11-4

 火の見張り番にペリカンを残し、ドンガガは下着姿のまま大慌てで駆けだした。

二両目を通過し三両目、酔いが回り上機嫌な人々の間をすり抜けてゆく。皆何事かと振り向いたがそれどころではない。四両目の客車ではほとんどの人が座席で寝ていた。カッパーもニッケルもキャシーも夢の中。


 構わず真ん中の通路をどたどたと騒がしく駆けていくと一人の婦人が目を覚ました。ドンガガの姿を見てきゃーっと悲鳴を上げる。その声でみんなが起きた。


 ドンガガは騒ぎに構わず五両目へと走る。ハシビロコウの言う通り境連結部分にカギの掛かった扉があった。


 カギを差し込むとかちりと音がして重たい扉が向こう側に開いた。中は暗くてほとんど見えない。


 ドンガガはドアから入ってくる薄明かりで麻袋を必死に探した。随分荷物が積み込まれていてなかなか見つからない。たくさんの袋を掻き分け荷物の山に潜りこむようにして、ようやく大きなポリ袋の下から小さな麻袋を見つけた。


 中身を確認する。暗がりで良く見えないが手触りと臭いは石炭に違いない。それを掲げるとわっせわっせと走り出す。


 四両目に戻ると皆起きていた。ドンガガの恰好を見てざわめきが起きる。


「どうしたんですか、ドンガガさん?」


 キャシーが問うので「列車が止まるのです!」と慌てて告げて三両目へと走っていく。


 後ろで「ええええ!」と叫ぶ大きな声が聞こえた。


 石炭を気動車に届けこれっぽっちじゃ足りないと言われる。ドンガガはまた五両目へと走っていく。三両目は相変わらず音楽が流れていたけれど四両目は騒ぎになっていた。


「元市長どういうことですか?」


 カッパーが尋ねるので「石炭が足りないのです!」と告げて五両目へと走っていく。麻袋を持つと再び四両目に戻る。


「元市長、我々もお手伝いします」


 カッパーがとニッケルがスーツの上着を脱ぎ、キャシーがレースのグローブを外す。綺麗な恰好をしているのに何だか申し訳ない。


「皆さんありがとう」とドンガガは涙ぐむ。


 皆でわっせーわっせ、わっせーわっせ。


 前へどたどた、後ろへどたどた。


 三両目の乗客も演奏を止めて、踊るのを止めてそれに加わる。最後には四両目の見知らぬ乗客も参加してみんなでバケツリレー。


 十分なほど運び終えるとペリカンが「よっし、終了!」と一声上げる。列車の前から後ろへ「終了だって」「終了だって」と伝言ゲーム。列の最後尾でドンガガは「良かったあ」と袋を降ろして一息つく。


 たくさんの駅を経由して途中ワニの一家とも別れた。列車を降りる父ワニの服は少し汚れていた。恐縮して「お騒がせしてすみませんでした」と謝ると「いえいえ、楽しかったですよ」と言ってくれたのが嬉しかった。


 終着駅の一つ前の駅を過ぎるとすぐにアナウンスが流れる。


「本日はトロッコ列車にご乗車いただきましてありがとうございました。まもなく終着駅、地中の果てへと到着したします。どうぞお忘れ物の無いようお願いいたします」


 気動車の中でそれを聞き終えるとドンガガは普段着を着てリュックを背負った。

ペリカンとハシビロコウに丁寧に一連の謝罪をすると二羽は「まあ、一年に一回くらいはそんなこともあるさ」と笑ってくれた。


 二羽に別れを告げ二両目へと向かうと皆すでにそこにいた。パーティーと眠りの余韻よいんから覚めてややしおれた表情をしている。みんな乗り疲れているのだ。長い旅だった。


 最後の長い長いトンネルをくぐると景色が一変する。


 そこはマグマのように赤い岩肌が目立つ最果ての地、生き物の気配が全くしない希望と絶望の入り混じる場所、まごうことなき地中の果てだった。


 列車はポッポーーと音を立ててホームに滑り込む。ホームは無人駅、看板だけが寂しく立ち、他に何もない。


 心なしか少し息苦しくて暖かい気がする。弱いサウナに入っているような感覚だ。地球の中心だからだろうか? 


 ホームを降りて誰が言うでもなく皆一斉にさかさかと普段着に着替えた。夢のような楽しい時間はもうおしまい。次に着るのはきっとサンペリオに着いた時。


 不意に長が「レリオ、レリオ」と向こうを指さした。そこには大きな湖があった。

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