10-3

「すごおい、なにこれ!」


 予想通り子ネズミたちはカボチャの馬車を見て感動してくれた。四匹が馬車の中に入り、入れなかった子はカボチャの上に乗っかり、それもできなかった子は引手を持ち、残りは馬車を後ろから押している。動きそうで動かない。


 ドンガガが後ろからそっと手を貸すと馬車がゆっくりと動いた。


「わあ、動いたー」


 子ネズミたちはきゃっきゃとはしゃいでいる。動き出した馬車はドンガガの手を借りずとも動いてゆく。


「いいんですか? こんな高そうなもの」

 母ネズミが恐縮している。


「これに乗ってハロウィンに一緒に参加しましょう。皆でパレードに出るんです」

「わーい!」


 子供たちは馬車の中で、上で、回りでぴょんぴょん飛び跳ねている。


 パレードは明日。朝、迎えにくるからそれまで準備をしておくようにと言い置き別れた。近くの巣穴を借りてドンガガたちは床に就く。


 あまりに楽しみでワクワクとしてなかなか眠ることが出来なかった。やっと眠れたと思うともう朝になっていた。




 ネズミの巣穴を訪れるとボディペインティングをしている最中だった。


「ああ、すみません。もうそんな時間?」

 母ネズミが子ネズミにペインティングを施しながら振り返る。


「急がなくても大丈夫ですよ」

 ドンガガはペインティングの終わった子の姿を見てにっこり笑う。


「僕のバイト先の先輩からペンキを少し貰って来たんです。折角パレードに出るんだしこういうのも良いかなって」


 ラッキーは少し恥ずかしそうにしている。血まみれで一瞬驚いたのだがこれも母の作品らしい。


「ほうら、終わった。さっ、行きなさい」


 ペインティングが終わると子ネズミは馬車に乗り込んで隊列を作る。


「ママは?」

 一番小さなネズミがたずねている。


「ママも後から見に行くわ。お兄ちゃんたちの言うことをよく聞くのよ?」

「ハーイ」


 みんなで馬車の窓からばいばいと手を振る。


「行きましょう。いざ、しゅっぱーつ進行」


 ドンガガの掛け声で隊列は出発する。目指すはハロウィン街道、狙うはお祭りの主役だ。




 主役だと意気込んでいたのだが街道に出るとあまりの動物の数に子ネズミたちはすくんでしまった。


「いっぱいいるねえ」


 小さな子がカボチャの中からちょっとだけ顔を出している。折角の力作のペインティングも見えない。カボチャの上の子も腹の下に手足を隠してじっとしている。馬車を引く子も押す子も何だか元気がない。


 ドンガガが何とか元気づけようと声を掛けようとすると、ラッキーが突然ららららーと歌い出した。


 弟たちは顔をひょっこり出すとそれに続いて歌った。



――コウモリたちがやって来たあ、トカゲもネズミも一緒だよ、みんな揃ってハッピーハロウィン、人間たちには内緒だよ、動物だけのお祭りさあ、こっそり僕らは歌いますう



「トリックオアトリート! トリックオアトリート!」


 子ネズミたちに元気が戻って来た。ドンガガが「さあ配って」とお菓子の入ったかごを渡すと喜んで沿道にお菓子の雨を降らせた。


 行きかう動物たちがお菓子にわっと群がる。一人の子が、ばっとお菓子を投げるとカバが大口を開けて待っていた。


 カバはお菓子を全部一飲みにするとげーっとげっぷをした。子ネズミたちは面白がってげらげらと笑っていた。


 沿道に母ネズミの姿を見つけたドンガガは「お母さんがいるよ!」と教えてあげた。すると子ネズミたちは「ママだー!」と喜んで顔を出した。


 彼らがのびのびと楽しんでいるのを見届けるとドンガガは隊列に加わった。スズコのデザインをこれでもかと見せびらかす。キャシーのドレスには着飾った婦人たちも「素敵だわあ」とくぎ付けだった。


 ハロウィンの夜は更けていく。猫も杓子もお祭り騒ぎ。数えきれないほどの動物が思い思いの仮装でパレードに参加し町を練り歩いた。


 町はオレンジのランタン、黒のコウモリのつるし飾り、紫の花やリボンで彩られ実に華やかだった。賑やかなお祭りが終わるころには子ネズミたちもくたくたで馬車の中ですやすやと寝息を立てていた。


 歩いていた子たちも帰ると穴の隅で丸くなる。ドンガガたちは馬車を残し、ラッキーと母ネズミにだけそっと別れを告げた。


 母ネズミは泊っていってくださいと言ったのだが大勢なのでと遠慮した。先日お世話になった穴の中で再び眠りにつく。


 その晩ドンガガはカボチャの馬車に乗る夢を見た。カボチャの馬車に乗って町中を選挙活動するという何とも楽しくて忙しい夢だった。

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