トロッコ列車

11-1

 ドンガガはハロウィン街道で購入したカボチャのランタンを灯しながら歩いていた。柔らかい光で見ていると落ち着く。


 皆にも購入を勧めたのだが石炭が勿体ないと断られ購入したのは結局ドンガガ一人、旅は楽しむものだと言いたかったがこれ以上もがるとカッパーがまた渋い顔をしそうなので一人で楽しむことにした。


 歩いていると次第におしゃれな動物たちとすれ違うようになった。皆荷物を持ってどこかに行っていたような恰好をしている。

 もしやと思いたずねてみる。


「皆さんどちらまで行かれていたのですか?」

「トロッコ列車で旅行してたんだよ」


 スーツを着たペンギンが答える。緑の上下に赤の蝶ネクタイをしていてすごく上品で感じがいい。隣で青のマーメイドドレスを着てつば広帽をかぶった夫人がおほほと笑う。


「リーゴット砂漠で蜃気楼しんきろうを見てきたの、それはもう素晴らしかったわ」


 うっとりとして夢見心地で語っている。


「私たちもトロッコ列車に乗りたいのですがどちらに行けばいいのですか?」


「この道をまっすぐ行ったら突き当りを左手だよ。看板がある。リトルフォレスト地下という駅だ。そうだ、あそこの売店のパンは焼き立てで美味しいからぜひ購入していくと良い」


「ご丁寧にありがとうございます。ぜひそうします」


 丁寧に頭を下げペンギンたちと別れるとドンガガたちは看板を探して歩いた。

しばらくして着くと看板には左リトルフォレスト地下駅、右ワニの住処と書かれていた。


 立ち止まって慎重に確認していると右から三匹のワニの家族がやって来た。やっぱり皆おしゃれをしている。


「あなた方も列車に乗られるのですか?」


 茶色のハット帽を被った父ワニが声をかけてくる。


「ええ、そのつもりです」

「おじさんたちおしゃれをしないと列車には乗せてもらえないんだよ?」


 子ワニが指を指す。


「これっ、そんなこと言うもんじゃありません」

 すぐに母ワニが叱る。


「おしゃれ着だから取ってあるんだよ。駅に着いたら着替えるんだ」


「ふーん、変なの」

 子ワニは興味を持たなかった様子でそう言った。


 父ワニが「良かったら一緒に行きましょう」と言うので連れ立つことにした。


 子ワニと反対に父ワニはドンガガたちに興味津々で、どこから来たのだとか、どうしてそんな大人数なのだとか、地上で一番の観光地はどこだとか、色々なことを尋ねてきた。


 ドンガガが丁寧に答えるとますます興味を持ち、今度地上に行くのだがどこに行くといいかと尋ねるので、三カ月後にリトルフォレストでウサギのF1レースを開催するからぜひ来てほしい、と言うと家族で検討してみるよと言ってくれた。


 父ワニと話しているとあっと言う間に駅に着いた。ちゃんと看板に小さく『右フィンガーランド地下』、『左ワインハウス地下』、真ん中に大きく『リトルフォレスト地下』と書いてある。


 ドンガガたちはトイレで着替えるからとワニたちと別れ列車に乗るための身支度を整えた。


 スーツのボタンを留めると外でポッポーと列車が到着した音が聞こえた。

 慌てて列車に向かおうとしてふとペンギンの言葉を思い出した。パンを買わなくてはならない。


 売店に行くと急いでカンパーニュとバタールと最後に少し迷ってエピを購入した。パンの紙袋を抱えてとことことホームへ急ぐ。


 幸い皆まだ乗り込みの順番待ちで十分間に合った。ドンガガの前にはドレスを着たキャシーもいて彼女もパンを買ったようだった。その前にはニッケルとカッパーもいて足元に石炭の麻袋を準備している。


 ドンガガは、はっとしてリュックから石炭を取り出すと皆と同じように足元に置いた。


 フラミンゴの車掌が前から順に代金の品物の見分をしている。ワニの家族も乗り込んだ。リトルフォレストの面々も乗り込んでニッケル、カッパーと続く。


 車掌はキャシーを見たかと思うと「お嬢さんずいぶん綺麗な恰好をしているね」と褒めた。「乗れませんか?」と彼女が聞くと「とんでもない、十分だよ」と笑った。


 キャシーも乗り込みフラミンゴはドンガガのところへやって来た。

 麻袋の中身をじっと眺めている。


「乗せられないね」


 あっさりそう言うとドンガガを素通りして次の乗客の品を見分し始めた。


 ドンガガは頭の中が真っ白になった。「な、何でですか?」と問うとフラミンゴは見分を続けながら答える。


「石炭にしちゃ少なすぎる」


 ドンガガは頭をフル回転させて何でだ、何でだと考えた。パンを買ったから? カボチャのランタンを買ったから? そんなに無駄遣いをした覚えは……


 はっとする。そうだ、ハロウィンの仮装の代金をまとめて一人で支払ったからだ! 

購入した後、皆に石炭を分けてもらうのをうっかり忘れていた。どおりでカバンが軽かったはずだ。今からでも遅くないみんなに分けてもらおう! 


 そう思ったのだが仲間たちはすでに乗り込んでいて、最後の麻袋がクマの作業員によって五両目へと運ばれている最中だった。


 必死で追いかけたが間に合わない、品物は一緒くたでどれが誰のものか区別がつかなくなっていた。


「あんたもういいかい、出発するよ?」


 ドンガガ以外の人を乗せ終えてフラミンゴが呆れたように言う。

 ドンガガは「どうしても行かなきゃならないんです」と泣きついた。


「困るよ」とフラミンゴがハンドベルを手にする。


 このベルが鳴ると行ってしまう。ドンガガは地に頭を擦りつけて頼み込んだ。フラミンゴは羽を組んでため息を吐いた。




「ドンガガさん、乗ってこないね」


 四両目の客室でキャシーはつぶやいた。


「どうせ二両目のオープン車両に乗ったんだろう? 子供みたいな人だから」

 ニッケルが他人事のように笑う。


 その時ドンガガは一両目の気動車にいた。中は暑くて音が大きい、ごうごうと石炭が燃え盛っている。


「様子を見ながら石炭を放り込め。加速するときは石炭がたくさん必要になるからがんがん入れるんだ」


 ペリカンがヨッと大きなスコップを渡してくる。両手で受け取ると早速石炭をひとすくい、ずっしりと重く腰が抜けそうになる。


「まだだ、入れるのは出発してからだ」


 ペリカンもスコップですくって準備する。口ですくうのかと想像していたがどうやらそういうわけではないらしい。


 車掌が出発のハンドベルをリンゴーンリンゴーンと鳴らす。それと同時にペリカンが「入れろー!」と叫んだ。ドンガガは準備していた石炭を勢いよく放り込んだ。石炭がごおっと赤い炎に包まれる。


 炎が炉からあふれ出て髪をちりりと焼いた。たじろいでいるとペリカンが「休むなー!」と声を上げる。なので石炭を次々と放り込む。


 忙しくて出発の景色など見えもしない。しかし代わりに特等席で運転席が見える、これもまた一興。


 運転手がレバーを下げると列車がガコンと揺れた。シュポーッと大きく煙を吹いたかと思うとシュッシュッ、シュッシュッと音を鳴らしゆっくり動き始めた。

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