。
二十分後、空の段ボールと共にナインが帰ってきた。ベンチに置いていたショルダーバッグを手に取るとそれをかけないまま「お待たせ、さあ行こうか」と走りだした。ドンガガたちはヘルメットを抱えてそれに着いていく。
足がかなり速くてドンガガたちはついていくのにやっとだった。病院に着くころには汗だくで、喉がかわいたので売店でニンジンジュースを買った。ナインは「先に行ってるよー」と行ってしまった。
ひと休憩して病室を訪れた。エイトは少し笑っていたがナインは大きな目を潤ませて彼の手を取り「兄さん、僕には無理だよ!」と泣きついていた。
「きっとリハビリして頑張ればもう一度選手生活に戻れるよ! あきらめないで」
「ナイン、そんな顔するな。オレは満足してるんだ。何度も優勝して一生働いてもかせぎ切れないような大金を手にした。夢だった五連覇には届かなかったが四連覇も出来た、親孝行も出来ただろう。兄弟をみんな大学へも行かせてやれたし」
「兄さんは、僕の自慢の兄さんなんだ。速くてかっこいい。強くて勇敢で……」
「お前もそうなれる」
「兄さん」
「だってお前はオレの弟だからな」
愛情いっぱいの言葉を告げぐりぐりと頭を撫でる。ナインの目から涙が零れる。
「オレの後を継いでマッハラビット参号に乗ってくれ」
エイトはドンガガからヘルメットを受け取り、それをナインに手渡した。ナインは少し考えたあと、涙をふき無言でうなずいた。
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