11-3
駅では何名かの乗客が降りた後、一名の乗客が乗り込んで来た。素敵なマダムのタヌキだった。大きなスーツケース持っており長期旅行に行くことがうかがえた。
婦人が乗り込み、ゴリラの作業員が五両目へ代金の品物を運ぶとリンゴーンリンゴーンと車掌が合図をする。今度の車掌はカワウソだ。
再び列車は走り出す。発車と同時にまた石炭を放り込む。ペリカンとドンガガで交互に絶え間なく。列車がトップスピードに乗ると休みながら様子を見て追加してい く。
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。
じっと音を聞いていると眠くなってくる。
うとうとしているとペリカンが丸椅子を勧めてくれた。遠慮したのだがまた駅を発つときにだけ手伝ってくれればいいというのでお言葉に甘えて椅子の上で眠ることにした。
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。
瞼が自然と落ちてくる。夢に落ち込みそうになった時、急に車体がガコンと揺れて目を覚ます。
運転席の窓ガラスを覗くが相変わらずの土景色。まだ、駅には着いていない。安心して再び目をつむり、次に開けた時は駅だった。
ドンガガは寝ぼけ眼でリュックを開けるとパンの入った紙袋を取り出した。少し時間が経って冷めているがおいしそうな香りがする。
ペリカンがうらやましそうに見ていたのでカンパーニュをちぎり分けてあげた。ハシビロコウにも渡して三人でもぐもぐ、もぐもぐ。
美味しくて噛むと味が出る、ペンギンが勧めるだけのことはあると思った。パンを食べていると目がだんだん覚めてきた。立ち上がると石炭をすくって出発に備えた。
乗ってから五つ目の駅に到着する。その頃にはベテラン乗務員になったいた。
ペリカンもその頑張りを認めてくれたらしく「普段は一人でやっているからあんたがいると助かるよ」とねぎらってくれた。
その次の駅はワンパーク地下という駅だった。
ハシビロコウによるとその駅の地上にはワンパークという巨大な動物たちの遊園地があって名物のホラーハウスはいつも超満員だという。ハシビロコウも小さなころに親に一度だけ連れて行ってもらったことがあるらしく、子供がもう少し大きくなったらもう一度行きたいと言っていた。
必死に作業していたので気づかなかったのだが線路に少し角度がついてきた気がする。少しずつ地下へと潜っているのだろう。
最下点は『地中の果て』という終着駅だとハシビロコウが教えてくれた。ドンガガたちの目指している駅だ。
ちなみにそこに行く生物はほとんどいないという。
深度も深くなり乗り降りする生物がだんだんと減ってきた。
あまりに暑くて途中、下着姿のまま二両目に風を浴びに言ったのだが誰もいなくなっていた。子ワニの姿もない。降りてしまったか飽きて他の客車に移ったのだろう。
気動車に戻るとペリカンがとんとんと肩を叩いていた。随分くたびれているらしい。ドンガガは笑みを作ると丸椅子を差し出した。
「私が番をしています。どうぞお休みになってください」
ペリカンがぶるぶるっと首を振るう。
「これはオレの仕事だ。こいつで飯食ってんだから休むわけにはいかないよ」
「心配には及びません。ちゃんとやりますから」
「でも……」
「リコリス、少し休みな。オレも起きてるから大丈夫だ。何かあったらすぐ起こす、心配するな」
ハシビロコウが眠気覚ましのガムを噛みながら話す。
「うーん、じゃあ分かった。ちょっとだけ、ちょっとだけ休ませてもらうよ」
「はい、お任せください」
「いいか、火加減を見ながら石炭を放り込むんだ。絶やすことなく燃やし続ければいい、五分置くな。あんまり置くと火が弱って列車が走らなくなる」
「分かりました」
ペリカンはよろめくように丸椅子に座り込むと一分も経たないうちにぐったりとして寝てしまった。
ドンガガはスコップを手に持つと石炭をすくった。ざっと炉に放り込むと次の石炭を準備する。火の勢いを見ながらそれをまた放り込む。真面目に丁寧に作業をしているとハシビロコウが「いい調子だ」と褒めてくれた。
次の駅に着いたがペリカンは起きなかった。余程疲れていたらしい。
仕方がないので発車の準備も一人で行った。ガンガン石炭を投げ入れる。
列車は加速してぐんぐんと進んでいく。「あんたなかなかやるじゃないか」とハシビロコウも上機嫌。火を見ながら絶やすことなく焚き続けた。タオルを頭に巻いてまるで職人気取り、それを見てハシビロコウが「親方頼んだよ」と笑った。
作業を交代して三つ目の駅を過ぎてふと気づく。
石炭が残り少ないのだ。
「予備の石炭はどこにあるのですか?」とたずねる。するとハシビロコウが仰天して振り向いた。
「あんたあれを全部くべちまったのか!」
「はい」
「予備なんかないよっ! あれは往復分の石炭だ!」
「なんと!」
「何とじゃないよ、おいリコリス、リコリス!」
ハシビロコウが慌ててペリカンを起こす。ペリカンは、んがっとくちばしを開いてふぁーっとあくびする。
「よく寝たよく寝た、それで今どこだ?」
「大変だ、石炭が無くなっちまった!」
ハシビロコウが焦りの声で告げる。
「くええっ! なんだって!」
ペリカンは羽を逆立てる。
「列車が止まってはいけないと頑張ったのですが……」
「誰が全部燃やせって言った!」
「すみません」
「すみませんじゃないよまったく。……で、どうする?」
「うーん」
ハシビロコウは運転をしながら考えている。ドンガガは頭を捻りポンと手を打ち鳴らした。
「五号車に我々が支払った石炭が有ります! それを取りに行きます」
「本来は後ろの荷物に手を付けちゃいけない決まりになってるんだ」
ハシビロコウが反対する。
「列車が止まってしまっては元も子もないでしょう」
「あんたのせいだけどな」
ペリカンが怒っている。ハシビロコウは懐から小さなカギを取り出した。
「五両目のカギだ。四両目との連結部分にカギがかかっているからそれで開けるといい」
「分かりました」
ドンガガはカギを受け取る。
「ああ、始末書だよ」
ハシビロコウが苦々しい顔をしている。
「そうと決まれば善は急げだ、さっさと持ってきてくれ! このままじゃ停車しちまう!」
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